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4.結果と現実
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「いやぁ、悪いな。いきなり宣誓文の読み上げ代表に推挙したりして。」
「いえ……光栄です。」
「本当に、良い宣誓だった。やっぱり俺の目に狂いはなかったな!」
「……はい。ありがとうございます。」
「君には是非とも、教育終了時の挨拶も頼みたいな。」
「いえ………わたしなんかにはもったいないです。もっと他に相応しい方が居るはずですから、終了時は他の方に……」
「謙遜なんてしないでくれ。あの鶴丸グループの大学に通っていた君の様な子がうちに来てくれたのが本当に嬉しいんだ。」
「いえ…わたしはそんな誇れる人間じゃ…………あの時の事故で……ゼミの仲間を……」
「……その事故だが、本当に君がやったミスなのかい?」
「………何故、そんな事を?」
「君を見ていると、そんな事をするとは思えなくてね。」
「出会って1週間では、わからない事もありますよ。」
「前々から不自然だと思ってたんだよ。君の学歴なら、うちで働こうとは考えない筈だ。それこそ、理系の職種とか…」
「大学の専攻と関係ない職種に就業した人は他にも居ます。そもそも、この職場で働く人達だって、色んな前歴があるじゃないですか。」
「……そうだな。俺は10年以上教育を担当してきたが、大卒以外にも高卒・専門校卒・短大卒、職種なら土木・建築・フリーター、果ては消防士や警察官を目指して専門学校に通ってた奴までいた。」
「でしたら……」
「だが、俺の知る限り、理系の大学出身でこの業界に入ったのは君が初めてだ。」
「そうなんですか。では、私がパイオニアですね。」
「正直に答えてくれ。本当は、誰かの罪を被っているんじゃないのか?」
「いえ、面接でも話した通り……わたしの犯した罪です。」
「………そうか。わかった。そのうち、気が向いたら教えてくれ。」
「…………」
〈臨時ニュースです。鶴丸グループ所有の山間部で、先日発見された遺体の身元が判明しました。〉
〈発見された3名は共に、鶴丸グループの大学に通っていた大学生で……〉
〈取り調べの結果、死体遺棄の実行犯と鶴丸グループの関連があると見受けられ、この事件を機に、警察は数ヶ月前のあの事件を再捜査することを決定しました。〉
〈尚、同大学の理事長は先程死亡が確認され……〉
「おい!お前の母校の理事長が自殺したって!!」
「はっ!?」
「さっき食堂で見かけたんだよ!自宅で服毒自殺したらしい!」
「自殺……?そんな…何で自殺なんて……」
「証拠の隠匿に失敗して、数ヶ月前に遺棄した遺体が見つかったんだってよ!!」
「えっ!?じゃ…じゃあ鶴丸グループは?」
「壊滅するかもな。色々と黒い噂が囁かれてたんだ。警察によって徹底的に絞られるだろうな。」
「………そんな…(ガクッ)」
「…おい!?どうした!!」
「(ハッ)あの!!携帯を貸して貰えませんか!?」
「えっ?何でだ?」
「(ガシッ)友達の居る病院にかけるんですよ!!」
「病院?」
「直ぐに転院させないと、生命維持装置が……」
「(グワングワンッ)ま…待て待て!落ち着け!!友達ってのは……」
「あの事故で危篤になったわたしのゼミの仲間ですよ!!理事長が死んだら、生命維持装置を止められます!」
「………そうか。やっぱりそうだったのか。」
「いいから、貸してください!!」
「……いいか?落ち着いて聞け?」
「…?」
「理事長が遺棄したのは、数ヶ月前なんだよ。」
「それが何だって言うんですか!?」
「で、身元も確認された。」
「だから!」
「……(スッ)」
「…?これは?」
「身元が判明した3人の名前だ。さっきメモした。」
「っ………!?」
「やっぱりそうか。数ヶ月前に遺棄した遺体ってのは、お前の居たゼミの……」
「…っ……(ガクッ)なん……だよ…それ…」
「お…おい!?」
「タケ…ル…………ア…カネ…………ヨシ…ミチ………」
「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!っ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……はぁ…はぁ…………」
ここは……そうだった。廃村で寝泊まりしてるんだっけか。
「………」
外は……暗いな。まだ明け方前か。なんとも最悪な目覚めだな。
取り敢えず、もうしばらく寝てから……
〈キキーッ!!〉
「……ん?」
村の外から、何か……軋む様な音が?
