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第一章
続く兄の試練
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ルークの好きな人は誰だろう。きっと、すごく美しくておしとやかな人だろう。私の元婚約者たちが、私に求めた女性像のような。
「それでは、ニコ……お兄様の言う通り、五分間手を繋ぎましょう」
私が手を差し出すと、ルークもおずおずと手を差し伸べた。剣を握る力強いその手が、そっと私の手に触れる。そして、優しく指を絡ませた。
ルークはただ遠慮しているだけなのだろうが、私にとっては毒だ。男性から大切にされたことがないため、こうやって女の子扱いされるとドキドキしてしまう。そして、ふと思った。
(私は、女の子扱いされたかったのかもしれない)
女の子扱いされなかったのは無理もない。ガサツで、男勝りで、好きなことといったら剣と魔法である。私の本性を知る人は、決まって私を強い女だと思っていた。そして、親密な仲になる前に本性を知ってしまった婚約者たちも然りだ。
だから、こうやって割れ物に触れるようにそっと触れられると、なぜか胸が熱く苦しくなるのだ。もっと触れていたいとさえ思ってしまう。
繋いだ手がとても熱い。そして、頬を染めて俯くルークが可愛くも思う。そんなルークに、聞いてしまった。
「ルークは、どんな女性が好きなの?」
すると、頬を染めたまま、彼は答えた。
「明るくて、誰とも分け隔てなく話して、友達がたくさんいる人」
その言葉を聞いて、愕然とした。二度も婚約破棄された腫れ物として扱われている私とは正反対の人物だろう。
「皆が彼女の味方で、彼女を応援している。
……俺には手が届かない人だよ」
「……世の中には、すごい女性がいるのね」
そんな完璧な女性に会ってみたいわ。きっと私は劣等感に苛まれて、引きこもりになるだろうけど。
「彼女に触れただけでも俺は固まってしまう。
だから、俺ももっといい男になって、彼女に認められたいよ」
「……そうね。ルークの恋が実るといいわ」
笑顔でルークに告げつつも、胸がちくりとした。
もちろん、私はルークの幸せを願っている。ルークの願いが叶うよう、こうして協力もしている。だが、このもやもやはなんだろう。
私に触れながら、別の女性のことを思っているルークにイラついているのだろうか。それとも、初めて優しく触れられたから、勘違いしてしまったのだろうか。
……いずれにせよ、ルークなんて好きなはずがないのに。
気を取り直して、ルークを見る。前はカチンコチンに固まっていたルークだが、今は自然な表情をしている。おまけに、言葉もスムーズに繰り出していて何の違和感もない。
(孤高の黒薔薇なんて言われてるけど、案外普通の男性じゃん)
「ルークは成長しているわ。
私と手を繋ぎながらも、もう平気な顔しているじゃないの」
彼に言うと、一瞬驚いた顔をする。そして、次第に頬が緩み、嬉しそうな笑顔になる。
初めて見る、黒薔薇ルークの笑顔。まるで雲の陰から光が差し込むような、眩しい笑顔。不覚にも、その笑顔にきゅんとしてしまった。
「ありがとう、クロエ」
穏やかで優しい声。そんな声で話されると、また勘違いしてしまいそうになる。男の人に優しくされると、それだけでときめいてしまうのだ。
ルークと話していると、五分間はあっという間だった。いつの間にか私たちはリラックスし、手を握り合っていることに気付いた。
「もう五分以上経っているわ」
驚く私に、
「本当だ。あっという間だったね」
ルークも同様に驚いている。そして手を離すが、離れるのが何だか名残惜しく思えた。もっと手を繋いでいたいと思ってしまうなんて、私の頭が狂ってしまったのだろうか。
おまけに、頭の狂った私は、
「ルーク。今日はありがとう。
あなたとお話できて、とても楽しかったわ」
などという、とんでもない言葉まで吐いていた。だが、実際楽しかったのだ。そして、女の子扱いされるのがこんなにもドキドキして、心地よいものだと知ってしまったのだ。
「ありがとう。俺も楽しかった」
ルークはそう告げ、また微かに微笑む。普段は無表情のルークだが、私には少しずつ感情を見せてくれるようになっている。それがとても嬉しかった。
だが、勘違いしてはいけない。ルークにとって、私は”練習台”なのだから。彼には好きな人がいるのだから。
玄関までルークを見送ってお父様の執務室に戻ると、浮かない顔のお父様がいる。何か良くないことがあったのだろうか。
「どうしたの?」
そう聞くと、お父様は申し訳なさそうに私を見た。
「クロエ、すまない」
「……え?」
嫌な予感がする。また縁談を組まれたのだろうか。婚約するたびに破棄される私には、もはや残り物としかいえない縁談しか来ないのだ。お父様ほどの年齢の人だったり、性格が悪くて有名な人だったり。無理にそのような人と結婚するよりは、おひとり様を謳歌したほうがよほどマシだ。
だが、お父様は申し訳なさそうな顔をしたまま告げたのだ。
「今週末にある夜会に、参加してくれないか?」
想像よりはマシなことを言われ、ほっと胸を撫で下ろす。
「お父様、言ってるでしょ?私、社交の場にはもう興味ないの」
どうせ陰口を言われ、笑われるだけだから。だが、お父様が社交の場を断れないことも理解している。侯爵家が社交を断ってばかりでは、お父様の顔が立たない。私は、カートライト侯爵家令嬢として、お父様のために参加しなければならないのだ。
