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第一章
真面目なセクハラ騎士
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私は平静を装って、水の入ったグラスを手に騎士に近寄る。そして、素知らぬ顔で挨拶をした。
「いらっしゃいませ」
平静に平静にと心の中で唱えるが、グラスを持つ手が微かに震えている。
「ご注文はお決まりですか? 」
引き攣った笑顔で聞くと、彼はようやく顔を上げた。
「あなたはもしかして……」
ビクッと飛び上がりそうになる。注文だけ取って早く逃げようと身構えている私を、彼の茶色い瞳がしっかりと捉える。
「もしかして……エマ様ですか? 」
「さっ……様!? 」
予想外の呼ばれ方に、今度は本当に飛び上がった。体だけでなく、心臓もビクンビクンと脈を打っている。
(様ってなに、様って!! )
混乱する私に、騎士は丁寧に頭を下げて自己紹介した。
「私は、近衛騎士団のライアンと申します。
クリフォード様よりエマ様のことをお聞きし、ご様子を拝見しに伺いました」
(あぁ……やっぱり、クリフさんが私の様子を見るように言ったんだわ……)
だが、このライアンという騎士、クリフさんよりもずっと真面目で堅そうだ。いわゆるチャラ男とは正反対の人種だろう。ライアンさんが変な気を起こしている様子でもないため、私は笑顔で答えていた。
「はじめまして、絵麻と申します。
私は敬われる立場でもないので、どうか様は付けないでください」
すると、ライアンさんは少し驚いた顔をする。そして丁寧に頭を下げた。
「不快な思いをさせて申し訳ありません。
それでは、エマさんとお呼びしましょう」
そんな堅苦しすぎるライアンに、私は苦笑いをしながら聞く。
「それで……クリフさんは、一体何を心配されているんですか?
私はただ、ここで楽しく仕事をしていますし、何も不都合はありません」
すると、彼は言いにくそうに告げたのだ。
「クリフォード様は、どうやらあなたと波長が合うらしい。そのため、あなたのことをすごく気にしておられるのですが……
その……こんなところで働いていたら、エマさんを好きになってしまう男が出てくるのではないかと……」
「あー……結局、私が誰かと付き合うんじゃないかって心配してるんですね」
ため息混じりに答えた。
クリフさんがそれを心配しているのは薄々気付いていた。そして、クリフさんが私を落とそうとしているのも知っている。その理由が『波長が合う』だなんて。
人と付き合う理由が、『波長が合う』だなんて、私には理解不能だ。付き合うには、ちゃんと恋をして、お互い気持ちを確かめ合ってから付き合いたい。
それであっても、私は今、誰かを好きになったりはしたくない。
「私、誰とも付き合いません。
もちろん、クリフさんとも」
私が答えると、ライアンさんは少し意外な顔で私を見る。
「なぜです?
エマさんは結婚適齢期ですよね? 」
私は今年、二十歳になる。そのため、結婚適齢期といえば間違いはないのだが……お付き合いはともかく、結婚なんて考えたこともない。
(この世界では、皆私くらいの歳で結婚するのかな? )
それでも、クリフさんからもライアンさんからも男が男がと言われたくない私。私はきっとライアンさんを睨み、告げていた。
「私は、恋人に浮気されて振られたばかりです。
今、相手を見つける気分にもなりません」
(いい加減、分かってよ!! )
すると、ライアンさんは額に手を当て、深く考えるように俯いた。そして、ぽつりとこぼす。
「それでは、エマさんは男性と交わったことがあるのでしょうか。
……それはそれで問題だ」
「!!? 」
予想外の言葉に、私は顔を真っ赤にする。
ライアンさんは真面目なふりをしていて、心の中は真っピンクなのだろうか。いきなり初対面でその質問は不躾だ。……セクハラだ。
「なんでそうなるんですか!? 」
私は声を震わせて、ライアンさんを睨んでいた。
「体を許さなかったから振られたのに、その言い方はないでしょう!! 」
そう言いながらも愕然とする。
私が勇輝をもっと受け入れていれば、振られることはなかった。この世界に飛ばされることだってなかったのかもしれない。
ライアンさんは罰が悪そうに私を見て、
「すまない」
ぼそりと謝る。
「エマさんの気持ちを考えなかった自分が悪かった。
だが……竜人族の番となるには、純潔性も必要です」
意味不明なことを口走るライアンさんに、とうとう声を荒げていた。
「竜人族!? 番!? そんなもの、私には関係ありません!!
