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5.密入国
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「さて、階段で同期を突き落とした君の処罰だが……」
「ですから!俺は突き落としてなんていません!階段でいきなりあいつが殴り掛かって来たんです!それを咄嗟に避けたら、あいつが勝手に…」
「抜かすな!相手が植物状態で話せないのを良い事に、そんな出まかせを吹聴するとはなぁ?恥を知るがいい。」
「でまかせなんかじゃありません!班長、あなたは信じてくれますよね?」
「………」
「班長?」
「今しがた、お前の懲戒免職が決まった。」
「……は?」
「上の決定だ。もう、どうすることも出来ない。」
「そんな!?……そんな……」
「すまないが……これは、確定事項だ。」
「あ…ぁぁ……」
「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛っ!!…はぁ…はぁ……はぁ………」
ここは小屋、かなり古い。上からの圧力に屈して濡れ衣を着せる馬鹿も………班長も居ない。
「……夢……またか。」
わたしはアレク。かつて拷問を受けて命を落とし、この世界に転生した男だ。今は、この小屋で恩人を待ち続けている。いるのだが……
「……勘弁してくれ。」
忘れようとする度に、前世の事をこうして夢に見る。……本当にただの悪夢だったなら、どれだけ幸せだろうか。
……綺麗さっぱり忘れたい。前世の事も、何もかも。
転生したなら、前世の記憶に助けられることもあるかもしれない。以前の失敗を繰り返さない様に出来るだけでも幸福と考えられるかもしれない。
だが、私はそれを幸福だと思えそうにない。
ここまで苦しまねばならないのだから。
どうにかして、忘れられないものだろうか?
それが出来ないなら………いっそ一思にここで…
“「(プニッ)」“
「……ん?」
“「(スリスリ)??」“
気付くと、同居人が手の甲に擦り寄って来ていた。
“「(プニプニ)???(スリスリ)???」“
その様子は、心配してくれているかの様にも見える。
「……大丈夫。(ナデナデ)…大丈夫だよ。いつもの悪夢を見ただけだ。……ありがとな、プヨ。」
“「♪♪」“
こいつはプヨ。半透明で弾力のある私の同居人だ。こいつのお陰で、悪夢を見ても…まぁ……大分マシになってると思う。
例えこいつにそのつもりがなくても…私の思い違いだったとしても、今の私にはそれだけで充分嬉しかった。少なからず、憂鬱な気分は払拭されてるし。
「さて……支度するか。」
そうして過ごすうちに、あの日からもう1年が経とうとしていた。あの人が戻って来た時のために、筋トレ・薬学の勉強・自身の治療薬の調合など、やる事はたくさんある。
「(キュッ)これでよし…と。」
けど、最近は他にもやる事が増えた。
「じゃ、ちょっと行って来るから、今日も留守番頼む。」
“「○(プルン)」“
森を出て、以前の廃村を目指す。最近は、そこを基点に人がいる村を探しに行く様になった。匍匐じゃないと、直ぐに着くんだよなぁ。……ほんと、これも早く忘れたい。
そうこうしているうちに、廃村に着いた。
以前、とある一団から聞いた話によると、この廃村から人がいる所まではそう遠くないらしい。だから、廃村を拠点にして近くの村々を探索してみる事にしたのだが……徒労に終わった。
「……」
数ヶ月間この近辺を探していたが、『こっち側』に人の住む町村はなかった。……いや、厳密には村はあった。だが、そのどれもが廃村だった。それも、大分昔から無人だった様だ。
「となると……」
〈ヒュォォォォォォッ〉
「…………『あっち側』か。」
巨壁を見上げて呟いた。
あの人は『人の住んでいる所が近い』と言っていた。壁の向こうとは言ってなかったから壁の『こっち側』を念入りに探した。
やはり、あの壁の向こうなのか?
