お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜

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第一章

孤高の黒薔薇と、疑似恋愛?

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「クロエ。彼が騎士副団長のルーク・アイゼンバーグだ」

 ニコラスがわざとらしく私に告げた。

 ニコラスの隣には、黒髪の美しい男性が座っている。彼の顔に表情はなく、ただ深い赤色の瞳が私を見つめていた。

「お前もルークも異性に慣れるために、二人で俺の特訓を受けてもらう」

 唐突な命令に、慌ててニコラスに反論する。

「ちょ、ちょっと待ってください、お兄様。
 ……おっしゃる意味が分かりません」

 するとニコラスは、さらに面白そうにニヤニヤして告げたのだ。

「ルークは表情が乏しいため、多くの人に誤解され、親しい友達すら出来ずに生きている。今や”孤高の黒薔薇騎士”などというあだ名までついている。
 そのため、彼女はおろか、女性の手すら握ったことがない」

「……はい」

 彼の言葉に頷きながらも、彼のことを思い返した。

 私だって、彼のことをよく知っている。そして正直、私も彼は苦手だ。
 だが、それは多くの人々の思うように、彼が無表情だからではない。を邪魔するからである。



 
「対して、クロエ。お前は二度も婚約破棄をされている。
 それは、お前に女性としての魅力がないからだろう」

「……もっともでございます」

 そう返しながらも、心の中では舌を出している。

 何を隠そう、私が婚約破棄されたのは、相手がを知ってしまったからである。外では侯爵令嬢らしく振る舞っているが、私の本性はそんなものではない。
 だから、いくら異性に慣れたところで、何も変わらないと思っている。

 (ニコラスめ。余計なことをしやがって)

 心の中でぼやいていた。




 私はちらりと”黒薔薇”ルークを見た。
 彼は相変わらず無表情の瞳で私を見ている。その視線があまりに痛いため、にこりと笑ってみた。だが、彼は無表情のままだ。

 (楽しくない男。そんなだから、モテないのよ)

 心の中でぼやく。

 だが実際、彼がモテないはずがない、いや、モテモテであることは知っている。その整った容姿とクールな人柄により、令嬢の中では大人気である。ただ、話しかけてもあまりに無反応であるため、怖がって誰も近付けないのだ。
 そんな彼を、私に押し付けてくるだなんて。ニコラスは何を考えているのだろう。




「ルーク。クロエ。まずは自己紹介からだ」

 ニコラスの言葉に、ルークは黙って頷いた。そして、弱々しく告げたのだ。

「ルーク・アイゼンバーグと申します……
 ニコラス団長の部下で、騎士団の副団長をしております」

 その話し方を聞き、強烈な違和感を感じた。
 私は彼を、ものすごく強くて冷たい人だと思っていた。だが、その話し方はふわふわしており、声は消えてしまいそうに小さい。

 ぽかーんとする私の前で、ニコラスは笑いながらルークに聞く。

「趣味は?好きな女のタイプは?」

 すると、彼は頬を染めて俯いてしまうのだ。初めて見る彼の照れた表情に、衝撃を隠せない。

「だ、団長……俺は、女性とほとんど話したことがなくて……」

 なんというシャイな男なのだろう。女性と話すだけで緊張してしまうだなんて。そして、ニコラスはなぜこうもこじれている男を私に押し付けるのだろうか。


 
 ニコラスは、こんなルークを鼻で笑う。

「……はあ?クロエなんて、女の皮を被った男だ。
 クロエで照れているようなら、お前は一生女と話せない」

 相変わらず酷いニコラス。だが、他人の前で本性を表すわけにはいかない。この本性がバレたため、私は二度も婚約破棄されているのだから。
 怒りたい気持ちをぐっと抑え、笑顔でニコラスを見た。

「お兄様。私のどこが、男ですの?
 そんなことをおっしゃるから、お兄様だってモテないのですよ」

 するとニコラスは何やら不機嫌そうに言葉を返す。

「お前よりはマシだ」

 (何がお前よりはマシだ、だ。バーカバーカ!!)

 心の中で吠えていた。

 

 ニコラスはため息混じりに私に言う。

「クロエ。ルークに自己紹介を」

 私は待ってましたとばかりに声を上げた。

「クロエ・カートライトと申します。ニコラスお兄様の妹で、今は家業を手伝っております。
 異文化に興味があり、ニコラスお兄様とともに三年間隣国に留学しておりました」

 いや、実際は剣と魔術に興味があり、武術留学していた、だ。だがそんなこと、言えるはずもない。

 私の嘘っぱちの自己紹介を聞き、ニコラスは鼻で笑った。だが、何も正さないということは、やはりこの路線でいけということなのだろう。本性を出したら男が逃げる。そんなこと、とっくに分かっているのだから。

 令嬢スマイルを炸裂している私と、無表情……いや、固まって自然な表情すら出来ないルークを、ニコラスは交互に見た。そして、ふんぞり返って告げた。

「いいか、お前ら。お前らはこのままでは、一生結婚出来ない。
 出来ない者同士お互いに磨き合って、異性とはどういうものか理解してもらおうと思う。

 ……要するに、疑似恋愛だ」

 その言葉に、「はぁっ!?」と喉元まで声が出かかった。それをぐっとこらえる。

 

 それにしても、疑似恋愛だなんて。ニコラスのくせに、何を考えているのだろう。私は正直、結婚は諦めている。跡継ぎはニコラスなのだから、私は自由気ままに生きようと思っていたのだが。

「お兄様」

 私の笑顔はこわばっている。

「余計なお世話だと存じます」

 出来る限り柔らかい言葉を選んだはずだが、ニコラスに刺すような目つきで睨まれた。
 
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