「おい!早く運べ!!」
何やら、外が騒がしい。
「(ガララッ)よし!ここに運べ!!」
何だ?……下の方から?あぁ、そうか。ここ屋根裏だった。
夜襲を警戒して登ったが、昼行灯でもなかったみたいだな。
ともかく、出発の時刻って訳か。
ここを起点にして、新たな町か村にでも行こうと思ったが、引き上げた方が良さそうだな。
「おい!こいつは助かるのか!?」
「わかりません。血が流れ過ぎています。」
どうやら、怪我人も居る様だ。……怪我人か……そうだ!新しい薬を試しに作ってみたんだった。確か、血止めの効果があったはず……
だから、何だ?
怪我人が居るからって、何故助けに出るんだ?
見ず知らずの人の前に出る事は、自分にとってはリスクしかない。
もし彼らがここの住人だったなら、不法侵入を申告することになる。
このまま立ち去る事にしよう。事前に屋根から出られる様に開けておいた。屋根裏から上に出て、外壁をカムフラージュネットを伝って降りれば……
「おい!誰か居ないか!!」
外で誰かが叫ぶ。
「居たら返事をしてくれ!来る途中で馬車が盗賊に襲われたんだ!!」
「(カパッ)」
なるほど。ここの住人ではなかったのか。
「頼む!仲間が血を流しているんだ!!」
「(バサッ)」
薬は持っている。だが、薬を持っている事と、助ける事は別問題だ。
「今ならまだ助かるかもしれないんだ!!誰か!!」
「(スルスル)………(ストッ)」
情に流されて、前世でどれだけのしっぺ返しを受けたことか。
「誰か……!!返事をしてくれっ…!!」
「………(ザッ)」
「!?君は……?」
気がつくと、男の前に出ていた。流石に屋根裏から出て来たら不審がられるだろうし、外から回り込んだ。
「君!お父さんかお母さんは!?」
さて、この薬を手渡して、さっさと立ち去ろう。
「(スッ)」
「?…これは?」
けど、薬の説明くらいはするか。
「っ………」
………あれ?
「っ………!っ……………!?」
声が…出なかった。
プヨを相手に話す練習はしていた。だが、人に話しかけることが出来ない。喉の奥で、つかえて声が出ない。
「………」
いや、もしかしたら……あの時から……わたしは……
「喋れないのかい?」
「………」
「ご両親……いや、大人の人は居ないかな?」
……仕方ない。
「(ヒョイッ)」
割れた陶器の破片を手に取る。
「ん?」
「(ザクッ)っ!」
「!?お…おい!?」
「(ドクドクドクドク)っ!」
ちょっと…深く切りすぎたかな。すかさず…
「(カパッ…スッ…ヌリヌリ)」
「(バッ)ちょっと腕を……あれ?」
「(ピタッ)」
血は、うまく止まったようだ。薬の出来は上々だな。
「…!!(ズィッ)」
「あ…あぁ、なるほど。血止めの薬か。(パシッ)ありがとう。使わせてもらうよ。」
さぁ、さっさと行ってくれ。
「(ガシッ)…ちょっと、ごめんね?」
「!?」
抱え上げられた。
「くそっ!血が止まらねぇ!!」
「(ガラッ)おい!薬あった!使え!!」
「えっ!?」
家の中には大の大人が6人。修羅場になっていた。
「この薬……どこで?」
「この子がくれた。血止めの薬らしい。」
「その子が?本当に効果あるんですか?」
