全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第四章

最後の試練

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「さて、無駄話はここまでにしておこうか」

 コーネリウス様はにこにこと言う。

「最後のこの場所で、ちゃちゃっと恥ずかしいポーズをしちゃってね。

 あのポーズを他人に見られるのはプライドが傷付くだろうから、僕たちは外に出てるよ」

 コーネリウス様は気を遣っているのか、からかっているのか。そんなコーネリウス様を、クリフさんは思いっきり睨んでいる。
 そのまま、コーネリウス様はぽつりと呟いた。二人の妻から離れ、彼女たちに聞こえないように。

「僕にもそんな人が現れて欲しいよ。
 今の僕は、逆鱗なんて誰にも触らせられないから」

 コーネリウス様も、きっと色々悩んでいるのだろう。いつか、コーネリウス様が心から愛する人を見つけられることを、私は祈っている。



 コーネリウス様が出ていった神殿内は、しーんと静まり返っていた。目の前にいる石で出来た竜が、ただこちらを見ているだけだ。

「エマ……」

 低い優しい声で名前を呼ばれ、甘く切ない瞳で私を見つめる。

「これが、逃げる最後のチャンスだ。
 少しでも思いとどまるなら……」

「思いとどまりません!! 」

 私はクリフさんの言葉を遮っていた。そして、この美しい黒竜王を少し睨んでいた。

「私は、クリフさんの唯一になりたいんです。

 ……大好きなんです。

 ……愛してるんです」

 その瞬間、クリフさんは泣きそうな顔で笑った。そのままぎゅっと私を抱きしめる。頬を擦り寄せ、幸せそうに目を閉じ、幸せそうに呟いた。

「ありがとう。……すごく嬉しい」

 そのまま、しばらく私を抱きしめその心地よさに酔った後……ようやく彼は私の体を離した。真っ赤な顔の私は、その深い青色の瞳から目が離せない。

「それでは、改めて言う。

 エマ。俺と結婚してください。そして、俺のつがいになってください。

 俺はエマを一生離さない。一生エマだけを愛し続けるから」

「はい!! 」

 大きく返事をすると、彼は泣きそうな顔で笑った。そして、そのまま大きな黒竜へと変化する。黒竜はそっと私の横に跪き、その急所である逆鱗を見せる。コーネリウス様はこれを恥ずかしいポーズだなんて言うが、私には神々しくて神聖なものに見える。

 喉元にある逆さに生えている真っ黒の鱗。その鱗にそっと手を伸ばした。そして石像の逆鱗にエネルギーを送ると……今まで何も無かった神殿の奥の壁に、黒い扉が出現しているのが見えた。
 


「扉が開かれたみたいだね。
 ……いい加減、恥ずかしいポーズにも飽きたよね、エマ」

 いつの間にかコーネリウス様が神殿の中に戻っており、クリフさんも人間の姿に戻っている。そして、やはりコーネリウス様を睨んでいる。

「証人の役割は、契約の部屋を開くこと。

 僕は扉を開いて帰るから、二人はゆっくり楽しんでね。
 この扉は、一週間は開かないから」

「えッ!? 」

 予想外の事実に声を上げる私を見て、コーネリウス様はははっと笑う。

「嘘言ってないよ? クリフから聞いてないの? 」

 クリフさんを見上げるが、彼は神妙な顔をしている。……ということは、コーネリウス様の言葉は本当なのだろう。

 クリフさんの言葉を待たず、コーネリウス様は黒い扉に掌を当てた。そして、何か力を送っているようなそぶりを見せる。すると、黒い扉に白い文字が浮かび上がり、少しずつ扉が開き始めた。

「ありがとう、コーネリウス。

 ……エマ、行こう」

 クリフさんが私を抱き寄せる。そしてそのまま、二人で扉の中へ入っていった……




 白竜国の聖地、パルトロン神殿。
 その神殿の最深部に出現した扉の中に、私たちはいた。どんな儀式が始まるのかと怯えていたが、扉の中は至って普通の部屋だった。

 ただ、普通でないこと。それは、クリフさんが開かれた扉を閉めると、その扉は跡形もなく消え去ってしまったのだ。

 (本当にここに一週間閉じ込められるんだ)

 恐怖すら覚えた。


 だが、竜人族のクリフさんは違っていた。彼はほっとした表情で、部屋の中央にある椅子に腰かける。その椅子の前にはテーブルがあり、食卓を彷彿とさせる。

「エマ、驚かせて悪かった。
 コーネリウスの言う通り、最後の試練はこの部屋で一週間過ごすこと、だ」

 覚悟するように、ごくんと息を飲む私。そんな私の緊張を和らげるように、クリフさんは言う。

「人が何もない部屋に一週間も閉じ込められれば、通常気が狂うだろう。
 外にも出られないし、退屈だし。部屋にいるのは相方のみ。

 だから、それを確かめられている」

「……え? 」

 予想外の言葉に驚くばかりだ。

つがいというものは、今後死ぬまで一緒に過ごす大切な人だ。
 最後に、自分にとっての唯一がこの相手でいいか考える場所……と、俺は思っている」

 クリフさんはそう告げ、幸せそうに笑った。

「そんな場所だが、俺にとってのつがいは、エマしかいないと思っている。
 せっかく二人だけでいられるのだから、エマと大切な時間を共有したい」

 クリフさんは立ち上がり、部屋の隅にある扉を開けた。すると、そこには美味しそうなフルーツの盛り合わせと、いい香りのする紅茶が置かれている。

「食べ物は、望むときに自動で供給される。
 今はお茶の時間だな」

「わぁ!至れり尽くせりですね!! 」

 豪華なフルーツ盛りを見て、思わずテンションが上がった。


 この部屋で何が始まるのかと思ったが、ただクリフさんと二人で一週間過ごせばいいようだ。クリフさんの言う通り、私にとってそんなもの、容易すぎる試練だった。
 むしろ、一週間もクリフさんといられるなんて幸せ……と思ってしまうのであった。
 
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