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第一章
私には、聖なる力があるらしい
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こうして私は、昼間は食堂で働き、夕食をクリフさんと食べる。そんな毎日を送っている。楽しい人々に囲まれて仕事をし、クリフさんと他愛のない話をする。そう過ごしていると、勇輝と里果のことを考える時間も少しずつ短くなっていることに気付いた。
だからといって、クリフさんに惚れているなんてことは、断じてない。だが、クリフさんがいると自然と心が安らぎ、触れると温かく安心することには変わりなかった。
そして、今日も私は元気に仕事をする。
「本日のランチセットですね。
本日のメインはドラゴンミールのリゾットとなっております。
デザートは、コーヒーと共に食後にお持ちしましょうか? 」
「エマちゃん、お願いね」
常連さんにも顔を覚えられ、楽しく食堂で働いている。そんなバタバタしたランチの時間帯、急に厨房から女将さんの悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたんですか!? 」
慌てて駆け寄ると、女将さんは顔を歪めて私を見た。そして、その指からは血が流れている。
「い、急いでいたら、つい包丁でざっくり……」
この忙しい時間帯のことだ。女将さんが必死で料理を作っているのも知っている。そして、必死のあまり、容赦なく指をザクっとやってしまったのだ。
(こういう時はどうしよう。
止血? それとも洗う? )
あたふたしている私は全くの役立たずだ。その間にも、女将さんの傷口からは血が溢れている。
(救急車!? )
この世界に救急車なんてものが、あるとも思えない。
「と、とにかく、止血しましょう!! 」
半ばパニックを起こしながら女将さんの指に触れた時だった。私が触れた場所が白く光り、女将さんの傷をぼんやりと包んでいく。そして、みるみるうちに傷が塞がっていくのだ。
私は、信じられないこの奇跡を呆然と見ていた。
(黒竜様に触れた時と同じだわ)
女将さんの傷口が完全に塞がったことを確認して、自分の手を再度見るが、そこにあるのはいつもの私の手だ。
「エマちゃん……」
何度も手を確認している私に、女将さんは驚いたように告げる。
「何その力!? 」
「さ……さぁ? 私にも分かりません」
混乱しながら告げた私に、女将さんはなおも驚いたように言う。
「まさか、エマちゃんって聖女様なの? 」
「聖女様? 」
その、嫌な響きのする単語を繰り返していた。
思い返せば、私たちは『聖女』を召喚するために、この地に呼び寄せられた。そして、呼ばれた先で里果が自らを『聖女』だと言い、私は追放された。
まさか、聖女というのは私だったのだろうか。
呆然とする私に、女将さんは教えてくれた。
「聖女様は優しい心と癒しの力を持っているって言われていてね。
世界のどこかにはいるらしいんだけど、出会ったのは初めてだわ」
「あっ。それなら私、聖女じゃありません」
思わず女将さんに告げていた。
「だって、優しい心なんて持っていませんから」
私の言葉に、女将さんは豪快に笑う。
「何言ってんのよ。エマちゃんは十分に優しいわ。
私が怪我したら心配してくれるんだもん!」
笑いながら肩をバシバシ叩かれるが……何だか女将さんの言葉に納得出来ないのも事実だ。
(怪我をしたら心配するのは当然でしょう? )
女将さんはなおも上機嫌で続ける。
「街でもエマちゃんのことは噂になってるのよ。珍しい黒髪の元気な子が食堂にいるってね。
それでエマちゃんが聖女だったのなら、さらに人気になっちゃうわ。
……そうね。お付き合いしたい人があとを絶たないかも」
「えェッ!? それは困ります!! 」
私は焦って女将さんに告げていた。
正直、今お付き合いだなんて言われても、その気にすらなれないのも事実だ。勇輝との一件があり、完全に自信を失っていたのだから。
だが、私の心の内が女将さんに分かるはずもない。女将さんは上機嫌のままべらべらと続ける。
「聖女様なんて噂が広まったら、それこそ竜王陛下が来ちゃうかもね?