だが、壁の向こうへ行く上で、重大な問題がある。
これだけ大きな壁なのに、門がどこにもないからだ。
探索は、この壁沿いに行った。左の果ての山麓から右の地平線の先まで……ではないけど、結構端の方まで行ったのに全く見つからなかった。
本当に、万里の長城みたいな壁だ。
もしかしたら、ゴンドラか何かで吊り上げるのかもしれない。しかし、私のためにそんな大掛かりなものを動かしてくれるとは思えないし、そもそも意志疎通の手段すらない。
「………(チラッ)」
だから、壁を越える手段が無ければこのまま引き返すしか……ないん…だけど……
「……(ハァ)」
一応…あるんだよなぁ、越える手段。
この前、見つけちゃったんだよなぁ…突破口。
「(テクテクテク)…………」
そうして、壁沿いに建てられた小屋に向かって歩いていく。
誤解が無い様にはっきり言わせて貰おう。見つけたのは、本当に偶然だったんだ。
「(ピタッ)…………」
確かに、この巨壁には一見すると何の綻びも無い様に見える。だが……
「(ガチャッ)」
〈ヒュォォォォッ〉
扉を明けると、子供が通れそうな程の亀裂があった。
「………」
あの人達と別れてから、他の物資を求めてこの村を探索し直してみたら、この亀裂を見つけた。
見たところ、亀裂には作業痕などの人為的な痕跡は見られないし、小屋の古さに対して亀裂断面が風化している様子は無い。
これは、亀裂が出来る前から小屋があり、亀裂の形成が意図的ではない事実を示唆している。
つまり、密輸路や隠蔽工作が目的ではなく『小屋があるところに偶然亀裂が出来た』という感じだ。
壁自体が老朽化によって弱くなっていたのかもしれない。これだけ大きな壁ともなれば、修理が追い付いていなくても何の不思議もない。前世の道路の塗装とかも中々塗り直されてなかったからな。
だが、そんな事はこの際どうでも良い。今重要なのは、壁の向こうに行けるかもしれないという可能性だ。
「………」
だが、だからといってこの壁を越えて良いわけではない。
「………」
以前、あの人達が拒絶しなかったとはいえ、壁の向こうの人々に受け入れて貰えるとは限らない。
「………」
そもそも、この壁が国境なら不法入国だ。この国の……というよりは、この世界の法律がどういうものかはわからないが、見つかれば碌な事にならないだろう。
「………」
流石に危ないし…引き返した方が良いよな。
「………」
さっさと帰ろう。そして、あの場所であの人を待ち続けよう。何年でも、何十年でも……これまでの…よう……に…………
「………」
「(ガサガサガサ)…(ヒョコッ)……(キョロキョロ)……誰も居ないな。」
壁の亀裂を抜けると、丁度茂みになっていた。好都合だ。だが、油断は出来ない。こんな所を誰かに見られれば、不法入国で捕まるかもしれない。
正直、牢屋へ行くだけなら、まだマシだろう。内政次第では最悪、その日のうちに処刑されるかもしれない。奴隷落ちだって考えられる。
だが、誰かしら人間に出会える。
それだけで、壁を越える動機としては充分だった。
……全く、あの人たちに出会わなければ、こんなに人恋しさで胸が苦しくならなかったのに。
まぁ、ぶっちゃけ一度死んでるし、拷問も一通り受けたし、尊厳もへったくれもないし。
とっくの昔に尊厳も幸せも命も失った私には、もう失えるものなんてない。
最悪、自害すれば丸くおさまる。
一方で、潜入すればこの国の風習、生活様式、公式言語、一般常識その他諸々の情報が手に入る。あわよくば、あの人の事について何かわかるかもしれない。何より、人と話が出来る。
ローリスクでハイリターン。ならば、進むほかあるまい。
けど、出来ればあの人に恩を返したいから、目立つ行動は控えないとな。
とにかく、近くの村か町まで行かなきゃならない。まだ昼前だが、帰りの時間も考えると時間がない。
「よし(ザッ)行くか。」
そうして私は歩み始めた。
~数十分後~
ここまで随分歩いた気がする。匍匐じゃないから結構な距離を歩いた気がするけど、国境から町まではこれだけ離れてるものなのか?
