鑑定能力で恩を返す

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第二章

エレンの再会

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 静かなナハル平野に嫌な臭いが通り抜けていた。
 錆びた鉄のような臭いと焦げ臭さが混じった吐き気を催すような不快な臭い。
 それは横たわる女の身体から発せられていた。
 
「う……ぐっ……」

 うめき声を上げ、横たわるエレンの前にローブの女が立っていた。

「なかなか渋とい。全身を焼かれ、流れでる血が蒸発するほどの熱を帯びているというのに、人間ならとっくに死んでいる程の重傷だぞ? よくぞ耐えているものよ」

 ローブの女はうつ伏せに倒れるエレンの背中を踏みつけた。
 しかし、エレンにはそれがわからなかった。
 女が言うようにエレンは致死量のダメージを受けており、既に身体の感覚が失われていたのだ。
 ダンピールであるエレンは高い治癒能力を有しているが、それでも回復が追いつかない。
 エレンは再生しかけた顔でスッと顔を上げる。

『くっ……なんて奴なの。この私が手も足も出ないなんて……それに魔法技術が桁違いだわ。ハメルンからこのナハル平野まで馬車で3時間はかかるのに、それを一瞬で移動させるなんて……こんな高度な魔法、見た事も聞いた事もない。一体何者なの?』

 エレンは心の中でそう思いながら、自身の前に立つ者を見た。
 相変わらずフードを目深に被っているので顔は見えないが、戦っている最中にわかった事がある。
 殺す気はないという事だ。
 戦ってわかったが、実力的には大人と子どもくらいの差があるのだ。
 なのに自分が生きていられるのは相手が死なないように手加減していたからに過ぎない。
 現に今も回復するのを待っている。
 だからこそエレンは迷っていた。
 何故、彼女がサトを殺そうとしているのかを。
 魔族は一部の人間には忌避の対象とされており、迫害される事もあると聞いたことがある。
 だから自分が狙われるのはわからないでもない。
 しかし、サトには狙われる理由がない。
 少なくとも真っ当に商売をしており、客からの反応も良い。
 また、他の店にも迷惑をかけない範囲で付き合いをしているし、何より商業組合に加盟しているので他店から恨みを買う事とも考えにくかった。
 人柄も良く、近所トラブルも聞いたことがない。
 加えて優しくおおらかで少し照れ屋でぬけていふこともあるが、それがまた愛らしかった。
 でも、ここぞという時には退かず曲がらない強さを持っており、カッコいい。

「それにウブなところもあって、私が迫ったらすぐに赤くなっちゃって……」

「おい……随分と余裕だな。回復は終わったんだろ?」

 上から冷めた声をかけられてエレンは我に帰った。
 身体の傷は既に治っており、破れた衣服からは染みひとつない綺麗な肢体が姿を表していた。
 サトのことを思い出し、そのまま恋煩いに突入してサトの事で頭が一杯になっていたようだ。

「あっ……ま、待たせたわね。絶対にあの人には指一本……」

 立ち上がり、距離をとって必死に取り繕おうとするエレンだったが、ローブの女は完全に興醒めたようで、肩を落として溜息を吐いていた。

「もういい……終いだ。まったく、何処に行ったのかと思って探していれば、こんなのになってたなんて……そんなんじゃ、惚れた男なんか他の女に取られちゃうわよ。エレオノーラ」

 そう言って女はフードを脱いだ。
 エレンは真名を呼ばれて驚いだが、それ以上の衝撃に目を見張り、声を上げた。

「えっ? ……ぁあああああああああ! お、おかさぁん!?」

 
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