全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第一章

黒竜様のおかげで幸せです

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 ライアンさんが帰ったあと、やはり女将さんに捕まった。

「すみません、勤務中なのに無駄話なんてしてしまって……」

 しゅんとする私に、

「そんなことはどうでもいいのよ……」

女将さんは、少し驚いたような言いにくそうな顔をして告げる。

「ただ、エマちゃんが王城の騎士に竜人族のつがいだの言われているからびっくりしちゃって……」

「いや……私も意味不明すぎてびっくりです」

 意気消沈しながら答えた。

 だが、竜人族だのつがいだの、私にとってはどうでもいい。関係のない話なのだから。
 そう思ってまた仕事をしようとした私に、女将さんが教えてくれる。

「遠いところからやってきたエマちゃんには、竜人族なんて馴染みがないのね。
 竜人族は獣人のなかで、一番強い種族だわ。でも、大抵高貴で私たちが知り合うこともない。

 竜人族も普通に結婚したりはするらしいんだけど、つがいが現れれば、その人だけを一途に愛するらしいのよ」

「へーぇ……」

 私はさほど興味もなく、乾いた返事をする。その人だけを一途に愛すると言われても、そんなことは信じられない。むしろ、その言葉を胡散臭く思う。

「どっちにしても、私は恋愛なんてする気はないんです」

 そう。こんな世界で恋愛なんてしていれば、それこそもとの世界に帰れなくなってしまう。私の目的は、もとの世界に帰ることなのだから。






 仕事を終えて家に帰る途中、にわかに外が騒がしくなった。人々は口々に叫び、遠くの空を指差している。何気なく人々の指差す先を見て、思わず息を呑んだ。

 はるか遠くの上空に、白色と黒色の鳥のようなものが見える。それはお互いにぶつかり合い、ぱっと光が輝いた。

 (なんだろう……)

 そう考えている間に、凄まじい突風が吹き抜ける。突風が木の葉を散らし、私のスカートをはためかせた。

「黒竜様だ!! 」

「黒竜様、頑張ってください!! 」

 人々は口々に声を張り上げる。中には手を合わせ、必死で祈っている人までいる。

 (黒竜様……!? )

 私は、つい二週間ほど前に助けた黒竜様を思い出していた。大きくて強そうな黒竜様は、あの時も傷つき血を流していた。きっと、あの時も今も、国を敵から守ってくださっているのだろう。

 (黒竜様、頑張ってください)

 周りの人々と同じように、私も祈っていた。遠くで激しくぶつかり合う、黒竜様を見つめながら。何度も閃光が煌めき、爆風が襲いかかる。やがて白色の敵は諦めたのか、ふらふらと遠ざかっていくのが見えた。

 (黒竜様が、敵を追い払ってくださったんだ!! )

 人々の歓声が聞こえる。私も負けじと声を張り上げ、ゆっくりと近付いてくる黒竜様に手を振った。

 大きな黒竜様は、まるでジェット機のように上空を飛ぶ。その神々しい姿から目が離せないが……

 (また、怪我をしている!! )

 先ほどの激しい戦いのせいだろうか。黒竜様は微かにふらつき、翼の付け根から血を流しているのが見えた。

 黒竜様が怪我をされている。そう思うと、考えるよりも先に足が動いていた。私は人混みを掻き分け、城へと続く道を走る。そして城門を潜り抜け、黒い石畳を駆け上がっていた。

 私の力で黒竜様の怪我を治せるから……それに、黒竜様は私の恩人だから……だから私は、一心不乱に城の上部にある広場を目指す。

 


 真っ黒な城の上部にある、緑の生い茂った広場。そこには、傷ついた黒竜様が苦しそうに横たわっていた。

 (やっぱり、無理をされていたんだわ!! )

 私は横たわる黒竜様に駆け寄り、抱きつくようにその傷口を体で覆った。黒竜様に触れると、あの時と同じような温かさを感じる。心が満たされて、幸せだと思ってしまう。

「黒竜様……大丈夫ですか? 」

 黒竜様の血で服が汚れるのも気にせずに、私はただ傷口に抱きつく。すると、みるみるうちに血は止まり、傷口が閉じていく。

「いつも、守ってくださってありがとうございます。
 国のみんなは、黒竜様に守られて幸せです」

 女将さんやお客様が、いつも黒竜様の話をしているのを知っている。皆が黒竜様に感謝していることも知っている。だから私は、黒竜様に皆の感謝の気持ちを伝える。
 だが、感謝しているのは国の皆だけではない。

「私も……黒竜様にこの国に連れてきていただいて……とても幸せです」

 黒竜様から流れる温かい気持ちに包まれて、想いのままを話していた。

「クリフさんやライアンさん、食堂のお客様や女将さん……素敵なみなさんに囲まれて、私はとても幸せです」

 顔を上げると、黒竜様の濃紺の瞳と視線がぶつかった。優しいその瞳に見つめられると、ずっとこのまま黒竜様といたいとさえ思ってしまう。こうやって黒竜様に寄り添っていると、もとの世界に戻るという目的すら忘れてしまいそうになるのだった。

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