「(バッ)見ろ!この子がさっき実演してくれた。血が止まってるだろう?」
そう言って、さっきの傷跡を見せつける。
「いや、でも……」
そりゃそうだ。子供の持ってきた薬をおいそれと瀕死の仲間に使う事は出来ないだろう。
「わかった……(チャキッ)借りるぞ。(ピッ)」
「なっ!?」
そう言うと男は、自らの腕を剣で切った。
「ダンナっ!?何して…」
「(ポタポタ…)落ち着けって(ヌリヌリ)」
そして、その男は薬を腕に塗った。
「(ピタッ)どうだ。納得したか?(スッ)」
「……なるほど、確かに止まってる。なら問題なさそうですね。(ハシッ)」
やっと納得したのか、薬を受け取った。
「それで?何とかなりそうか?」
「(ヌリヌリ)何とも言い難いです。応急処置は出来たから、後は天に任せるしかないですね。」
「ところでダンナ、そいつは?」
「さっきそこで会った。多分孤児だ。」
「マジですか。おいお前、名前は?」
「………っ」
やっぱり、喋れない。
「それが、喋れないみたいなんだ。」
「……なるほど。何か訳ありって感じですかね。」
まぁ……合ってるな。
「そうだ!君、字は書けるかい?(ススッ)これに名前を書いて貰えるかな。」
なるほど、筆談か。それなら出来そうだ。
「いやいや、流石にそれは……」
「……(カキカキッカキカキ)……(スッ)」
《アレク》
「(ピラッ)……アレク。これが、君の名前かい?」
「(コクコク)」
「へぇ、いい名前だね。」
「いや、ダンナ…それより驚く事があるでしょ?」
「そうですよ!この子、字を書いたんですよ?」
「あっ……そういえばそうだな。」
何を驚いて……あ、考えてみれば今わたしは4歳ぐらいだ。幼稚園児で字を書いてたら、そりゃ驚くよね?
「うちの領内じゃあ貴族でもないと、字を書ける奴はほとんどいないんですよ?それをこんな子供が……」
前言撤回、思ったよりもやばい事らしい。
「君、文字は誰から教わったんだい?」
「………」
さて、どう答えたもんかな?
「あぁ、そうだった……(スッ)この紙に、書いて貰って良いかな?」
「……」
どうする?ありのまま、全てを説明するわけにはいかない。かと言って……無言を突き通すのも………
「…んっ……」
「「「!?」」」
寝込んでいた男が目を覚ました。
「おい!大丈夫か!!」
「あ…ダンナ……(ムクッ)」
「起きるな!!(グィッ)」
「んむぅ……」
「まだ起きるな。傷が開いたらどうする?」
「そうだぞ。まだ油断は出来ん。もうしばらくは絶対安静だ。」
「あ…あぁ、わかった。」
とても仲間思いだという事はわかる。けど…
「ごめん、話が逸れたね………ん?」
どうしよう。本当にどうしよう。
「あー、ごめんね?言いたくなかったら、無理に書かなくても良いからね?」
「っ!」
「とにかく、君の薬のおかげで彼は目覚めたよ。その事は、本当にありがとう。(ペコッ)」
本当に、良い人の様だ。事情を配慮してくれるし、こんな子供に対して、頭を下げてくれるなんて……
「それと…ついでに良いかな?」
《何ですか?》
「食料……とか、あるかな?実は、道中で食料もほとんどダメになってしまって……」
「………」
まぁ、乗り掛かった船……って奴かな。
