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第六章
動く
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「それより、あの件はどうするんだい? クラッセン辺境伯には言わなかったんだろ?」
フィンリーがガラッと面持ちを変えて聞いてきた。
あの件か、クラッセン辺境伯は一番聞かせられない話だ。
「言えるわけもない。今の状況でライブランドが陥ちたなどと聞けば、辺境伯の心痛が増すだけだ。それに、はっきり言って知ったところで何も出来やせん」
「と言うことは、すでに指揮権限は……」
「無い。辺境伯本人には伝えていないが、陛下から西方方面軍司令官の解任命令が来ている。現在は代理として私が軍を預かっているのだ」
「そうかい。それで? アマナ王国への備えは?」
アマナ王国への備えか。
正直、今はそこまで手が回らん。
東のフェンドラ、北のルークリア共和国と警戒すべき相手がいて、この上、西からアマナ王国までとなれば防ぎきれん。
南のナンガァ連邦との同盟もまだ解決せねばならない問題が多すぎる。
このままでは、四方を敵に囲まれた帝国は滅びる。
なんとかせねば……
「この身体さえ満足に動けばなぁ」
「無茶はよすんだね。いくらアンタが全盛期だったとしても1人で解決できる問題じゃないよ。鼻垂れにでもやらせればいい」
『鼻垂れ』とはシュナイデン男爵の事だろう。
報告では、フェンドラの特殊部隊を壮絶な戦いの末に撃退したものの、当人は行方不明になったと報告があったが、意外だな。
「お前はあの報告を聞いても、シュナイデン男爵は生きていると言うのか? お前ともあろう者が、たかが中佐を随分と高く買ったもんだ」
「そ、そんなんじゃないよ! 私より強いとか言われておきながら、敵の罠に嵌った挙句に死んだなんて許せないだけさね! だいたい、こんな大変な時に行方不明だなんて……次にあったら酷い目に遭わせてやるつもりだよ!」
そういう事にしておいてやろう。
全く素直では無いな。
「それより、アマナ王国はどうすんだい? 話ではライブランドの統治は眼中になく、王侯貴族の粛清だけで、次の戦の準備をしてるって話じゃないか」
「ふむ。奴等が次の目標を見定めているとすれば、それは西ではなく東だろう。ライブランドの東、つまり我がヴァランタイン帝国かルークリア共和国だ」
「それで? 帝国の元英雄様はどっちだと思うんだい?」
さっきの意趣返しか?
皮肉った言い方をしおるわ。
「そうだな。元英雄の戯言とすれば、ルークリア共和国だろう。わざわざウルグ山脈を越えて帝国に攻め入るより、共和国の方が攻めやすいからな。帝国は共和国の後でいい。圧倒的強者の余裕というやつだ」
「ちっ、なめられたもんだね。だけど、その余裕が私達にとっての猶予でもある。その間に対抗策は立てないと、ライブランドの二の舞だよ」
わかっている。
ライブランドと我が帝国の戦力はほぼ同じだ。
今のままでは、帝国はアマナ王国には勝てない。
だが、今は解決すべき問題が山積みだ。
西部辺境伯及び西方方面軍司令官を決めねばならんし、アマナ王国の詳細な情報を得ねばならんし、それに対抗する戦力も揃えねばならん。
北の防衛線も強化せねばならんし、未だに混乱している東部と鎮めねば、それに南との関係改善も進めねばならん。
とても手が足りん。
「悩んでも何も進まないよ。とにかく西部辺境伯の後釜には心当たりがある。陛下に進言して通ればそれは解決するさ」
「本当に信頼できる人物なのか?」
「まあね。まぁ、大丈夫さ」
些か不安は残るが、ここはフィンリーに任せるか。
アマナ王国の調査は、あの男に任せるしかあるまい。
「確かに悩んでいても始まらないな。いいだろう、すぐに帝都に帰還する。帝国を守るぞ!」
