鑑定能力で恩を返す

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第二章

純潔の翼

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 紅く光るリサの眼を見てからサトの頭の中は黒い靄が広がり、それと共に意識が急激に遠ざかっていった。
 遠のく意識の中、サトの脳裏にぼんやりと言葉が浮かんでくる。

 深淵の魅惑アビスチャーム
 純血吸血鬼の魔眼から発せられる強力な魅惑系の精神魔法。
 魅入られた者は己の意志を失い、主の意のままに動く下僕となる。

 サトは脳裏に浮かんだ言葉を見て、このまま意識を遠ざけるのは不味いと感じていたが、その間にも靄は広がり意識は徐々に遠ざかっていった。
 誰かが側で声を上げているようだが、もうすでに言葉は聞き取れず、視界もぼやけていて、それが誰かはわからなくなっていった。

『このままじゃ不味い……けど、どうすれば……魔道の……叡智を…………』

 頭の中を靄が真っ黒に染めていく。
 僅かに残っていた意識も完全に飲み込まれそうになった時だった。
 頭の中に強い光と共にある言葉が浮かんでくる。

『唱えよ、《純潔の翼ピュアウィング》』

「っ! 《純潔の翼ピュアウィング》!」

 サトは思い浮かんだ言葉を精一杯の声で叫んだ。
 すると、眩い光を放ちながらサトの背中より透き通る白い翼が生えて広がり、その勢いで煌めく羽が周囲に舞い上がった。

「これは天翼てんよく!? まさか……」

 店に入って以来、常に余裕の表情を浮かべていたリサの顔に初めて焦りと驚きが現れる。
 
「はぁはぁはぁはぁ……靄が消えた……た、助かった……」

 荒い呼吸を整え、周囲を見渡すと自分の周りに半透明の翼がヒラヒラと舞っているのが見える。
 そして身を守るように背中から生えた翼が身体を覆い隠しているのがわかった。

「これが《純潔の翼ピュアウィング》か? 魔導の叡智が対抗する術を教えてくれて助かった」

「サト様! サト様! ご無事ですかっ!?」

 翼の外側からエレンの声が聞こえて来る。
 サトが念じると、翼はゆっくり広がって見慣れた店内と人々が姿を表した。
 目の前には涙目になったエレンがいた。

「サト様っ!? ご無事でしたかっ!?  意識ははっきりしておられますかっ!? 私がわかりますかっ!?」

 勢いよくサトの両腕を掴んでエレンが矢継ぎ早に質問をしてくる。
 目に涙をいっぱい溜め、身体を小刻み震えさせる様はいつものエレンより儚くか弱く見せていた。

「大丈夫ですよ、エレンさん。なんとか無事のようです」

 笑みを浮かべたサトの言葉を聞いたエレンは糸が切れたかのように、力が抜けてその場に座り込んだ。

「良かった……本当に良かった……」

 俯いて安堵の言葉を述べるエレンだったが、後ろから近づいてくる気配に気づいて慌てて顔を上げた。
 そこには妖艶な雰囲気は一切ない冷淡な表情のリサがいた。

 
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