その後、自前の食料を渡したり、他の治療薬や包帯を提供したり、あれこれ筆談していたら、薄明るくなってきた。
「どうもありがとう。色々助かったよ。」
《気にしないでください。》
こっちも、色々と有意義な事を聞く事が出来た。十分にウィンウィンだった。
「お陰で彼は目を覚ましたし、我々も助かった。どんなに礼を言っても足りないよ。」
《そう言って貰えて嬉しいです。》
何かある度に部下の心配……か。本当に、部下思いの良い人だな。
「それで…その…もしよかったらなんだけど……一緒に来ないかい?」
「…………」
「君さえ良ければ、養子として迎え入れたいと思っているんだ。どうかな?」
《せっかくの話ですが、待っている人がいるんです。》
「……それは、君を救ってくれたという恩人さんのことかい?」
「(コクッ)」
「まぁ、それなら仕方ないな。」
「ダンナ!準備出来ました!!」
「わかった。直ぐに行くよ。」
丁度良いタイミングで呼びに来た。
「あぁそうだ!(スッ)これ、受け取ってくれ。」
そう言って、指輪を渡された。
「大したものじゃないけど、今回のお礼だと思って受け取って欲しい。良いかな?」
正直、高価なものを受け取るのは気が引けるけど、そういうことなら………
《はい。ありがとうございます。》
「また来るよ。くれぐれも、盗賊の残党には気を付けてね。」
《はい。ありがとうございます。そちらも、どうか道中お気をつけください。》
「ありがとう。また来るよ!」
そうして、大人達は帰っていった。
「(ゴソッ)後は、服と食器と……(ガサッゴソゴソッ)」
あの人は多分貴族だ。所作や話し方からなんとなくそんな気がする。
「べつに貰っていっても良いよな?(ツメツメ)」
転生してまで既得権益者の巣窟に飛び込むのはごめん被るからな。
貸し借りで関係を作るのも厄介事に繋がりかねないし、この指輪を受け取って貸し借りは清算した。
清算のためなのだから、これも仕方のない事なのだ。
「さて…(キュッ)」
わたしも帰ることにしよう。
あの人の話だと、ここから近くの人がいる町まではそう遠くないらしい。
「……町か。(テクテク)」
服も手に入ったし、今度はそこまで行ってみようかな。
そんな事を考えながら村の外へ……
〈(スァァァァッ)〉
「……ん?」
辺りが大分明るくなってきたと思ったけど、村の外の方が明るい。まるで、村に何かの影が指してる様な……
「っ!?(クルッ)」
そうして後ろへと振り返った。
〈ヒュォォォォォォッ〉
「なっ!?」
壁だ。とてつもなく高く広い壁がさっきの廃村とその一帯に影を落としている。
薄暗くて気づかなかったとはいえ、まさか廃村の直ぐ真裏に、こんな壁があるとは思わなかった。
「(キョロ…キョロ……)」
明らかに人の手が加えられて作られたそれは左の果ての山麓から右の地平線の先まで続いている。高さは高層ビルに匹敵するくらいで、よじ登って超えるのは難しそうだ。
「……(パチクリ)」
前世で見た万里の長城みたいだな。明らかに、何かの侵入を拒んでいるかの様だ。けど、こっち側は猛獣どころか、生き物すらそんなに見かけないし、一体何を恐れているんだろう?