まぁ、何はともあれ……
《ガヤガヤ》
町が見えて来た。あともう少しで着けるかな。
「(バサッ)」
廃村で見つけたフード付きのローブを見に纏う。これで傷や包帯は隠せるだろう。
とにかく、あの町であの人の情報を集めよう。
「…………(ピタッ)」
どうやって?
言葉も話せない。字を書いても、読める人が居ない。コミュニケーションが一切取れない。そんな子供が、特定の個人を探すには、どうすれば良い?
「………」
そもそも、町に入れるのか?入り口で止められたりしないか?
「………」
一か八か、入ってみるか。元々捕まる事も覚悟の上だし。
いや、でも……
「何してんだ?」
「(ビクッ)え゛ぁ゛ぁ゛っ!?!?」
「うぉっ!?」
「だれ…(ガッ)あ…!?(グラッ)」
不意に後ろから声をかけられ、驚いて素っ頓狂な叫びをあげた挙句、振り返ろうとして足がもつれた。
全く、我ながらそそっかしい。
「(ガシッ)…っと!」
「っ!」
間一髪のところで手を掴まれる。
「おい!大丈夫か?」
「は…はい。す…すみません。お手数を…」
「いやいや、(グィッ)こっちも悪かったな。別に驚かすつもりじゃなかったんだ。」
そう謝罪してきた相手は……子供?
口調から、てっきり年上かと思ったけど、私と同い年くらい…て事は4歳くらいか。この町の子かな?
「さっきから、町に入るでもなくただ突っ立って眺めてたもんだから、気になってよ。」
いや、そんな事より早く弁明しないと……
「ところでお前、何処の………ん?」
「いや…あの…違うんです!!」
「………んん?(ジィッ)」
「ただ町の様子を眺めてただけで……」
「………ん~?(ジィィッ)」
「別に怪しい者じゃ……」
「………んんん?(ジィィィィ)」
「……あの?」
何だか、様子がおかしい。さっきからこの少年が見つめてくる。怪しまれている……と、いうのも何だか違う。
「(フイッ)いや、まさか……な…」
何が?
「(フルフル)……そんなはずは無い。」
だから何が?
「……あの、どうされましたか?」
「いや、でも……」
「あの~??」
「いやいや、都合が良すぎるだろ。」
「………」
さっきから、全く話が噛み合わない。少年は独り言ばかりを吐いている。
何が『まさか』で、『都合が良すぎる』のだろうか。それに、人の顔を見るなり考え込むなんて、どういう事だ?
「いや……でもなぁ~」
なんにせよ、チャンスだ。今のうちに離れる事にしよう。
「では…これで失礼しますね。」
「(ポリポリ)……う~ん?」
「……話聞けよ。(タタタッ)」
返答は無いが、構わず走り出す。そうして足早に町へと向かった。
幸いにも、出入りは自由だったらしい。問題なく町に入れた。
《ガヤガヤガヤガヤ》
これまでの静寂が嘘かのような喧騒に似た人々の声。懐かしい。
「………(テクテク)」
それにしても、あの少年は何だったんだろう?会話から逃げた感じになっちゃったけど……ま、何度話しかけても答えてくれなかったんだから仕方な………
「……あれ?」
そういえば私、普通に喋れてたな?
