お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜

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第一章

彼の好きな人

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 次の日。
 
 私は、いつものようにお父様の仕事を手伝っている。仕事といっても、魔力を使って手紙を飛ばす仕事だ。お父様が文書を封筒に入れて封をすると、私が風の魔法で目的地へ飛ばす。それだけだ。

「相変わらずクロエはすごいなあー」

 感心するお父様に、笑顔で告げる。

「こんな仕事、誰でも出来るって」

 すると、お父様は複雑な顔をするのだ。

「いや。お前みたいに間違えずに正確に目的地に飛ばすのは、相当な熟練が必要だ。
 やっぱりクロエは自慢の娘だ。それなのに、分かってくれる男がいないなんて……」

 結局、話はそこになる。
 私が二度も婚約破棄されて、一番落ち込んだのはお父様かもしれない。私をこんなじゃじゃ馬に育ててしまったことを悔やんでいるのだ。そんなお父様には申し訳ないが、

「もう、結婚は諦めてるからいいって」

 笑顔で告げる。

「ニコラスにでも孫の顔、見せてもらってよね」



 

 こんないつも通りの昼下がり。不意にニコラスに呼ばれた。

「クロエー!」

 ふと庭を見ると、なんと黒い騎士服を着たルークが立っているではないか。

 (げっ。またルークを連れてきたの!? )

 ルークを見てしまったからには、淑女モードで対応しなければならない。私は鏡を見て、令嬢スマイルを作った。そして、わざと柔らかい声で答えた。

「お兄様。どうなさったのですかぁ?」

 そしてドレスの裾を持ち上げ、ちょこちょこと小走りに走るのだ。

 

 ニコラスは、私が白薔薇だと気付いていない。服装も変えているし、念入りに変装しているからだ。茶色の髪を、魔法で銀色に変えている。さらに、目元には大きなマスクを付けている。白薔薇が私だと知ったら、ニコラスはひっくり返るに違いない。それだけニコラスは、白薔薇の話を私にする。

「俺はイラついてんだ」

「……えっ?どうしてです?」

 わざとぽかーんとした表情で聞く。そしてちらっと視線を上げた。
 腕を組んでふんぞり返っているニコラスの後ろには、相変わらず無表情のルークがいる。……無表情というより、固まっているのだ。そんなルークに微笑みかけ、挨拶をした。

「ごきげんよう、ルーク」

 すると彼はさらに顔を固まらせる。

 (こじらせてるけど、この人めちゃくちゃ強いんだ……)

 心の中でぼやく。そんな私に、ニコラスは告げた。

「とうとう白薔薇に勝てると思ったのに、ルークに邪魔された」

「だだだって……」

 ルークは少しおどおどして告げる。

「いくら白薔薇さんとはいえ……女性に剣を向けちゃいけないと思って……」

 (……え?)

 予想外のルークの言葉にぽかーんとした。ルークはまさか、白薔薇を女性として意識しているのだろうか。そして、女性に剣を向けてはいけないなど、なんという紳士なのだろう。想定外だ。ニコラスが恥ずかしくなるほどに。

「ルークは優しいのね」

 思わずそう言うと、頬を染めるルーク。無表情の黒薔薇が頬を染めるだなんて、眼福なのですが!!
 そして、信じられないルークの一面に、不覚にもときめいてしまった。

 だが、面白くなさそうなニコラスは言う。

「……まあいい。
 俺たちがここに来たのは、新たな試練を与えるためだ」

 いちいち偉そうな態度に腹が立つ。

「今日の試練は……これだ」

 ニコラスはそう告げ、おもむろに私に手紙を渡した。それを開くと、汚い走り書きの文字でこう書かれていた。

『五分間、手を繋げ』

 (……はあ?意味不明)

 だが、決して顔には出さず、にこにこと令嬢スマイルを放つ私。そんな私に、ニコラスは言い放った。

「俺、忙しいから、もう行くわ。
 あとは二人でやってくれ」

 (なにッ!? ここへ来て、逃亡!?)

 薄情すぎるニコラスは、そのままくるりと回れ右をする。そしていそいそと扉から出て行ってしまった。

 無理難題を押し付けて、自分だけ出ていくだなんて酷すぎる。ニコラスは何を考えているのか知らないが、もうこれ以上付き合うわけにはいかない。
 私は、笑顔のまま、柔らかい声でルークに告げた。

「ルーク。お兄様の言うことは、聞かなくてもいいと思うわ。
 きっと、恋愛経験のない私たちを見て遊んでいるのでしょう」

 だが、ルークは神妙な面持ちだ。そして、遠慮がちに告げた。

「俺は……出来たら、ニコラス団長の特訓を続けたいと思うよ」

 (……はぁ?ルーク、大丈夫?
 まさかのドM宣言!?)

 予想外の言葉に、狼狽える私。だが、令嬢として決してボロは出してはいけない。にこにこと彼を見つめている。そんな私をちらりと見て、ルークは告げた。

「俺の好きな人は、きっと経験豊富だから……
 ……だから俺は、彼女に似合う男になりたい」

「……え?」

 私はぽかーんとルークを見ていた。
 私はてっきり、ルークには好きな人がいないとばかり思っていた。恋愛経験値が低いため、恋すらしていないと思っていたのだ。

 (それなのに、好きな人がいるだなんて……)

 ルークなんて好きなはずがない。それなのに、その言葉に酷く狼狽えた。胸が締め付けられるように苦しい。この、涙すら出そうな切ない気分は何だろう。

 だが、弱音を吐かないのが私だ。私は笑顔でルークに告げた。

「それなら、私も頑張るわ。
 必ずその彼女に振り向いてもらいましょう」

 そう言いながらも、なぜか胸が悲鳴を上げるのであった。
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