食うために軍人になりました【一人称版】

第七章

処刑

　平伏し、頭を差し出した7人の使用人達。
　昔の俺なら慌てふためいたけど、今はそこまで愚かじゃない。
　眼を見ればわかる。
　俺が『許す』と言って引くような、簡単な眼じゃない。

「理由を聞こう」

「我々は旦那様を守るために存在するのです。守れず、お救いもできなかった私達に生きている資格はございません」

　無茶苦茶な理論だ。
　そもそも彼女達の仕事は屋敷の管理であって、俺の身辺警護じゃない。
　俺が襲われたのも軍務中のことだし、彼女達に責任を問うのは御門違いというものだろう。
　でも、そう言っても納得しないだろうし、ちょうど良いと言えばちょうど良いか。

「お前達、全員気持ちは同じか」

　例外なく、平伏したまま全員が頷いた。
　本当に俺には勿体無いくらい良い使用人達だ。
　望み通り、死んでもらおう。

「わかった。望み通りにしてやるよ」

「感謝致します。来世でお仕えする時には、このような愚は致しません」　

　気が早いにも程がある。
　まだ、今世が終わってないぞ。
　終わるかもしれないってだけで。

「来世の話はまだだよ。先ずは今世で君たちの望む死に値する罰を受けてもらうからね」

「死に値する罰……ですか？」

「そう。お前達にはこれを飲んでもらう」

　俺はフォルネアから預かった丸薬を取り出してみせた。
　
「これは……毒でしょうか？」

「毒じゃない。毒の気配はしない。でも……ヤバい」

　さすがは毒魔法の使い手、エマだ。
　よくわかっているじゃないか。

「エマの言うとおり、毒じゃない。だが、これを飲めばお前達は死に値する地獄を見ることになる。それをお前達の罰とする。ただ、仮に生き残れたらなら、そのまま俺に仕えてほしいんだが、どうだ？」

「その条件であれば是非もありません。罰をくださり、更にこれからも忠義を尽くすお許しをいただけるのであれば、このヒルデガルド・フォン・フルーネフェルト、どんな事でも致します」

　そう言うと、ヒルダは迷いなく丸薬を飲み、他の面々もすぐに飲んだ。
　迷いがないのはいいんだけど、七人同時に面倒見るのは厄介だな。

「ぐっ……ぁああああああ！！」

「ぬぉおおおおおおおお！」

「うわぁああ！！」

　七人の身体から一気に溢れ出した魔力は、当人達の身をすり潰そうとするかのように暴れ狂い、全員に凄惨な悲鳴を奏でさせていた。
　側から見るとこんな感じだったのか。
　俺……よく生きてたな。

「聞けっ！　お前達の眠っている魔力を解放した！　それを制御して自分の力にしてみろ！」

　俺の言葉が聞こえたのか、全員が何とかしようと必死になっている。
　しかし、気持ちだけでどうにかなるわけでもない。
　七人の地獄が終わったのは、それから３時間後の事だった。