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第一章
ダークエルフ 中編
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「お、俺も行ってくるぞ! シエンナさん!」
「俺もだっ!」
「わ、儂もじゃ! 最近婆さんが歳で……」
サイモンがいなくなった後、周りの男達も次々とシエンナに群がっていった。
その表情はまさに見れたもんじゃない。
顔を真っ赤にし、目は血走って鼻の下を伸ばしながら口から涎が垂らして叫んでいる。
そんな男達が1人の女に群がる状況は、まさに地獄絵図。
見ていてこっちが辛くなる。
唯一の救いは、スキンシップ過剰ながら彼女が動じてない事だろう。
もっとも原因が彼女なのだから、本末転倒だけどな。
「アレは……いいのか?」
嫌な現実から目を背けてオルテガを見ると、既に沈痛な面持ちで頭を抱えていた。
「良くはない……が、彼女が何か悪い事をしているか、と言えばそうではないので止めようがないのが現状だ。たとえば【魅了】の魔法でも使っていれば話は別だが、使った気配もないからな」
「でも、依頼を直接冒険者に頼むのは規約違反になるんじゃないのか?」
「彼女が冒険者に直接依頼をしているわけじゃない。今回もギルドにお前宛の指名依頼を出して、それを見た奴等が勝手に躍起になっているだけだからな。彼女が嫌がる冒険者を無理に煽動しているのならともかく、冒険者自身が勝手にやっているだけでは規約違反とは言えん」
マジか? あの冒険者達は依頼を受けたわけじゃなくて、あのシエンナって人の依頼を無報酬でやろうとしてるって事か?
本当の馬鹿だな。
チラッと外を見ると、男達はまだシエンナに群がっている。
こんな様子が広まれば冒険者の信用は落ちるだろうし、シエンナの依頼に集中されたら他の依頼が滞る。
ギルマスとしては困るけど、咎める理由も無くて打つ手なしって感じか。
「俺を此処に呼んだのはアレと一緒になると思ったからか?」
「それもあるが、理由は他にもある。あの冒険者達の中に嫉妬深い者がいれば、指名依頼を受けたお前を妬んでくる可能性がある。また、前みたいな騒動に発展されても困るから用心したのだ」
あいつらはそこまでイッてんの?
はぁ……世も末とはこの事かもしれないな。
「あとは周囲からの評判だな。仮にお前にその気がなくとも、あの中にいれば当然、お前もあの冒険者達と同じ眼で見られる事になる。素材採取で確固たる地位を確立しているお前までそんな風に見られるのは困るんでな」
別に確固たる地位を築いた覚えはないが、評判が下がるのは御免被りたい。
下手に評判が下がると依頼の報酬が安くなってしまうからな。
「それにあの女達が何をするかも怖いからな……」
「何か言ったか?」
ボソッとオルテガに似合わない小声だったせいで、聞き取れなかった。
女が怖いとか聞こえたけど。
「いや、何でもない。それより帰るのであれば今のうちだ。ああ見えてシエンナは魔法使いとしても優秀だからな。【飛行】の魔法で追いかけられたら厄介だ。今ならあの男達が防壁代わりになる」
薬屋だからある程度魔法にも詳しいとは思うけど、オルテガがそこまで警戒するって事はそれなりの使い手なんだろう。
早めに退散するに限るな。
「よし、さっさと帰ろう」
「それが賢明だな。裏口から出るぞ」
俺とオルテガは部屋を出て一階に降りると、裏口から外に出た。
うーん、相変わらずの臭い。
「よし、誰もいない。行こう」
「どこに行くのぉ?」
俺の声に答えたのはオルテガの野太い声じゃなく、遠くから聞いたことがある少し間の抜けた愛らしい声だった。
視線を向けると、建物の角からひょっこり可愛らしい顔がこっちを覗いている。
「……シエンナ」
オルテガが呟いたとおり、それはさっきまで男達に囲まれていたはずのシエンナだった。
いつの間にこっちに移動したんだ?
