お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜

文字の大きさ
4 / 6
第一章

白薔薇と黒薔薇

しおりを挟む
「げっ」

 彼を見て、思わず顔を歪ませた。それもそのはず、そこに立っていたのは、今日の昼会ったばかりの黒薔薇ルークだったのだ。だが、今の彼は取り乱してもいないし、冷静沈着……のように見える。

 ルークの後ろにはいつの間にかさっきの野次馬たちがいて、大声で囃し立てる。

「うわっ!白薔薇と黒薔薇の絡みが見れる!」

 そんな野次馬に向かって、私は怒鳴っていた。

「絡みって何よ、絡みって!!」

 (あ、そうだ。きっと、黒薔薇とどっちが強いか決闘しろってことね!)

 合点のいった私は、腰に差した短剣を抜いた。そしてルークへ向ける。だが、ルークは微動だにせず私を見つめているのだ。

 (フリーズしてる?……いや、まさか)

 ルークがあまりにも丸腰なため、耐えきれずに彼に告げた。

「黒薔薇!あんたと私、どっちが強いか、みんな知りたいんだって?」

 ルークは表情一つ変えない。その無表情が恐ろしい。……いや。フリーズしていないのかと思っていたが……彼、なんとカチンコチンに固まっているのだ。固まりすぎて、それが氷点下の冷たさを醸し出しているのだ。

「もしもーし!」

 彼の前で手を振るが、彼はフリーズしっぱなしだ。だが、周りの人々は黒薔薇がフリーズしていると思っていないらしい。むしろ、私を黙殺していると思っているのだ。

「黒薔薇さーんッ!!」

 わざと囃し立てても、彼は凍って動かない。だから試しに、その胸をコンコンと叩いてみた。
 その瞬間……彼はビクッと飛び上がり、思いっきり後退りする。

 (うわっ。まさか、こじらせちゃってる!)

 そして、おもむろに吐き捨てた。

「な、なぜ君と俺が戦わなければならないんだ?」

 その声は凍りついていた。
 ……そう、こじらせすぎてかろうじてそう吐いたのだろうが……人々には違うように聞こえるらしい。

「黒薔薇、こえーッ!!」

「相変わらずクール!」

「それでも怯まない白薔薇もすげー!」

 (そうなるのか……)

 人々の反応に愕然としつつも、完全に戦意喪失していた。いくら黒薔薇とはいえ、ここまで固まっている人と決闘する気にもならないのだ。そして、今までこの黒薔薇の本性を見抜けなかった自分にびっくりだ。
 
 何を隠そう、今日の今日まで、私も黒薔薇を孤高でクールな男だと思い込んでいたのだ。固まりすぎて何も出来ない彼を、人と関わるのが嫌で、人を避けている男だと思い込んでいたのだ。自分の見る目のなさにがっかりだ。


 

 そんななか……

「おい、ルーク!」

 新たな声が聞こえた。声のほうを見て、私は後退りする。

 (げっ、ニコラス……)

 ルークと同じ黒い騎士服を着ているニコラスは、素早くルークの元へと駆け寄った。そして、きっと私を睨む。

「白薔薇。お前、また騎士団の仕事を邪魔するのか」

 そんなニコラスに告げた。

「邪魔なんてしてないしッ!!
 それなら、騎士団がちゃんとしてよね。私たちの助けなんて借りずに、自分たちで治安維持してよね!」


 
 ニコラスが民間の用心棒を嫌っているのは知っている。私をはじめ、一部の民間人が人気を集め、騎士団の出る幕がないからだ。だが、街が広大すぎるのと犯罪が多発しているため、騎士団だけの手に負えないことも、ニコラスは理解している。理解していながらも、自分たちの無力さに苛立っているのだろう。

「あー……白薔薇。お前、マジでムカつく。
 ルークの代わりに、俺が手合わせしてやる!」

 ニコラスは剣を抜き、

「望むところよ!」

 私も剣を抜いた。
 
 私たちの間を風が吹き荒び……そして、決闘が始まった。

 

 ニコラスは強い。私とともに三年間、武術留学をしていたのだから。だが、私はニコラスの妹だ。彼の癖も見抜いている。

 激しい打ち合いが始まった。夜の街に、剣がぶつかり合う音が響く。その剣筋は速すぎて、目には見えないほどだ。
 野次馬たちは私たちの決闘を見て、大興奮だ。そして、決まって私を応援する。

「白薔薇、いけー!!」

 そして、それがさらにニコラスの怒りを買っていることも知っている。

 ニコラスの剣が、私の頬をかすった。ギリギリ避けることが出来たが、束ねた髪が少しだけ切れて散らばる。魔法で髪を銀髪に変えているが、切られた髪はたちまち地毛の茶色へと変化する。

 (まずい!)

 そう思った時だった。
 

「……いい加減にしてください」

 低くて静かな声が聞こえた。そして、瞬時に剣先が硬いものにぶつかる。カチャンと鋭い金属音が鳴った。
 
 私とニコラスの間には、無表情のルークがいて。その両手に持った剣が、それぞれニコラスと私の剣を食い止めていて。私とニコラスの二人を止めているのに、その表情は相変わらず冷静で。

 (……強い)

 一瞬で分かった。
 彼が”孤高の黒薔薇”と持て囃されているのは、だてではないということが。おそらく彼は、私よりも……さらに言うと、団長のニコラスよりも強いのだろう。

「……いい加減にしてください」

 彼は再び、静かに告げた。

「団長も白薔薇さんも、無駄な戦いはやめてください」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。 だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

素直になるのが遅すぎた

gacchi(がっち)
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。

王妃はただ、殺されないことを願う

柴田はつみ
恋愛
一度目の人生で、愛する国王の剣によって結婚半年で殺されたお飾り王妃リリアナ。彼女は運命に抗うことなく、隣国から送られた「呪いの血を持つ王妃」として処断された。 しかし、リリアナは婚礼直後に時を戻して転生する。二度目の人生、彼女に残された時間は、運命の冬至の夜会までの半年間。 リリアナは、以前のような無垢な愛を国王アレスに捧げることをやめ、「殺されない」ため、そして「愛する人を裏切り者にしたくない」ために、冷徹な「お飾りの王妃」として振る舞い始める。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

処理中です...