鑑定能力で恩を返す

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第二章

勘違いのまま

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 リサが怖い顔でサトを見ている。
 サトにはその理由がわからなかった。
 先ほどまで頭にかかっていた靄は明らかにリサがかけた精神魔法である。
 鑑定能力かんていスキルでサトは今のが自分を下僕にするための魔法であることがわかっている。
 悪戯にしては度が過ぎている。
 流石のサトも少しイラッと感じた。
 
「今のは精神魔法ですね? どういうつもりですか?」

「……そう。やっぱりわかるものなのね。

 リサはわざと語尾を強調した言い方をしたが、その意図がわかる者はいなかった。
 サトがムキになったのを見て、今まで黙っていた男が前に出た。

「リサさん。些か無礼が過ぎんかのぅ? いきなりやって来て、ウチの者に精神魔法をかけるとはな。まだやると言うならこれ以上は黙っておるわけにはいかんぞ」

「そうよ! 今のは深淵の誘惑アビスチャームでしょ!? 誘惑系の最強魔法じゃないの! いくら何でもやり過ぎよ!」

 ロンメルに続いてエレンも怒りを露わにした。
 ロンメルは銀製の長剣を構え、エレンは魔力を最大解放する。
 しかし、それをリサは意に介さず、ただサトの翼を見ていた。

「貴方達は気づいてないのね。良いわ、教えてあげる。その男の正体を!」

 リサはより一層強く睨むと、サトに向かって指を差した。

「お、俺の正体?」

「そうよ、貴方は魔族に相反する存在として太古の昔に存在したと言われる伝説の種族……天使族でしょ!?」

 まるで犯人を追い詰めるかのような気迫でサトを追求するリサ。
 その顔は自信に満ち溢れ、かつ絶対に逃さないと言った雰囲気を纏っていた。
 だが、サトにはそれは伝わらず、逆にさっきまでの緊張を解す結果となった。

「て、天使ですか? いや、俺は……」

「誤魔化しても無駄よ! その翼が何よりの証拠! 明らかに翼人種とは違った翼をどう説明するつもり!?」

 サトの言葉を遮って、さらに追求するリサ。
 逆にサトは段々と冷静になっていき、一つの結論に至った。

「あの……この翼は《純潔の翼ピュアウィング》という魔法でして……」

「……えっ? そ、そんな魔法聞いたことないわ! だ、騙そうとしてもそうは……」

「これは神術ですから、あまり有名じゃないかと……」

 リサの自信たっぷりの顔が少し曇りをを見せた。

「し、神術って……そんなの習得できるわけが……」

「賢者マーセルの残した魔導の叡智から学びまして……」

「えっ? マーセルって、あの大魔法馬鹿のマーセル? そ、そういえば2000年くらい前に神術がどうのこうのって言ってたような……」

 リサは差していた指を戻して、自分の顎に当てた。
 表情は更に曇っている。

「で、でも! あいつは馬鹿だけど魔法に関しては天才だったのよ? それを簡単に理解して習得できるわけ……」

「エレンのお母さんだから言いますけど、俺は希少能力の鑑定能力を持ってまして、それで習得できたんです」

「えっ? あの鑑定能力? それなら確かに習得できるかも…………あっ、その……えっと……」

 リサは狼狽していた。
 その顔には最早自信の欠片も残っておらず、その姿を見たロンメルとエレンはすっかり毒気を抜かれてしまったようで武器も魔法も収めていた。

「意外と抜けとるのぅ」

「お母さん……昔から思い込みが激しくて……恥ずかしい」

「っ! エ、エレンちゃん……」

 エレンの一言で自身の最大級に恥ずかしさを自覚したリサは顔を真っ赤にして涙を堪えながら、軽く震えていた。
 その姿を見たサトはなんだか可哀想になってしまい、怒りもどこかに行ってしまっていた。

「クリムゾンブラッド、おかわりをお持ちしますね」

 そう言ってサトは空のグラスを持ってその場を離れた。
 自分がその場を一旦離れる事、それがリサへのせめてもの気遣いだった。

 
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