「えへへっ。やっぱりギルマスかぁ。そうだよねぇ、他の男性職員さんだとマズいもんねぇ」
気だるそうな口調でこちらに歩いてくる。
その表情は笑っているようだが、瞳は全く別のものだった。
なんというか、獲物を狙う狩人のようだ。
「相変わらず勘のいい事だな。だが、俺達は別にお前に用はない」
「うーん? でも、わざわざギルマスが裏から出てくるって、おかしくな~い?」
「表が騒がしかったから裏から出たまでのこと。何か問題あるか?」
「問題な~い。でも、僕もギルマスに用はないんだ。あるのは、そっちの彼ぇ」
瞳が俺を捉える。
妙な感覚だ。
なんかドキッとしてしまう。
一目惚れのような感じがするのに、頭は妙に冴えている。
なんだ、これは?
「残念だが、お前の指名依頼は駄目だったぞ」
「そっか~残念だなぁ。まぁ、仕方ないよねぇ。次の機会があったらお願いねぇ? リョウくん」
随分とあっさり引き下がったな。
執着しないのか? それともあの男達を焚きつけるのが目的で、俺は当て馬にされただけか?
「じゃあね。あっ、そうだ。普通の依頼も出してるからぁ、気が向いたらお願いねぇ。特に白糸丸苔ね」
「急な入り用かい?」
「うん。薬師だからね。色々必要なんだぁ」
うーん、白糸丸苔か。
聖水の材料だけど、薬にも使えるなんて聞いたことがないぞ?
……なんか怪しいな。
【鑑定】してみるか?
下手に情報を知らない方がいいけど、既に標的されてるとなれば、知っておかないと後手に回る危険もある。
降りかかる火の粉は、払う前に降り掛からないようにしないとね。
【鑑定】
俺以外には見えないウインドウが、シエンナの側に表示される。
シエンナ・アヴァロニアって名前なのか。
それで、えっと……っ!?
「なっ!?」
「? どうかしたのぉ?」
「どうした、リョウ?」
【鑑定】している時はバレないように、表情には出さないようにしていたけど、ある項目を見て思わず声が出てしまった。
マジかよ……
シエンナ・アヴァロニア 122歳 処女
「俺もだっ!」
「わ、儂もじゃ! 最近婆さんが歳で……」
サイモンがいなくなった後、周りの男達も次々とシエンナに群がっていった。
その表情はまさに見れたもんじゃない。
顔を真っ赤にし、目は血走って鼻の下を伸ばしながら口から涎が垂らして叫んでいる。
そんな男達が1人の女に群がる状況は、まさに地獄絵図。
見ていてこっちが辛くなる。
唯一の救いは、スキンシップ過剰ながら彼女が動じてない事だろう。
もっとも原因が彼女なのだから、本末転倒だけどな。
「アレは……いいのか?」
嫌な現実から目を背けてオルテガを見ると、既に沈痛な面持ちで頭を抱えていた。
「良くはない……が、彼女が何か悪い事をしているか、と言えばそうではないので止めようがないのが現状だ。たとえば【魅了】の魔法でも使っていれば話は別だが、使った気配もないからな」
「でも、依頼を直接冒険者に頼むのは規約違反になるんじゃないのか?」
「彼女が冒険者に直接依頼をしているわけじゃない。今回もギルドにお前宛の指名依頼を出して、それを見た奴等が勝手に躍起になっているだけだからな。彼女が嫌がる冒険者を無理に煽動しているのならともかく、冒険者自身が勝手にやっているだけでは規約違反とは言えん」
マジか? あの冒険者達は依頼を受けたわけじゃなくて、あのシエンナって人の依頼を無報酬でやろうとしてるって事か?
本当の馬鹿だな。
チラッと外を見ると、男達はまだシエンナに群がっている。
こんな様子が広まれば冒険者の信用は落ちるだろうし、シエンナの依頼に集中されたら他の依頼が滞る。
ギルマスとしては困るけど、咎める理由も無くて打つ手なしって感じか。
「俺を此処に呼んだのはアレと一緒になると思ったからか?」
「それもあるが、理由は他にもある。あの冒険者達の中に嫉妬深い者がいれば、指名依頼を受けたお前を妬んでくる可能性がある。また、前みたいな騒動に発展されても困るから用心したのだ」
あいつらはそこまでイッてんの?
