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第一章
救いの手
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悟がこの世界に来てから2日。
精根尽き果てた男の姿がそこにはあった。
グレートボアに追われて草原を逃げ回り、転んで窪地に落ちたおかげでなんとか難を逃れた。
しかし、その後も鋭い角を持つチャージラビットや硬い鱗を持つアーマーモールなどの小型の魔物にも襲われ、昼夜を問わず逃げ回った。
ルームウェアのスウェットは土に汚れ、草木の汁が染みわたり、至る所に穴が空いていた。
「もう……いいか」
空腹と疲労はついに彼から生きる気力を奪い、瞳を虚にさせていた。
彼は大木に背を預け、次に出会ったものに自らの運命を任せる選択をした。
というより、彼には最早自ら運命を切り開く力は残っていなかったのである。
それから数時間、彼は起きているような寝ているような朦朧とした意識の中で時を浪費していた。
「おい、お前さん。大丈夫か?」
悟の運命を決める者が現れたのは、夜の帳が下りる頃だった。
「まだ息があるようじゃな。これを飲むがええ」
声の主が誰かは悟にはわからない。
ただ、ぼんやり聞こえる言葉に従って口に入る液体の飲んだ。
「っ! うわぁああああ!」
液体が胃に入ってしばらくすると悟の身体が息を吹き返す。
ボヤッとしていた視界が開け、五感が鋭敏になる。
そこで初めて目の前に老人が立っていることに気づいた。
「あ、あ、あ……」
「無事なようじゃな。良かったのぉ。お前さん、どうしてこんな所で寝ておるんじゃ? 冒険者……には見えんがのぉ」
少し嗄れた声だったが、久しぶりに聞く人の言葉に悟の眼から大粒の涙が溢れた。
「よっぽど怖い目におうたんじゃな……その見慣れぬ格好、もしやお前さんは迷い人か?」
「ま、迷い人……?」
「迷い人とはこの世界とは別の世界から来た異世界人の事じゃ。この世界はフォートルード、この国はブロディア王国と言うんじゃが、聞き覚えはあるかの?」
悟はごく平凡な男だ。
世界地図の全ての国を把握しているわけではない。
しかし、それでもフォートルードもブロディアも聞いたことがない地名だった。
「いや……全然……あ、あの! 異世界って、ここから帰る方法は……」
悟の必死な言葉に老人は顔を顰めた。
「残念じゃが、迷い人が元の世界に帰ったという話は聞いたことがない。いや、儂が聞いた事がないだけかもしれんがのぉ……」
老人は断言を避けたが、悟が絶望するには十分な言葉だった。
もう帰れない。
俺はこの見知らぬ土地で一生を終えるのだろうか。
そんな想いが悟の心を支配していた。
精根尽き果てた男の姿がそこにはあった。
グレートボアに追われて草原を逃げ回り、転んで窪地に落ちたおかげでなんとか難を逃れた。
しかし、その後も鋭い角を持つチャージラビットや硬い鱗を持つアーマーモールなどの小型の魔物にも襲われ、昼夜を問わず逃げ回った。
ルームウェアのスウェットは土に汚れ、草木の汁が染みわたり、至る所に穴が空いていた。
「もう……いいか」
空腹と疲労はついに彼から生きる気力を奪い、瞳を虚にさせていた。
彼は大木に背を預け、次に出会ったものに自らの運命を任せる選択をした。
というより、彼には最早自ら運命を切り開く力は残っていなかったのである。
それから数時間、彼は起きているような寝ているような朦朧とした意識の中で時を浪費していた。
「おい、お前さん。大丈夫か?」
悟の運命を決める者が現れたのは、夜の帳が下りる頃だった。
「まだ息があるようじゃな。これを飲むがええ」
声の主が誰かは悟にはわからない。
ただ、ぼんやり聞こえる言葉に従って口に入る液体の飲んだ。
「っ! うわぁああああ!」
液体が胃に入ってしばらくすると悟の身体が息を吹き返す。
ボヤッとしていた視界が開け、五感が鋭敏になる。
そこで初めて目の前に老人が立っていることに気づいた。
「あ、あ、あ……」
「無事なようじゃな。良かったのぉ。お前さん、どうしてこんな所で寝ておるんじゃ? 冒険者……には見えんがのぉ」
少し嗄れた声だったが、久しぶりに聞く人の言葉に悟の眼から大粒の涙が溢れた。
「よっぽど怖い目におうたんじゃな……その見慣れぬ格好、もしやお前さんは迷い人か?」
「ま、迷い人……?」
「迷い人とはこの世界とは別の世界から来た異世界人の事じゃ。この世界はフォートルード、この国はブロディア王国と言うんじゃが、聞き覚えはあるかの?」
悟はごく平凡な男だ。
世界地図の全ての国を把握しているわけではない。
しかし、それでもフォートルードもブロディアも聞いたことがない地名だった。
「いや……全然……あ、あの! 異世界って、ここから帰る方法は……」
悟の必死な言葉に老人は顔を顰めた。
「残念じゃが、迷い人が元の世界に帰ったという話は聞いたことがない。いや、儂が聞いた事がないだけかもしれんがのぉ……」
老人は断言を避けたが、悟が絶望するには十分な言葉だった。
もう帰れない。
俺はこの見知らぬ土地で一生を終えるのだろうか。
そんな想いが悟の心を支配していた。
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