「…………」
あの人は『壁』について言明していなかった。それは壁のこっち側に人が居ないということか…………もしかしたら、元々の住民達はあの壁の向こうにいるのかもしれない。
そして、こっち側は何らかの理由で無人のエリアになったのだろう。
災害?敵国との衝突?それとももっと強大な何かとか?いずれにしろ、壁から見てこっち側は不毛の地って事になる。
「……なるほどね。」
もしそうなら、あの人たちがわたしを見て驚いていた理由もわかるな。
そりゃあ驚くよね。無人のエリアの廃村に、こんな子供が居たら……
てか、それだと昨日やってたわたしのアレって……………深く考えるのはやめよう。うん。そして忘れよう。うん。誰も居ないなら、誰も見てないって事だ。ノーダメージ、ノーダメージだ、うん。
そうして、朝日と壁を背にして足早に帰路を辿った。
「いえ……光栄です。」
「本当に、良い宣誓だった。やっぱり俺の目に狂いはなかったな!」
「……はい。ありがとうございます。」
「君には是非とも、教育終了時の挨拶も頼みたいな。」
「いえ………わたしなんかにはもったいないです。もっと他に相応しい方が居るはずですから、終了時は他の方に……」
「謙遜なんてしないでくれ。あの鶴丸グループの大学に通っていた君の様な子がうちに来てくれたのが本当に嬉しいんだ。」
「いえ…わたしはそんな誇れる人間じゃ…………あの時の事故で……ゼミの仲間を……」
「……その事故だが、本当に君がやったミスなのかい?」
「………何故、そんな事を?」
「君を見ていると、そんな事をするとは思えなくてね。」
「出会って1週間では、わからない事もありますよ。」
「前々から不自然だと思ってたんだよ。君の学歴なら、うちで働こうとは考えない筈だ。それこそ、理系の職種とか…」
「大学の専攻と関係ない職種に就業した人は他にも居ます。そもそも、この職場で働く人達だって、色んな前歴があるじゃないですか。」
「……そうだな。俺は10年以上教育を担当してきたが、大卒以外にも高卒・専門校卒・短大卒、職種なら土木・建築・フリーター、果ては消防士や警察官を目指して専門学校に通ってた奴までいた。」
「でしたら……」
「だが、俺の知る限り、理系の大学出身でこの業界に入ったのは君が初めてだ。」
「そうなんですか。では、私がパイオニアですね。」
「正直に答えてくれ。本当は、誰かの罪を被っているんじゃないのか?」
「いえ、面接でも話した通り……わたしの犯した罪です。」
「………そうか。わかった。そのうち、気が向いたら教えてくれ。」
「…………」
〈臨時ニュースです。鶴丸グループ所有の山間部で、先日発見された遺体の身元が判明しました。〉
〈発見された3名は共に、鶴丸グループの大学に通っていた大学生で……〉
〈取り調べの結果、死体遺棄の実行犯と鶴丸グループの関連があると見受けられ、この事件を機に、警察は数ヶ月前のあの事件を再捜査することを決定しました。〉
〈尚、同大学の理事長は先程死亡が確認され……〉
「おい!お前の母校の理事長が自殺したって!!」
「はっ!?」
「さっき食堂で見かけたんだよ!自宅で服毒自殺したらしい!」
「自殺……?そんな…何で自殺なんて……」
「証拠の隠匿に失敗して、数ヶ月前に遺棄した遺体が見つかったんだってよ!!」
「えっ!?じゃ…じゃあ鶴丸グループは?」
「壊滅するかもな。色々と黒い噂が囁かれてたんだ。警察によって徹底的に絞られるだろうな。」
「………そんな…(ガクッ)」
「…おい!?どうした!!」
「(ハッ)あの!!携帯を貸して貰えませんか!?」
「えっ?何でだ?」
「(ガシッ)友達の居る病院にかけるんですよ!!」
「病院?」
「直ぐに転院させないと、生命維持装置が……」
「(グワングワンッ)ま…待て待て!落ち着け!!友達ってのは……」
「あの事故で危篤になったわたしのゼミの仲間ですよ!!理事長が死んだら、生命維持装置を止められます!」
「………そうか。やっぱりそうだったのか。」
「いいから、貸してください!!」
「……いいか?落ち着いて聞け?」
「…?」
「理事長が遺棄したのは、数ヶ月前なんだよ。」
「それが何だって言うんですか!?」
「で、身元も確認された。」
「だから!」
「……(スッ)」
「…?これは?」
「身元が判明した3人の名前だ。さっきメモした。」
「っ………!?」
「やっぱりそうか。数ヶ月前に遺棄した遺体ってのは、お前の居たゼミの……」
「…っ……(ガクッ)なん……だよ…それ…」
「お…おい!?」
「タケ…ル…………ア…カネ…………ヨシ…ミチ………」
「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!っ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……はぁ…はぁ…………」
ここは……そうだった。廃村で寝泊まりしてるんだっけか。
「………」
外は……暗いな。まだ明け方前か。なんとも最悪な目覚めだな。
取り敢えず、もうしばらく寝てから……
〈キキーッ!!〉
「……ん?」
村の外から、何か……軋む様な音が?