少なくとも、途中までは会話になってた。いつの間にか話せる様になってたのか。
心なしか、足取りも軽いし。やっぱり、彼と話をしたからかな。
よし、それなら人に話を聞けば良い。どんどん話を聞こう。
~数時間後~
「(バタン)………」
廃村に着いた。
結果?全然ダメでした。
何故か大人に話しかける事はできなかった。結局、あの人については何もわからなかったな。
「……ふぅ。」
でも、まぁ……収穫はあったな。町に入った事で、色々と話が聞けたし、人が居る事がわかっただけでも行幸だ。
明日から、毎日通って情報を集めるかな。
「ですから!俺は突き落としてなんていません!階段でいきなりあいつが殴り掛かって来たんです!それを咄嗟に避けたら、あいつが勝手に…」
「抜かすな!相手が植物状態で話せないのを良い事に、そんな出まかせを吹聴するとはなぁ?恥を知るがいい。」
「でまかせなんかじゃありません!班長、あなたは信じてくれますよね?」
「………」
「班長?」
「今しがた、お前の懲戒免職が決まった。」
「……は?」
「上の決定だ。もう、どうすることも出来ない。」
「そんな!?……そんな……」
「すまないが……これは、確定事項だ。」
「あ…ぁぁ……」
「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛っ!!…はぁ…はぁ……はぁ………」
ここは小屋、かなり古い。上からの圧力に屈して濡れ衣を着せる馬鹿も………班長も居ない。
「……夢……またか。」
わたしはアレク。かつて拷問を受けて命を落とし、この世界に転生した男だ。今は、この小屋で恩人を待ち続けている。いるのだが……
「……勘弁してくれ。」
忘れようとする度に、前世の事をこうして夢に見る。……本当にただの悪夢だったなら、どれだけ幸せだろうか。
……綺麗さっぱり忘れたい。前世の事も、何もかも。
転生したなら、前世の記憶に助けられることもあるかもしれない。以前の失敗を繰り返さない様に出来るだけでも幸福と考えられるかもしれない。
だが、私はそれを幸福だと思えそうにない。
ここまで苦しまねばならないのだから。
どうにかして、忘れられないものだろうか?
それが出来ないなら………いっそ一思にここで…
“「(プニッ)」“
「……ん?」
“「(スリスリ)??」“
気付くと、同居人が手の甲に擦り寄って来ていた。
“「(プニプニ)???(スリスリ)???」“
その様子は、心配してくれているかの様にも見える。
「……大丈夫。(ナデナデ)…大丈夫だよ。いつもの悪夢を見ただけだ。……ありがとな、プヨ。」
“「♪♪」“
こいつはプヨ。半透明で弾力のある私の同居人だ。こいつのお陰で、悪夢を見ても…まぁ……大分マシになってると思う。
例えこいつにそのつもりがなくても…私の思い違いだったとしても、今の私にはそれだけで充分嬉しかった。少なからず、憂鬱な気分は払拭されてるし。
「さて……支度するか。」
そうして過ごすうちに、あの日からもう1年が経とうとしていた。あの人が戻って来た時のために、筋トレ・薬学の勉強・自身の治療薬の調合など、やる事はたくさんある。
「(キュッ)これでよし…と。」
けど、最近は他にもやる事が増えた。
「じゃ、ちょっと行って来るから、今日も留守番頼む。」
“「○(プルン)」“
森を出て、以前の廃村を目指す。最近は、そこを基点に人がいる村を探しに行く様になった。匍匐じゃないと、直ぐに着くんだよなぁ。……ほんと、これも早く忘れたい。
そうこうしているうちに、廃村に着いた。
以前、とある一団から聞いた話によると、この廃村から人がいる所まではそう遠くないらしい。だから、廃村を拠点にして近くの村々を探索してみる事にしたのだが……徒労に終わった。
「……」
数ヶ月間この近辺を探していたが、『こっち側』に人の住む町村はなかった。……いや、厳密には村はあった。だが、そのどれもが廃村だった。それも、大分昔から無人だった様だ。
「となると……」
〈ヒュォォォォォォッ〉
「…………『あっち側』か。」
巨壁を見上げて呟いた。
あの人は『人の住んでいる所が近い』と言っていた。壁の向こうとは言ってなかったから壁の『こっち側』を念入りに探した。
やはり、あの壁の向こうなのか?