私の相手は、私自身が決めるんです!! 」
一瞬、しーんと食堂が静まり返る。そして、周りの人々の驚いたような視線を感じた。だから私は慌てて口を塞いだ。
こんなところで痴話なんてしているから、人々の注目を集めてしまったのだ。クリフさんといいライアンさんといい、私の恋愛のいざこざを知って、何がしたいのだろう。大きなため息をついていた。
「いらっしゃいませ」
平静に平静にと心の中で唱えるが、グラスを持つ手が微かに震えている。
「ご注文はお決まりですか? 」
引き攣った笑顔で聞くと、彼はようやく顔を上げた。
「あなたはもしかして……」
ビクッと飛び上がりそうになる。注文だけ取って早く逃げようと身構えている私を、彼の茶色い瞳がしっかりと捉える。
「もしかして……エマ様ですか? 」
「さっ……様!? 」
予想外の呼ばれ方に、今度は本当に飛び上がった。体だけでなく、心臓もビクンビクンと脈を打っている。
(様ってなに、様って!! )
混乱する私に、騎士は丁寧に頭を下げて自己紹介した。
「私は、近衛騎士団のライアンと申します。
クリフォード様よりエマ様のことをお聞きし、ご様子を拝見しに伺いました」
(あぁ……やっぱり、クリフさんが私の様子を見るように言ったんだわ……)
だが、このライアンという騎士、クリフさんよりもずっと真面目で堅そうだ。いわゆるチャラ男とは正反対の人種だろう。ライアンさんが変な気を起こしている様子でもないため、私は笑顔で答えていた。
「はじめまして、絵麻と申します。
私は敬われる立場でもないので、どうか様は付けないでください」
すると、ライアンさんは少し驚いた顔をする。そして丁寧に頭を下げた。
「不快な思いをさせて申し訳ありません。
それでは、エマさんとお呼びしましょう」
そんな堅苦しすぎるライアンに、私は苦笑いをしながら聞く。
「それで……クリフさんは、一体何を心配されているんですか?
私はただ、ここで楽しく仕事をしていますし、何も不都合はありません」
すると、彼は言いにくそうに告げたのだ。
「クリフォード様は、どうやらあなたと波長が合うらしい。そのため、あなたのことをすごく気にしておられるのですが……
その……こんなところで働いていたら、エマさんを好きになってしまう男が出てくるのではないかと……」
「あー……結局、私が誰かと付き合うんじゃないかって心配してるんですね」
ため息混じりに答えた。
クリフさんがそれを心配しているのは薄々気付いていた。そして、クリフさんが私を落とそうとしているのも知っている。その理由が『波長が合う』だなんて。
人と付き合う理由が、『波長が合う』だなんて、私には理解不能だ。付き合うには、ちゃんと恋をして、お互い気持ちを確かめ合ってから付き合いたい。
それであっても、私は今、誰かを好きになったりはしたくない。
「私、誰とも付き合いません。
もちろん、クリフさんとも」
私が答えると、ライアンさんは少し意外な顔で私を見る。
「なぜです?
エマさんは結婚適齢期ですよね? 」
私は今年、二十歳になる。そのため、結婚適齢期といえば間違いはないのだが……お付き合いはともかく、結婚なんて考えたこともない。
(この世界では、皆私くらいの歳で結婚するのかな? )
それでも、クリフさんからもライアンさんからも男が男がと言われたくない私。私はきっとライアンさんを睨み、告げていた。
「私は、恋人に浮気されて振られたばかりです。
今、相手を見つける気分にもなりません」
(いい加減、分かってよ!! )
すると、ライアンさんは額に手を当て、深く考えるように俯いた。そして、ぽつりとこぼす。
「それでは、エマさんは男性と交わったことがあるのでしょうか。
……それはそれで問題だ」
「!!? 」
予想外の言葉に、私は顔を真っ赤にする。
ライアンさんは真面目なふりをしていて、心の中は真っピンクなのだろうか。いきなり初対面でその質問は不躾だ。……セクハラだ。
「なんでそうなるんですか!? 」
私は声を震わせて、ライアンさんを睨んでいた。
「体を許さなかったから振られたのに、その言い方はないでしょう!! 」
そう言いながらも愕然とする。
私が勇輝をもっと受け入れていれば、振られることはなかった。この世界に飛ばされることだってなかったのかもしれない。
ライアンさんは罰が悪そうに私を見て、
「すまない」
ぼそりと謝る。
「エマさんの気持ちを考えなかった自分が悪かった。
だが……竜人族の番となるには、純潔性も必要です」
意味不明なことを口走るライアンさんに、とうとう声を荒げていた。
「竜人族!? 番!? そんなもの、私には関係ありません!!
私の相手は、私自身が決めるんです!! 」
一瞬、しーんと食堂が静まり返る。そして、周りの人々の驚いたような視線を感じた。だから私は慌てて口を塞いだ。
こんなところで痴話なんてしているから、人々の注目を集めてしまったのだ。クリフさんといいライアンさんといい、私の恋愛のいざこざを知って、何がしたいのだろう。大きなため息をついていた。
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