「おい!早く運べ!!」
何やら、外が騒がしい。
「(ガララッ)よし!ここに運べ!!」
何だ?……下の方から?あぁ、そうか。ここ屋根裏だった。
夜襲を警戒して登ったが、昼行灯でもなかったみたいだな。
ともかく、出発の時刻って訳か。
ここを起点にして、新たな町か村にでも行こうと思ったが、引き上げた方が良さそうだな。
「おい!こいつは助かるのか!?」
「わかりません。血が流れ過ぎています。」
どうやら、怪我人も居る様だ。……怪我人か……そうだ!新しい薬を試しに作ってみたんだった。確か、血止めの効果があったはず……
だから、何だ?
怪我人が居るからって、何故助けに出るんだ?
見ず知らずの人の前に出る事は、自分にとってはリスクしかない。
もし彼らがここの住人だったなら、不法侵入を申告することになる。
このまま立ち去る事にしよう。事前に屋根から出られる様に開けておいた。屋根裏から上に出て、外壁をカムフラージュネットを伝って降りれば……
「おい!誰か居ないか!!」
外で誰かが叫ぶ。
「居たら返事をしてくれ!来る途中で馬車が盗賊に襲われたんだ!!」
「(カパッ)」
なるほど。ここの住人ではなかったのか。
「頼む!仲間が血を流しているんだ!!」
「(バサッ)」
薬は持っている。だが、薬を持っている事と、助ける事は別問題だ。
「今ならまだ助かるかもしれないんだ!!誰か!!」
「(スルスル)………(ストッ)」
情に流されて、前世でどれだけのしっぺ返しを受けたことか。
「誰か……!!返事をしてくれっ…!!」
「………(ザッ)」
「!?君は……?」
気がつくと、男の前に出ていた。流石に屋根裏から出て来たら不審がられるだろうし、外から回り込んだ。
「君!お父さんかお母さんは!?」
さて、この薬を手渡して、さっさと立ち去ろう。
「(スッ)」
「?…これは?」
けど、薬の説明くらいはするか。
「っ………」
………あれ?
「っ………!っ……………!?」
声が…出なかった。
プヨを相手に話す練習はしていた。だが、人に話しかけることが出来ない。喉の奥で、つかえて声が出ない。
「………」
いや、もしかしたら……あの時から……わたしは……
「喋れないのかい?」
「………」
「ご両親……いや、大人の人は居ないかな?」
……仕方ない。
「(ヒョイッ)」
割れた陶器の破片を手に取る。
「ん?」
「(ザクッ)っ!」
「!?お…おい!?」
「(ドクドクドクドク)っ!」
ちょっと…深く切りすぎたかな。すかさず…
「(カパッ…スッ…ヌリヌリ)」
「(バッ)ちょっと腕を……あれ?」
「(ピタッ)」
血は、うまく止まったようだ。薬の出来は上々だな。
「…!!(ズィッ)」
「あ…あぁ、なるほど。血止めの薬か。(パシッ)ありがとう。使わせてもらうよ。」
さぁ、さっさと行ってくれ。
「(ガシッ)…ちょっと、ごめんね?」
「!?」
抱え上げられた。
「くそっ!血が止まらねぇ!!」
「(ガラッ)おい!薬あった!使え!!」
「えっ!?」
家の中には大の大人が6人。修羅場になっていた。
「この薬……どこで?」
「この子がくれた。血止めの薬らしい。」
「その子が?本当に効果あるんですか?」
「(バッ)見ろ!この子がさっき実演してくれた。血が止まってるだろう?」
そう言って、さっきの傷跡を見せつける。
「いや、でも……」
そりゃそうだ。子供の持ってきた薬をおいそれと瀕死の仲間に使う事は出来ないだろう。
「わかった……(チャキッ)借りるぞ。(ピッ)」
「なっ!?」