だが、壁の向こうへ行く上で、重大な問題がある。
これだけ大きな壁なのに、門がどこにもないからだ。
探索は、この壁沿いに行った。左の果ての山麓から右の地平線の先まで……ではないけど、結構端の方まで行ったのに全く見つからなかった。
本当に、万里の長城みたいな壁だ。
もしかしたら、ゴンドラか何かで吊り上げるのかもしれない。しかし、私のためにそんな大掛かりなものを動かしてくれるとは思えないし、そもそも意志疎通の手段すらない。
「………(チラッ)」
だから、壁を越える手段が無ければこのまま引き返すしか……ないん…だけど……
「……(ハァ)」
一応…あるんだよなぁ、越える手段。
この前、見つけちゃったんだよなぁ…突破口。
「(テクテクテク)…………」
そうして、壁沿いに建てられた小屋に向かって歩いていく。
誤解が無い様にはっきり言わせて貰おう。見つけたのは、本当に偶然だったんだ。
「(ピタッ)…………」
確かに、この巨壁には一見すると何の綻びも無い様に見える。だが……
「(ガチャッ)」
〈ヒュォォォォッ〉
扉を明けると、子供が通れそうな程の亀裂があった。
「………」
あの人達と別れてから、他の物資を求めてこの村を探索し直してみたら、この亀裂を見つけた。
見たところ、亀裂には作業痕などの人為的な痕跡は見られないし、小屋の古さに対して亀裂断面が風化している様子は無い。
これは、亀裂が出来る前から小屋があり、亀裂の形成が意図的ではない事実を示唆している。
つまり、密輸路や隠蔽工作が目的ではなく『小屋があるところに偶然亀裂が出来た』という感じだ。
壁自体が老朽化によって弱くなっていたのかもしれない。これだけ大きな壁ともなれば、修理が追い付いていなくても何の不思議もない。前世の道路の塗装とかも中々塗り直されてなかったからな。
だが、そんな事はこの際どうでも良い。今重要なのは、壁の向こうに行けるかもしれないという可能性だ。
「………」
だが、だからといってこの壁を越えて良いわけではない。
「………」
以前、あの人達が拒絶しなかったとはいえ、壁の向こうの人々に受け入れて貰えるとは限らない。
「………」
そもそも、この壁が国境なら不法入国だ。この国の……というよりは、この世界の法律がどういうものかはわからないが、見つかれば碌な事にならないだろう。
「………」
流石に危ないし…引き返した方が良いよな。
「………」
さっさと帰ろう。そして、あの場所であの人を待ち続けよう。何年でも、何十年でも……これまでの…よう……に…………
「………」
「(ガサガサガサ)…(ヒョコッ)……(キョロキョロ)……誰も居ないな。」
壁の亀裂を抜けると、丁度茂みになっていた。好都合だ。だが、油断は出来ない。こんな所を誰かに見られれば、不法入国で捕まるかもしれない。
正直、牢屋へ行くだけなら、まだマシだろう。内政次第では最悪、その日のうちに処刑されるかもしれない。奴隷落ちだって考えられる。
だが、誰かしら人間に出会える。
それだけで、壁を越える動機としては充分だった。
……全く、あの人たちに出会わなければ、こんなに人恋しさで胸が苦しくならなかったのに。
まぁ、ぶっちゃけ一度死んでるし、拷問も一通り受けたし、尊厳もへったくれもないし。
とっくの昔に尊厳も幸せも命も失った私には、もう失えるものなんてない。
最悪、自害すれば丸くおさまる。
一方で、潜入すればこの国の風習、生活様式、公式言語、一般常識その他諸々の情報が手に入る。あわよくば、あの人の事について何かわかるかもしれない。何より、人と話が出来る。
ローリスクでハイリターン。ならば、進むほかあるまい。
けど、出来ればあの人に恩を返したいから、目立つ行動は控えないとな。
とにかく、近くの村か町まで行かなきゃならない。まだ昼前だが、帰りの時間も考えると時間がない。
「よし(ザッ)行くか。」
そうして私は歩み始めた。
~数十分後~
ここまで随分歩いた気がする。匍匐じゃないから結構な距離を歩いた気がするけど、国境から町まではこれだけ離れてるものなのか?
