食うために軍人になりました【一人称版】

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第七章

不意

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「ちょっと、いいかしら?」

 重苦しい雰囲気の中で声を上げたのは、ルーストレームだった。
 こいつは、こいつだけは変わらない。
 皆が顔色を悪くし、額に汗を浮かべる中でも平然としている。
 一体どういう神経をしているんだか、気がしれない。

「なんだ? お前も今は許してやれとでも言うつもりか?」

「まさか。そんな事を言うつもりはないわ。それより、気になる事言ってたじゃない。グランツさんだっけ? リクト君を暗殺しようとしたって、本当?」

「……そうである。あの男、いや、あの青年は3年前に貴殿と引き分けたと聞いた時点で要注意人物となり、1年前に帝国軍中佐となった時には、政治的にも無視できない存在となっていた。だから、我々はこれ以上、彼が力を付ける前に消すべきと判断したのである」

 こいつら、そんな早い時期から目をつけていたのか!?
 道理で暗殺が用意周到だったわけだ。
 それだけ早く目をつけていたのなら、それだけ準備にも時間がかけられただろうからな!

「ふーん、なるほどね。その気持ちはわからなくはないわ。ルークリアでも、リクト君の力については極秘事項扱いだったもの。なんせ、百勇士第二席と対等の力を持つ十六歳なんて、今後の成長を考えたら危険極まりないものね」

「そうである! 我々は国家の安寧を思って行動したまで! 彼に恨みがあったわけでらないのである! 全ては戦争の……」

「ああ、そんな話はいいわ。御託が聞きたいわけじゃないし、貴方に救いの手を差し伸べてるわけじゃないから」

「……では、何が聞きたいのだ」

 グランツは微かな希望を挫かれて表情を険しくした。
 弄んでいるようで、あまり気分が良いものではないな。

「私が聞きたいのは、それは誰からの情報かって事よ。内通者でもいない限り、こんなに迅速で正確な情報なんか手に入らないでしょ? また敵に情報を流して身の安全を図ろうとされても困るわ」

「ふんっ! そんな事であるか。今更庇いだてする義理もない。ヴォルドン子飼いのノイマイスターである。帝国軍大将の愚か者よ」

「な、なんだとっ!? 帝国軍大将ともあろう者が、裏切っていたというのかっ!?」

「あら、別におかしくないんじゃない? だってルークリアに情報を流していたのはタルナート少佐だもの。つまり、ヴォルドンの派閥ぐるみの裏切りって事よ」

 お、おのれ、ヴォルドンめ!
 性根が腐った奴だとは思っていたが、ここまで腐っていたとは思わなかった!
 絶対に許せん!
 軍法会議に、いや、この手で絞首台に引きずり上げてやる!

「それについては帝国の問題ですので、不干渉でお願いします。ご安心ください、ヴォルドン元帥は失脚しましたので」

「そう? なら、お任せするわ。さぁ、もう話は済んだわ。さっさと首を差し出してちょうだい。時間が勿体無いのよ」

「ぐっ……ルーストレームっ!」

「なに? 私はタイマンも張れない男には興味ないのよ。さっさと死んでちょうだい。目障り、というより不愉快ね」

 本当に不愉快そうな顔をしているな。
 あんなに不愉快さを露骨に出した顔は見たことがない。

「話は済んだ? なら、手始めにここにいる3人の首を……」

「フォルネア、もうその辺にしといてやれよ」

 不意に横から聞こえた男の声。
 相変わらず、ムードの欠片もない男だ。
 こんな登場の仕方があるか、バカ……
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