竜王陛下は代々、聖女を妻にしていることが多いから。それに……」
「それに……? 」
体に走る震えがバレないよう、必死で平静を装う。そんな私に、女将さんはトドメを刺した。
「竜人族の最愛って、髪色が同じ人らしいのよ。
エマちゃんは偶然にも竜王陛下と同じ髪色だから……」
「ひぃぃぃっ!! 」
私は思わず悲鳴を上げていた。
「勘弁ッ!! 竜王陛下とか、本当に勘弁ですから!! 」
今の話を聞いただけでも、竜王陛下と関わりたくなくなってしまう。聖女だから、髪色が一緒だからと妻にしてしまう竜王陛下は、きっと私とは考えが合わないだろう。勇輝の時と同じ目に遭うのは間違いないだろう。さらに、クリフさんみたいにすっごくチャラいかもしれない。
……クリフさんか。
ふと、クリフさんを思い出す。クリフさんなんて好きなはずがないのに……クリフさんを思うと、不覚にもあの心地よい温もりを思い出してしまうのであった。
そんななか、扉がガチャリと開き、見慣れた黒い騎士服を着た男性が入ってくる。緑色の髪で遠くから見ても立派な体つきの彼は、どかっとカウンターに腰を下ろした。
(王城にいる騎士だわ)
そう思うだけで身構えてしまう。もちろん私は悪いことなど何もしていないが、クリフさんと繋がっているかもしれないと思うと油断が出来ない。
(まさか、私の働いている様子をクリフさんに報告する訳じゃないよね? )
だからといって、クリフさんに惚れているなんてことは、断じてない。だが、クリフさんがいると自然と心が安らぎ、触れると温かく安心することには変わりなかった。
そして、今日も私は元気に仕事をする。
「本日のランチセットですね。
本日のメインはドラゴンミールのリゾットとなっております。
デザートは、コーヒーと共に食後にお持ちしましょうか? 」
「エマちゃん、お願いね」
常連さんにも顔を覚えられ、楽しく食堂で働いている。そんなバタバタしたランチの時間帯、急に厨房から女将さんの悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたんですか!? 」
慌てて駆け寄ると、女将さんは顔を歪めて私を見た。そして、その指からは血が流れている。
「い、急いでいたら、つい包丁でざっくり……」
この忙しい時間帯のことだ。女将さんが必死で料理を作っているのも知っている。そして、必死のあまり、容赦なく指をザクっとやってしまったのだ。
(こういう時はどうしよう。
止血? それとも洗う? )
あたふたしている私は全くの役立たずだ。その間にも、女将さんの傷口からは血が溢れている。
(救急車!? )
この世界に救急車なんてものが、あるとも思えない。
「と、とにかく、止血しましょう!! 」
半ばパニックを起こしながら女将さんの指に触れた時だった。私が触れた場所が白く光り、女将さんの傷をぼんやりと包んでいく。そして、みるみるうちに傷が塞がっていくのだ。
私は、信じられないこの奇跡を呆然と見ていた。
(黒竜様に触れた時と同じだわ)
女将さんの傷口が完全に塞がったことを確認して、自分の手を再度見るが、そこにあるのはいつもの私の手だ。
「エマちゃん……」
何度も手を確認している私に、女将さんは驚いたように告げる。
「何その力!? 」
「さ……さぁ? 私にも分かりません」
混乱しながら告げた私に、女将さんはなおも驚いたように言う。
「まさか、エマちゃんって聖女様なの? 」
「聖女様? 」
その、嫌な響きのする単語を繰り返していた。
思い返せば、私たちは『聖女』を召喚するために、この地に呼び寄せられた。そして、呼ばれた先で里果が自らを『聖女』だと言い、私は追放された。
まさか、聖女というのは私だったのだろうか。
呆然とする私に、女将さんは教えてくれた。
「聖女様は優しい心と癒しの力を持っているって言われていてね。
世界のどこかにはいるらしいんだけど、出会ったのは初めてだわ」
「あっ。それなら私、聖女じゃありません」
思わず女将さんに告げていた。
「だって、優しい心なんて持っていませんから」
私の言葉に、女将さんは豪快に笑う。
「何言ってんのよ。エマちゃんは十分に優しいわ。
私が怪我したら心配してくれるんだもん!」
笑いながら肩をバシバシ叩かれるが……何だか女将さんの言葉に納得出来ないのも事実だ。
(怪我をしたら心配するのは当然でしょう? )
女将さんはなおも上機嫌で続ける。
「街でもエマちゃんのことは噂になってるのよ。珍しい黒髪の元気な子が食堂にいるってね。
それでエマちゃんが聖女だったのなら、さらに人気になっちゃうわ。
……そうね。お付き合いしたい人があとを絶たないかも」
「えェッ!? それは困ります!! 」
私は焦って女将さんに告げていた。
正直、今お付き合いだなんて言われても、その気にすらなれないのも事実だ。勇輝との一件があり、完全に自信を失っていたのだから。
だが、私の心の内が女将さんに分かるはずもない。女将さんは上機嫌のままべらべらと続ける。
「聖女様なんて噂が広まったら、それこそ竜王陛下が来ちゃうかもね?
竜王陛下は代々、聖女を妻にしていることが多いから。それに……」
「それに……? 」
体に走る震えがバレないよう、必死で平静を装う。そんな私に、女将さんはトドメを刺した。
「竜人族の最愛って、髪色が同じ人らしいのよ。
エマちゃんは偶然にも竜王陛下と同じ髪色だから……」
「ひぃぃぃっ!! 」
私は思わず悲鳴を上げていた。
「勘弁ッ!! 竜王陛下とか、本当に勘弁ですから!! 」
今の話を聞いただけでも、竜王陛下と関わりたくなくなってしまう。聖女だから、髪色が一緒だからと妻にしてしまう竜王陛下は、きっと私とは考えが合わないだろう。勇輝の時と同じ目に遭うのは間違いないだろう。さらに、クリフさんみたいにすっごくチャラいかもしれない。
……クリフさんか。
ふと、クリフさんを思い出す。クリフさんなんて好きなはずがないのに……クリフさんを思うと、不覚にもあの心地よい温もりを思い出してしまうのであった。
そんななか、扉がガチャリと開き、見慣れた黒い騎士服を着た男性が入ってくる。緑色の髪で遠くから見ても立派な体つきの彼は、どかっとカウンターに腰を下ろした。
(王城にいる騎士だわ)
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