まぁ、何はともあれ……
《ガヤガヤ》
町が見えて来た。あともう少しで着けるかな。
「(バサッ)」
廃村で見つけたフード付きのローブを見に纏う。これで傷や包帯は隠せるだろう。
とにかく、あの町であの人の情報を集めよう。
「…………(ピタッ)」
どうやって?
言葉も話せない。字を書いても、読める人が居ない。コミュニケーションが一切取れない。そんな子供が、特定の個人を探すには、どうすれば良い?
「………」
そもそも、町に入れるのか?入り口で止められたりしないか?
「………」
一か八か、入ってみるか。元々捕まる事も覚悟の上だし。
いや、でも……
「何してんだ?」
「(ビクッ)え゛ぁ゛ぁ゛っ!?!?」
「うぉっ!?」
「だれ…(ガッ)あ…!?(グラッ)」
不意に後ろから声をかけられ、驚いて素っ頓狂な叫びをあげた挙句、振り返ろうとして足がもつれた。
全く、我ながらそそっかしい。
「(ガシッ)…っと!」
「っ!」
間一髪のところで手を掴まれる。
「おい!大丈夫か?」
「は…はい。す…すみません。お手数を…」
「いやいや、(グィッ)こっちも悪かったな。別に驚かすつもりじゃなかったんだ。」
そう謝罪してきた相手は……子供?
口調から、てっきり年上かと思ったけど、私と同い年くらい…て事は4歳くらいか。この町の子かな?
「さっきから、町に入るでもなくただ突っ立って眺めてたもんだから、気になってよ。」
いや、そんな事より早く弁明しないと……
「ところでお前、何処の………ん?」
「いや…あの…違うんです!!」
「………んん?(ジィッ)」
「ただ町の様子を眺めてただけで……」
「………ん~?(ジィィッ)」
「別に怪しい者じゃ……」
「………んんん?(ジィィィィ)」
「……あの?」
何だか、様子がおかしい。さっきからこの少年が見つめてくる。怪しまれている……と、いうのも何だか違う。
「(フイッ)いや、まさか……な…」
何が?
「(フルフル)……そんなはずは無い。」
だから何が?
「……あの、どうされましたか?」
「いや、でも……」
「あの~??」
「いやいや、都合が良すぎるだろ。」
「………」
さっきから、全く話が噛み合わない。少年は独り言ばかりを吐いている。
何が『まさか』で、『都合が良すぎる』のだろうか。それに、人の顔を見るなり考え込むなんて、どういう事だ?
「いや……でもなぁ~」
なんにせよ、チャンスだ。今のうちに離れる事にしよう。
「では…これで失礼しますね。」
「(ポリポリ)……う~ん?」
「……話聞けよ。(タタタッ)」
返答は無いが、構わず走り出す。そうして足早に町へと向かった。
幸いにも、出入りは自由だったらしい。問題なく町に入れた。
《ガヤガヤガヤガヤ》
これまでの静寂が嘘かのような喧騒に似た人々の声。懐かしい。
「………(テクテク)」
それにしても、あの少年は何だったんだろう?会話から逃げた感じになっちゃったけど……ま、何度話しかけても答えてくれなかったんだから仕方な………
「……あれ?」
そういえば私、普通に喋れてたな?
少なくとも、途中までは会話になってた。いつの間にか話せる様になってたのか。
心なしか、足取りも軽いし。やっぱり、彼と話をしたからかな。
よし、それなら人に話を聞けば良い。どんどん話を聞こう。
~数時間後~
「(バタン)………」
廃村に着いた。
結果?全然ダメでした。
何故か大人に話しかける事はできなかった。結局、あの人については何もわからなかったな。
「……ふぅ。」
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