そう言うと男は、自らの腕を剣で切った。
「ダンナっ!?何して…」
「(ポタポタ…)落ち着けって(ヌリヌリ)」
そして、その男は薬を腕に塗った。
「(ピタッ)どうだ。納得したか?(スッ)」
「……なるほど、確かに止まってる。なら問題なさそうですね。(ハシッ)」
やっと納得したのか、薬を受け取った。
「それで?何とかなりそうか?」
「(ヌリヌリ)何とも言い難いです。応急処置は出来たから、後は天に任せるしかないですね。」
「ところでダンナ、そいつは?」
「さっきそこで会った。多分孤児だ。」
「マジですか。おいお前、名前は?」
「………っ」
やっぱり、喋れない。
「それが、喋れないみたいなんだ。」
「……なるほど。何か訳ありって感じですかね。」
まぁ……合ってるな。
「そうだ!君、字は書けるかい?(ススッ)これに名前を書いて貰えるかな。」
なるほど、筆談か。それなら出来そうだ。
「いやいや、流石にそれは……」
「……(カキカキッカキカキ)……(スッ)」
《アレク》
「(ピラッ)……アレク。これが、君の名前かい?」
「(コクコク)」
「へぇ、いい名前だね。」
「いや、ダンナ…それより驚く事があるでしょ?」
「そうですよ!この子、字を書いたんですよ?」
「あっ……そういえばそうだな。」
何を驚いて……あ、考えてみれば今わたしは4歳ぐらいだ。幼稚園児で字を書いてたら、そりゃ驚くよね?
「うちの領内じゃあ貴族でもないと、字を書ける奴はほとんどいないんですよ?それをこんな子供が……」
前言撤回、思ったよりもやばい事らしい。
「君、文字は誰から教わったんだい?」
「………」
さて、どう答えたもんかな?
「あぁ、そうだった……(スッ)この紙に、書いて貰って良いかな?」
「……」
どうする?ありのまま、全てを説明するわけにはいかない。かと言って……無言を突き通すのも………
「…んっ……」
「「「!?」」」
寝込んでいた男が目を覚ました。
「おい!大丈夫か!!」
「あ…ダンナ……(ムクッ)」
「起きるな!!(グィッ)」
「んむぅ……」
「まだ起きるな。傷が開いたらどうする?」
「そうだぞ。まだ油断は出来ん。もうしばらくは絶対安静だ。」
「あ…あぁ、わかった。」
とても仲間思いだという事はわかる。けど…
「ごめん、話が逸れたね………ん?」
どうしよう。本当にどうしよう。
「あー、ごめんね?言いたくなかったら、無理に書かなくても良いからね?」
「っ!」
「とにかく、君の薬のおかげで彼は目覚めたよ。その事は、本当にありがとう。(ペコッ)」
本当に、良い人の様だ。事情を配慮してくれるし、こんな子供に対して、頭を下げてくれるなんて……
「それと…ついでに良いかな?」
《何ですか?》
「食料……とか、あるかな?実は、道中で食料もほとんどダメになってしまって……」
「………」
まぁ、乗り掛かった船……って奴かな。
その後、自前の食料を渡したり、他の治療薬や包帯を提供したり、あれこれ筆談していたら、薄明るくなってきた。
「どうもありがとう。色々助かったよ。」
《気にしないでください。》
こっちも、色々と有意義な事を聞く事が出来た。十分にウィンウィンだった。
「お陰で彼は目を覚ましたし、我々も助かった。どんなに礼を言っても足りないよ。」
《そう言って貰えて嬉しいです。》
何かある度に部下の心配……か。本当に、部下思いの良い人だな。
「それで…その…もしよかったらなんだけど……一緒に来ないかい?」
「…………」
