全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第四章

白竜王の優しさ

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 こうして、私はクリフさんとつがいの契約のための婚前旅行を楽しんでいる。

 黒竜国と白竜国の国土を共に旅し、楽しい時間を共有している。この時間が永遠に続くようにと願わずにはいられなかった。

 常夏の街パプオンから始まり、砂漠の街、氷の街、森の街と多くの街を飛び回った。そして、祠にエネルギーを流した後は、二人で観光を楽しんだ。

 王都ヴェールから離れた街では、竜王陛下の存在こそ知られているが、クリフさんがまさか竜王陛下だと思う者もいない。そこで、私たちは一般市民さながらの食事をし、一般市民さながらの観光をし、一般市民さながらの宿に泊まった。きっと、私のことを気遣ってくれたのだろう。



「明日はとうとう最後の街、白竜国の”始まりの街”パルトロンだな」

 シャワーを浴びてベッドに腰かけ、その黒髪をわしゃわしゃタオルで拭いているクリフさんは、どこか色っぽい。流されてはいけないと思い、思わず目を逸らした。

「パルトロンのパルトロン神殿が終着地だが、”つがいの間”に入るには、同等の力を持つ証人が必要だ。
 だから、白竜国のコーネリウスに証人を頼んでいる。
 ……仕方なく」

 最後の仕方なくの部分に、思わず笑ってしまう。そして、例外なく私はドキッとする。

「あ……あの……本当にコーネリウス様の前で……」

「いや、だから違うって言ってるだろ」

 クリフさんは真っ赤になって、その黒髪を掻きむしった。
 だが、近いうちに、きっと私たちはそういう関係になる。そして私の決心は、もう固まっている。


「エマ……愛してるよ」

 何度も告げられたその言葉を聞くたびに、幸せだと思う。心から愛する人に、心から愛されて。

 真っ赤な顔でクリフさんを見ると、彼も頬を染めて私を見る。

「何度愛してると言っても足りないほど、愛してるんだ……」

 甘く切なく告げる、その少し掠れた低い声。その声が、私の胸を甘く麻痺させていく。

 そのまま、クリフさんはそっと私の唇を塞ぐ。どっと幸せが押し寄せてくる。そして、離さないとでもいうように、ぎゅっときつく抱きしめられる。
 あちこちに口付けされ、ぼんやりとしていく意識の中、はやくこの甘くて愛しい獣のものになりたいと思ってしまった。



◆◆◆◆◆



 パルトロン神殿は厳かな場所だった。
 金色の竜の像が扉の両側に置かれ、扉を開けると広大な広い空間が広がっていた。その奥に、他の祠にあったものと同じ竜の石像が置かれている。

 私たちが光り輝く白い室内に入った時だった。



「おっはぁー!! 」

 この厳かな空気に似つかない、超ハイテンションな声が響いた。私はこの声を知っている。クリフさんの元宿敵、白竜王のコーネリウス様だ。

 厳かな神殿の奥に、彼は立っていた。白い騎士服を着て、両側に女性を侍らせて。

「おっはぁー!! ……じゃねぇよ」

 イラついたようにクリフさんが言う。そして、見ず知らずの女性に聞いた。

「コイツ、ますます狂ったか? 」

 すると、女性は頬を緩める。

「聖女様が来てからコーネリウス様は人格が変わってしまいましたが、最近は憑き物が取れたみたいに穏やかです。

 ……やっと、昔のコーネリウス様に戻りました」

「ということは、こいつは昔から頭が狂ってたのか」

 吐き捨てるようにクリフさんがぼやいた。

 クリフさんが言うには、最近まで白竜国と黒竜国の交流は無かった。大昔に大喧嘩をした両国は、長らく国交を絶っていたのだ。
 だが、ここ一年ほど、白竜国の竜が、黒竜国の国境を跨いで攻めてくるようになった。おそらく、シャーマニアの腕輪のせいだろう。
 そして、私が現れた辺りからは、白竜王自ら侵略行為をするようになったとのこと。里果によって白竜王に腕輪が嵌められたのだろう。

 だから、クリフさんも以前のコーネリウス様を知らないという。
 ……それが、こんなに軽い陽キャだったとは。


 コーネリウス様はクリフさんの言葉なんて気にせず、にこにこと言う。

「随分長旅だったな。
 面倒だから、大半の竜人族は二日くらいで回っちゃうのに」

「あぁ……せっかくだから、エマとゆっくり街を楽しみたいと思ったから」

 クリフさんはそう言い、そっと私の髪を撫でる。触れらるとやはり体が熱くなり、幸せを感じた。
 こうやって、二人で旅をして幸せだった。楽しいことを二人で分かち合い、笑い合い、心から幸せだと思った。その旅も、ここで終着点を迎える。

「コーネリウス、こんなところに呼び出して悪かった。
 お前を呼び出したお詫びと友好の証に、白竜国に黒竜国産のフルーツ十億フランを贈ることにした」

「わーい!! 国民に分けてあげよっ!!」

 コーネリウス様は笑顔で手を上げる。

「でもまさか、呪われてないよね? 」

 クリフさんと同じく、コーネリウス様も呪いに敏感になっているらしい。その反応を見て思わず笑ってしまった。

 そんな私を見て、

「あっ、エマ? 」

思い出したようにコーネリウス様が聞く。

「度の途中で、リカを見なかった? 」

 予想外に飛び出したその言葉に、クリフさんと顔を見合わせる。ここのところ結婚準備などで忙しく、私の頭の中からはすっかり里果の存在が消え失せていた。
 だが、コーネリウス様は彼女を覚えていたのだ。

「見ていませんが……」

「そっか……」

 彼は少し不安そうな表情で、宙を眺めた。

「戦場でリカが逃げ出してしまって、元気にしてるのか心配だよ。まぁ、僕は記憶がなくって、リカがなんで逃げたのか分からないんだけど……

 この国には危ないところがたくさんあるから、元気に暮らしているだろうか」

 コーネリウス様は優しいと思う。自分を罠にかけ、白竜国を滅ぼしかけ、そして戦場から逃げ出した里果を、今もなお心配しているのだから。
 多夫多妻制は理解出来ないが、彼は妻一人一人に愛情をかけているのかもしれない。実際、隣にいる二人の女性も、幸せそうな顔をしているのだから。

「もし里果に会うことがあったら、コーネリウス様が待っていることをお伝えしておきます」

 私は笑顔で告げていた。
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