「……はいはい、分かったよ」
結局最後は承諾してしまうのであった。
「それでは、ニコ……お兄様の言う通り、五分間手を繋ぎましょう」
私が手を差し出すと、ルークもおずおずと手を差し伸べた。剣を握る力強いその手が、そっと私の手に触れる。そして、優しく指を絡ませた。
ルークはただ遠慮しているだけなのだろうが、私にとっては毒だ。男性から大切にされたことがないため、こうやって女の子扱いされるとドキドキしてしまう。そして、ふと思った。
(私は、女の子扱いされたかったのかもしれない)
女の子扱いされなかったのは無理もない。ガサツで、男勝りで、好きなことといったら剣と魔法である。私の本性を知る人は、決まって私を強い女だと思っていた。そして、親密な仲になる前に本性を知ってしまった婚約者たちも然りだ。
だから、こうやって割れ物に触れるようにそっと触れられると、なぜか胸が熱く苦しくなるのだ。もっと触れていたいとさえ思ってしまう。
繋いだ手がとても熱い。そして、頬を染めて俯くルークが可愛くも思う。そんなルークに、聞いてしまった。
「ルークは、どんな女性が好きなの?」
すると、頬を染めたまま、彼は答えた。
「明るくて、誰とも分け隔てなく話して、友達がたくさんいる人」
その言葉を聞いて、愕然とした。二度も婚約破棄された腫れ物として扱われている私とは正反対の人物だろう。
「皆が彼女の味方で、彼女を応援している。
……俺には手が届かない人だよ」
「……世の中には、すごい女性がいるのね」
そんな完璧な女性に会ってみたいわ。きっと私は劣等感に苛まれて、引きこもりになるだろうけど。
「彼女に触れただけでも俺は固まってしまう。
だから、俺ももっといい男になって、彼女に認められたいよ」
「……そうね。ルークの恋が実るといいわ」
笑顔でルークに告げつつも、胸がちくりとした。
もちろん、私はルークの幸せを願っている。ルークの願いが叶うよう、こうして協力もしている。だが、このもやもやはなんだろう。
私に触れながら、別の女性のことを思っているルークにイラついているのだろうか。それとも、初めて優しく触れられたから、勘違いしてしまったのだろうか。
……いずれにせよ、ルークなんて好きなはずがないのに。
気を取り直して、ルークを見る。前はカチンコチンに固まっていたルークだが、今は自然な表情をしている。おまけに、言葉もスムーズに繰り出していて何の違和感もない。
(孤高の黒薔薇なんて言われてるけど、案外普通の男性じゃん)
「ルークは成長しているわ。
私と手を繋ぎながらも、もう平気な顔しているじゃないの」
彼に言うと、一瞬驚いた顔をする。そして、次第に頬が緩み、嬉しそうな笑顔になる。
初めて見る、黒薔薇ルークの笑顔。まるで雲の陰から光が差し込むような、眩しい笑顔。不覚にも、その笑顔にきゅんとしてしまった。
「ありがとう、クロエ」
穏やかで優しい声。そんな声で話されると、また勘違いしてしまいそうになる。男の人に優しくされると、それだけでときめいてしまうのだ。
ルークと話していると、五分間はあっという間だった。いつの間にか私たちはリラックスし、手を握り合っていることに気付いた。
「もう五分以上経っているわ」
驚く私に、
「本当だ。あっという間だったね」
ルークも同様に驚いている。そして手を離すが、離れるのが何だか名残惜しく思えた。もっと手を繋いでいたいと思ってしまうなんて、私の頭が狂ってしまったのだろうか。
おまけに、頭の狂った私は、
「ルーク。今日はありがとう。
あなたとお話できて、とても楽しかったわ」
などという、とんでもない言葉まで吐いていた。だが、実際楽しかったのだ。そして、女の子扱いされるのがこんなにもドキドキして、心地よいものだと知ってしまったのだ。
「ありがとう。俺も楽しかった」
ルークはそう告げ、また微かに微笑む。普段は無表情のルークだが、私には少しずつ感情を見せてくれるようになっている。それがとても嬉しかった。
だが、勘違いしてはいけない。ルークにとって、私は”練習台”なのだから。彼には好きな人がいるのだから。
玄関までルークを見送ってお父様の執務室に戻ると、浮かない顔のお父様がいる。何か良くないことがあったのだろうか。
「どうしたの?」
そう聞くと、お父様は申し訳なさそうに私を見た。
「クロエ、すまない」
「……え?」
嫌な予感がする。また縁談を組まれたのだろうか。婚約するたびに破棄される私には、もはや残り物としかいえない縁談しか来ないのだ。お父様ほどの年齢の人だったり、性格が悪くて有名な人だったり。無理にそのような人と結婚するよりは、おひとり様を謳歌したほうがよほどマシだ。
だが、お父様は申し訳なさそうな顔をしたまま告げたのだ。
「今週末にある夜会に、参加してくれないか?」
想像よりはマシなことを言われ、ほっと胸を撫で下ろす。
「お父様、言ってるでしょ?私、社交の場にはもう興味ないの」
どうせ陰口を言われ、笑われるだけだから。だが、お父様が社交の場を断れないことも理解している。侯爵家が社交を断ってばかりでは、お父様の顔が立たない。私は、カートライト侯爵家令嬢として、お父様のために参加しなければならないのだ。
「……はいはい、分かったよ」
結局最後は承諾してしまうのであった。
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