はぁ……世も末とはこの事かもしれないな。
「あとは周囲からの評判だな。仮にお前にその気がなくとも、あの中にいれば当然、お前もあの冒険者達と同じ眼で見られる事になる。素材採取で確固たる地位を確立しているお前までそんな風に見られるのは困るんでな」
別に確固たる地位を築いた覚えはないが、評判が下がるのは御免被りたい。
下手に評判が下がると依頼の報酬が安くなってしまうからな。
「それにあの女達が何をするかも怖いからな……」
「何か言ったか?」
ボソッとオルテガに似合わない小声だったせいで、聞き取れなかった。
女が怖いとか聞こえたけど。
「いや、何でもない。それより帰るのであれば今のうちだ。ああ見えてシエンナは魔法使いとしても優秀だからな。【飛行】の魔法で追いかけられたら厄介だ。今ならあの男達が防壁代わりになる」
薬屋だからある程度魔法にも詳しいとは思うけど、オルテガがそこまで警戒するって事はそれなりの使い手なんだろう。
早めに退散するに限るな。
「よし、さっさと帰ろう」
「それが賢明だな。裏口から出るぞ」
俺とオルテガは部屋を出て一階に降りると、裏口から外に出た。
うーん、相変わらずの臭い。
「よし、誰もいない。行こう」
「どこに行くのぉ?」
俺の声に答えたのはオルテガの野太い声じゃなく、遠くから聞いたことがある少し間の抜けた愛らしい声だった。
視線を向けると、建物の角からひょっこり可愛らしい顔がこっちを覗いている。
「……シエンナ」
オルテガが呟いたとおり、それはさっきまで男達に囲まれていたはずのシエンナだった。
いつの間にこっちに移動したんだ?
「えへへっ。やっぱりギルマスかぁ。そうだよねぇ、他の男性職員さんだとマズいもんねぇ」
気だるそうな口調でこちらに歩いてくる。
その表情は笑っているようだが、瞳は全く別のものだった。
なんというか、獲物を狙う狩人のようだ。
「相変わらず勘のいい事だな。だが、俺達は別にお前に用はない」
「うーん? でも、わざわざギルマスが裏から出てくるって、おかしくな~い?」
「表が騒がしかったから裏から出たまでのこと。何か問題あるか?」
「問題な~い。でも、僕もギルマスに用はないんだ。あるのは、そっちの彼ぇ」
瞳が俺を捉える。
妙な感覚だ。
なんかドキッとしてしまう。
一目惚れのような感じがするのに、頭は妙に冴えている。
なんだ、これは?
「残念だが、お前の指名依頼は駄目だったぞ」
「そっか~残念だなぁ。まぁ、仕方ないよねぇ。次の機会があったらお願いねぇ? リョウくん」
随分とあっさり引き下がったな。
執着しないのか? それともあの男達を焚きつけるのが目的で、俺は当て馬にされただけか?
「じゃあね。あっ、そうだ。普通の依頼も出してるからぁ、気が向いたらお願いねぇ。特に白糸丸苔ね」
「急な入り用かい?」
「うん。薬師だからね。色々必要なんだぁ」
うーん、白糸丸苔か。
聖水の材料だけど、薬にも使えるなんて聞いたことがないぞ?
……なんか怪しいな。
【鑑定】してみるか?
下手に情報を知らない方がいいけど、既に標的されてるとなれば、知っておかないと後手に回る危険もある。
降りかかる火の粉は、払う前に降り掛からないようにしないとね。
【鑑定】
俺以外には見えないウインドウが、シエンナの側に表示される。
シエンナ・アヴァロニアって名前なのか。
それで、えっと……っ!?
「なっ!?」
「? どうかしたのぉ?」
「どうした、リョウ?」
【鑑定】している時はバレないように、表情には出さないようにしていたけど、ある項目を見て思わず声が出てしまった。
マジかよ……
シエンナ・アヴァロニア 122歳 処女
応援ありがとうございます!
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