「君さえ良ければ、養子として迎え入れたいと思っているんだ。どうかな?」
《せっかくの話ですが、待っている人がいるんです。》
「……それは、君を救ってくれたという恩人さんのことかい?」
「(コクッ)」
「まぁ、それなら仕方ないな。」
「ダンナ!準備出来ました!!」
「わかった。直ぐに行くよ。」
丁度良いタイミングで呼びに来た。
「あぁそうだ!(スッ)これ、受け取ってくれ。」
そう言って、指輪を渡された。
「大したものじゃないけど、今回のお礼だと思って受け取って欲しい。良いかな?」
正直、高価なものを受け取るのは気が引けるけど、そういうことなら………
《はい。ありがとうございます。》
「また来るよ。くれぐれも、盗賊の残党には気を付けてね。」
《はい。ありがとうございます。そちらも、どうか道中お気をつけください。》
「ありがとう。また来るよ!」
そうして、大人達は帰っていった。
「(ゴソッ)後は、服と食器と……(ガサッゴソゴソッ)」
あの人は多分貴族だ。所作や話し方からなんとなくそんな気がする。
「べつに貰っていっても良いよな?(ツメツメ)」
転生してまで既得権益者の巣窟に飛び込むのはごめん被るからな。
貸し借りで関係を作るのも厄介事に繋がりかねないし、この指輪を受け取って貸し借りは清算した。
清算のためなのだから、これも仕方のない事なのだ。
「さて…(キュッ)」
わたしも帰ることにしよう。
あの人の話だと、ここから近くの人がいる町まではそう遠くないらしい。
「……町か。(テクテク)」
服も手に入ったし、今度はそこまで行ってみようかな。
そんな事を考えながら村の外へ……
〈(スァァァァッ)〉
「……ん?」
辺りが大分明るくなってきたと思ったけど、村の外の方が明るい。まるで、村に何かの影が指してる様な……
「っ!?(クルッ)」
そうして後ろへと振り返った。
〈ヒュォォォォォォッ〉
「なっ!?」
壁だ。とてつもなく高く広い壁がさっきの廃村とその一帯に影を落としている。
薄暗くて気づかなかったとはいえ、まさか廃村の直ぐ真裏に、こんな壁があるとは思わなかった。
「(キョロ…キョロ……)」
明らかに人の手が加えられて作られたそれは左の果ての山麓から右の地平線の先まで続いている。高さは高層ビルに匹敵するくらいで、よじ登って超えるのは難しそうだ。
「……(パチクリ)」
前世で見た万里の長城みたいだな。明らかに、何かの侵入を拒んでいるかの様だ。けど、こっち側は猛獣どころか、生き物すらそんなに見かけないし、一体何を恐れているんだろう?
「…………」
あの人は『壁』について言明していなかった。それは壁のこっち側に人が居ないということか…………もしかしたら、元々の住民達はあの壁の向こうにいるのかもしれない。
そして、こっち側は何らかの理由で無人のエリアになったのだろう。
災害?敵国との衝突?それとももっと強大な何かとか?いずれにしろ、壁から見てこっち側は不毛の地って事になる。
「……なるほどね。」
もしそうなら、あの人たちがわたしを見て驚いていた理由もわかるな。
そりゃあ驚くよね。無人のエリアの廃村に、こんな子供が居たら……
てか、それだと昨日やってたわたしのアレって……………深く考えるのはやめよう。うん。そして忘れよう。うん。誰も居ないなら、誰も見てないって事だ。ノーダメージ、ノーダメージだ、うん。
そうして、朝日と壁を背にして足早に帰路を辿った。
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