私とフィンリーは信頼できる部下に事後を任せ、その日のうちに帝都に向けて出立した。
フィンリーがガラッと面持ちを変えて聞いてきた。
あの件か、クラッセン辺境伯は一番聞かせられない話だ。
「言えるわけもない。今の状況でライブランドが陥ちたなどと聞けば、辺境伯の心痛が増すだけだ。それに、はっきり言って知ったところで何も出来やせん」
「と言うことは、すでに指揮権限は……」
「無い。辺境伯本人には伝えていないが、陛下から西方方面軍司令官の解任命令が来ている。現在は代理として私が軍を預かっているのだ」
「そうかい。それで? アマナ王国への備えは?」
アマナ王国への備えか。
正直、今はそこまで手が回らん。
東のフェンドラ、北のルークリア共和国と警戒すべき相手がいて、この上、西からアマナ王国までとなれば防ぎきれん。
南のナンガァ連邦との同盟もまだ解決せねばならない問題が多すぎる。
このままでは、四方を敵に囲まれた帝国は滅びる。
なんとかせねば……
「この身体さえ満足に動けばなぁ」
「無茶はよすんだね。いくらアンタが全盛期だったとしても1人で解決できる問題じゃないよ。鼻垂れにでもやらせればいい」
『鼻垂れ』とはシュナイデン男爵の事だろう。
報告では、フェンドラの特殊部隊を壮絶な戦いの末に撃退したものの、当人は行方不明になったと報告があったが、意外だな。
「お前はあの報告を聞いても、シュナイデン男爵は生きていると言うのか? お前ともあろう者が、たかが中佐を随分と高く買ったもんだ」
「そ、そんなんじゃないよ! 私より強いとか言われておきながら、敵の罠に嵌った挙句に死んだなんて許せないだけさね! だいたい、こんな大変な時に行方不明だなんて……次にあったら酷い目に遭わせてやるつもりだよ!」
そういう事にしておいてやろう。
全く素直では無いな。
「それより、アマナ王国はどうすんだい? 話ではライブランドの統治は眼中になく、王侯貴族の粛清だけで、次の戦の準備をしてるって話じゃないか」
「ふむ。奴等が次の目標を見定めているとすれば、それは西ではなく東だろう。ライブランドの東、つまり我がヴァランタイン帝国かルークリア共和国だ」
「それで? 帝国の元英雄様はどっちだと思うんだい?」
さっきの意趣返しか?
皮肉った言い方をしおるわ。
「そうだな。元英雄の戯言とすれば、ルークリア共和国だろう。わざわざウルグ山脈を越えて帝国に攻め入るより、共和国の方が攻めやすいからな。帝国は共和国の後でいい。圧倒的強者の余裕というやつだ」
「ちっ、なめられたもんだね。だけど、その余裕が私達にとっての猶予でもある。その間に対抗策は立てないと、ライブランドの二の舞だよ」
わかっている。
ライブランドと我が帝国の戦力はほぼ同じだ。
今のままでは、帝国はアマナ王国には勝てない。
だが、今は解決すべき問題が山積みだ。
西部辺境伯及び西方方面軍司令官を決めねばならんし、アマナ王国の詳細な情報を得ねばならんし、それに対抗する戦力も揃えねばならん。
北の防衛線も強化せねばならんし、未だに混乱している東部と鎮めねば、それに南との関係改善も進めねばならん。
とても手が足りん。
「悩んでも何も進まないよ。とにかく西部辺境伯の後釜には心当たりがある。陛下に進言して通ればそれは解決するさ」
「本当に信頼できる人物なのか?」
「まあね。まぁ、大丈夫さ」
些か不安は残るが、ここはフィンリーに任せるか。
アマナ王国の調査は、あの男に任せるしかあるまい。
「確かに悩んでいても始まらないな。いいだろう、すぐに帝都に帰還する。帝国を守るぞ!」
私とフィンリーは信頼できる部下に事後を任せ、その日のうちに帝都に向けて出立した。
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