鑑定能力で恩を返す

第一章

結託せし者達

　ジリジリとサトに近寄ってきていたオリーヴィアの前に立ちはだかる3人。
　その行動とは裏腹に表情には満面の笑みを浮かべていた。

「あ、あの……アルヴォード伯？」

　戸惑うオリーヴィアを一瞥すると、ミネルヴァはリハルトの方に目をやった。

「マイヤーハイム伯！　卿は先代が横領した資産の返還を済ませた。これで名実ともにマイヤーハイム伯爵家の当主となる事ができるだろう。実にめでたい事だ！」

「えっ？　あ、ありがとうございます。アルヴォード伯……」

「めでたい日ではあるが、卿はこれより忙しくなるぞ？　陛下より正式に爵位を戴くために王都に行かねばならんからな。よって、王都から戻り次第、改めて祝いの席を設けるとしよう。では、失礼する」

「えっ？　ちょ、ちょっとお待ちを……」

　スッとサトを連れて帰ろうとするミネルヴァをオリーヴィアが引き止めた。

「オリーヴィア嬢、何か？」

「ア、アルヴォード伯……そのサトは私の……」

　ミネルヴァの鋭い眼光と気迫に押され、若干10歳の少女は震えていたが、それでもなんとか声を振り絞り、己の言い分を伝えた。
　しかし……。

「オリーヴィア嬢。貴女もマイヤーハイム家当主の妹君となる。直系ともなると、結婚もそう簡単にはいかないだろう」

「で、ですが……」

「貴族が平民と結婚するというのは貴女が思っている以上に問題がある。貴女も貴族の有り様というものを学んでいかねばならない。それにマイヤーハイム伯爵家はこれからが大変な時期だ。貴女はまだ若い、結婚を焦ることはない」

「そ、そうですか……で、でも！　約束を反故にするなど貴族にあるまじき行為ではありませんか？」

　必死の抵抗を試みるオリーヴィアだったが、ミネルヴァは動じた様子もなくどっしりと構えていた。

「今回の仕事は私がサトに依頼したものだ。褒美についてはマイヤーハイム家が気にする必要もない。シュタイエール公からも特別に褒美を出すとの連絡もあった。よって、気にしなくて大丈夫だ」

　とりつく島もないとは正にこの事を言うのだろう。
　その後もオリーヴィアはなんとか食らいつこうとしていたが、ミネルヴァに論破されてしまい、撃沈。
　項垂れたまま、4人を見送ることとなった。
　ミネルヴァは毅然とした態度を崩すことなく、堂々と帰路についていた。
　だが、内心は穏やかではなかった。

『すまない！　オリーヴィア嬢！　だが、これ以上恋敵ライバルが増えるのは避けたいのだ！　本当にすまない！』

　心の中で必死の謝罪を続けるミネルヴァの苦悩を理解できるのは本人と他に3人だけで、サトはただポカンとしたままだった。