全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第一章

チャラ男は、一筋縄ではいかないようだ

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 クリフさんに顎をグイッとされたまま、この美しい黒髪の男から目を逸らす。見れば見るほど、その美しさに見入ってしまうからだ。

「エマは俺が嫌なのか? 」

 少し掠れたような甘い声で囁かれ、

「いっ、嫌に決まってるでしょう!? 」

苦し紛れに吐き出す。

「わっ、私!軽い男は嫌いなんです。
 そうやって、すぐに女の子に思わせぶりな態度を取るような」

「軽い……? 」

 クリフさんは鼻で笑う。

「俺のどこが軽いんだ? 」

 (いや、全てが軽いよ……)

 なんて言い返す気力も無くなり、はあっとため息をつく。

 クリフさんは、自分が軽いとかチャラいとか思っていないのだろうか。あの軽さは、生まれ持った性質なのだろうか。……ということは、無自覚チャラ男か? 無自覚ほど、タチが悪いものもない。

 がくんと項垂れている私を見て、クリフさんは勝ち誇ったように告げた。

「そう言っていられるのは、今のうちだ。
 エマは気付いているだろう?俺といると、心地よいってこと」

 気付いていないはずがない。だが、気付いていると知られてはいけない。そうやって男は女を誑かし、都合のいいように扱うのだから。

「知りません!……知りませんってば!! 」

 クリフさんを家の外に押し出そうとし、彼に触れる。するとやはり、胸の奥底がじんわりと温かくなるのだ。

 (私の体、おかしい!! )

 私はクリフさんから手を離し、じんわり温かくなった胸部をぐしゃぐしゃっと手で撫で回す。その様子を見ているクリフさんが、

「子猫ちゃんの毛繕いか? 」

なんて言うため、やめてくださいと怒鳴りそうになった。




 こうやって混乱している私を、クリフさんは頬を緩めて見ていた。まるで、愛しいものを見るような瞳で。そんな瞳で見るから、警戒してしまう。チャラ男だと思ってしまう。だって……勇輝もそんな瞳で私を見ていたのだから。

「まあ、いい」

 クリフさんは部屋の中央にある机に、どかっと腰を下ろす。

 (なにっ!? まだ居座る気!? )

 顔を引き攣らせる私の前で、パチンと指を鳴らした。
 すると、閉まっていた家の玄関が開き……

「クリフォード様、エマ様。お食事をお持ちしました」

 なんと、メイド服を着た女性たちが、大きなワゴンを引いて入ってくるのだ。ワゴンの上にはたくさんのご馳走……それを見た瞬間、空腹が私を襲う。

 (色んなことがありすぎて忘れていたけど、私、朝から何も食べていなかったんだ)

 ご馳走に見入っている私を見て、クリフさんは満足そうに笑った。

「食べながら、ゆっくり話でもしよう」




 食べ物に流されてはいけないと分かっている。だが、空腹の私には、目の前に並ぶ数々の料理を我慢することは不可能だった。

「うわぁー!! 美味しそうなハム!」

「それは魔鳥の燻製だ」

「フルーツもたくさん」

「ドラゴンプラムの実は、美味しいし魔力だって回復する」

 クリフさんは訳の分からないことを言うが、無視することに決めた。だが、出された料理はどれも美味しく、頬が落ちるという言葉がぴったりだ。
 夢中になって食べる私は、ふとクリフさんの妙な視線を感じる。彼を見ると、目を細めて愛しそうに私を見つめていて……

 (目に毒だわ……)

 慌てて彼から目を逸らし、見なかったことにしておいた。

 そうやって甘い言葉を囁かれ、甘い瞳で見られても、最後には裏切られることは分かっている。裏切られるのは、もう懲り懲りだ。



「エマ」

 クリフさんは、低く甘い声で私に聞く。

「もし良かったら、エマがどこから来たのか、何者なのかを教えてくれないか? 」

 初めて聞く、クリフさんからの真っ当な質問だ。そして、私はそれを聞かれるのを、心のどこかで待っていたのかもしれない。

「エマがもとの世界に戻れる方法を考えられるかもしれない」

 (えっ……)

 思わずクリフさんを凝視する。彼はその綺麗な瞳で真っ直ぐに私を見ている。……が、次の瞬間、少し頬を染めてぼやいた。

「戻す気はないが……」

 (!!? )

 クリフさんはずるい。こうやって押したり引いたりして、少しずつ私の気を緩めようとしているのだ。女の扱いに長けているところを見れば、やはりチャラ男なのだろう。
 だが……もとの世界に戻れるかもしれない。そう思うと、黙ってはいられなかった。そして私は、何者なのかもよく分かっていないクリフさんに、黒竜様に出会うまでの経緯を話していた。



「友人とトラブルを起こして揉めていたら……急にこの世界にいたんです」

 勇輝と里果との恋愛のいざこざは話していないが、この世界に召喚されたらしいこと。召喚した人は、聖女を探していたこと。里果が自分を聖女だと言い始め、関係のない私は追放されたことを話す。
 話しているうちに、我ながら情けなくなってきた。

 (恋人と友人に裏切られ、追放され、心配すらされない私って一体……)

 だが、

「辛かったんだな」

クリフさんは静かにそう言い、そっと私の頭を撫でてくれる。クリフさんに触れられると、やはり胸が温かくなり心が満たされていく。不覚にも、撫でられて嬉しいだなんて思ってしまう。

「エマは十分辛い思いをしてきた。頑張ったな。
 だからこれからはここで、大切にされて生きればいい」

 こんな世界で生きるのなんてごめんなのに、その言葉すら嬉しかった。溢れそうな涙を必死で我慢したのは言うまでもない。
 
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