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第一章
白薔薇と黒薔薇
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「げっ」
彼を見て、思わず顔を歪ませた。それもそのはず、そこに立っていたのは、今日の昼会ったばかりの黒薔薇ルークだったのだ。だが、今の彼は取り乱してもいないし、冷静沈着……のように見える。
ルークの後ろにはいつの間にかさっきの野次馬たちがいて、大声で囃し立てる。
「うわっ!白薔薇と黒薔薇の絡みが見れる!」
そんな野次馬に向かって、私は怒鳴っていた。
「絡みって何よ、絡みって!!」
(あ、そうだ。きっと、黒薔薇とどっちが強いか決闘しろってことね!)
合点のいった私は、腰に差した短剣を抜いた。そしてルークへ向ける。だが、ルークは微動だにせず私を見つめているのだ。
(フリーズしてる?……いや、まさか)
ルークがあまりにも丸腰なため、耐えきれずに彼に告げた。
「黒薔薇!あんたと私、どっちが強いか、みんな知りたいんだって?」
ルークは表情一つ変えない。その無表情が恐ろしい。……いや。フリーズしていないのかと思っていたが……彼、なんとカチンコチンに固まっているのだ。固まりすぎて、それが氷点下の冷たさを醸し出しているのだ。
「もしもーし!」
彼の前で手を振るが、彼はフリーズしっぱなしだ。だが、周りの人々は黒薔薇がフリーズしていると思っていないらしい。むしろ、私を黙殺していると思っているのだ。
「黒薔薇さーんッ!!」
わざと囃し立てても、彼は凍って動かない。だから試しに、その胸をコンコンと叩いてみた。
その瞬間……彼はビクッと飛び上がり、思いっきり後退りする。
(うわっ。まさか、こじらせちゃってる!)
そして、おもむろに吐き捨てた。
「な、なぜ君と俺が戦わなければならないんだ?」
その声は凍りついていた。
……そう、こじらせすぎてかろうじてそう吐いたのだろうが……人々には違うように聞こえるらしい。
「黒薔薇、こえーッ!!」
「相変わらずクール!」
「それでも怯まない白薔薇もすげー!」
(そうなるのか……)
人々の反応に愕然としつつも、完全に戦意喪失していた。いくら黒薔薇とはいえ、ここまで固まっている人と決闘する気にもならないのだ。そして、今までこの黒薔薇の本性を見抜けなかった自分にびっくりだ。
何を隠そう、今日の今日まで、私も黒薔薇を孤高でクールな男だと思い込んでいたのだ。固まりすぎて何も出来ない彼を、人と関わるのが嫌で、人を避けている男だと思い込んでいたのだ。自分の見る目のなさにがっかりだ。
そんななか……
「おい、ルーク!」
新たな声が聞こえた。声のほうを見て、私は後退りする。
(げっ、ニコラス……)
ルークと同じ黒い騎士服を着ているニコラスは、素早くルークの元へと駆け寄った。そして、きっと私を睨む。
「白薔薇。お前、また騎士団の仕事を邪魔するのか」
そんなニコラスに告げた。
「邪魔なんてしてないしッ!!
それなら、騎士団がちゃんとしてよね。私たちの助けなんて借りずに、自分たちで治安維持してよね!」
ニコラスが民間の用心棒を嫌っているのは知っている。私をはじめ、一部の民間人が人気を集め、騎士団の出る幕がないからだ。だが、街が広大すぎるのと犯罪が多発しているため、騎士団だけの手に負えないことも、ニコラスは理解している。理解していながらも、自分たちの無力さに苛立っているのだろう。
「あー……白薔薇。お前、マジでムカつく。
ルークの代わりに、俺が手合わせしてやる!」
ニコラスは剣を抜き、
「望むところよ!」
私も剣を抜いた。
私たちの間を風が吹き荒び……そして、決闘が始まった。
ニコラスは強い。私とともに三年間、武術留学をしていたのだから。だが、私はニコラスの妹だ。彼の癖も見抜いている。
激しい打ち合いが始まった。夜の街に、剣がぶつかり合う音が響く。その剣筋は速すぎて、目には見えないほどだ。
野次馬たちは私たちの決闘を見て、大興奮だ。そして、決まって私を応援する。
「白薔薇、いけー!!」
そして、それがさらにニコラスの怒りを買っていることも知っている。
ニコラスの剣が、私の頬をかすった。ギリギリ避けることが出来たが、束ねた髪が少しだけ切れて散らばる。魔法で髪を銀髪に変えているが、切られた髪はたちまち地毛の茶色へと変化する。
(まずい!)
そう思った時だった。
「……いい加減にしてください」
低くて静かな声が聞こえた。そして、瞬時に剣先が硬いものにぶつかる。カチャンと鋭い金属音が鳴った。
私とニコラスの間には、無表情のルークがいて。その両手に持った剣が、それぞれニコラスと私の剣を食い止めていて。私とニコラスの二人を止めているのに、その表情は相変わらず冷静で。
(……強い)
一瞬で分かった。
彼が”孤高の黒薔薇”と持て囃されているのは、だてではないということが。おそらく彼は、私よりも……さらに言うと、団長のニコラスよりも強いのだろう。
「……いい加減にしてください」
彼は再び、静かに告げた。
「団長も白薔薇さんも、無駄な戦いはやめてください」
彼を見て、思わず顔を歪ませた。それもそのはず、そこに立っていたのは、今日の昼会ったばかりの黒薔薇ルークだったのだ。だが、今の彼は取り乱してもいないし、冷静沈着……のように見える。
ルークの後ろにはいつの間にかさっきの野次馬たちがいて、大声で囃し立てる。
「うわっ!白薔薇と黒薔薇の絡みが見れる!」
そんな野次馬に向かって、私は怒鳴っていた。
「絡みって何よ、絡みって!!」
(あ、そうだ。きっと、黒薔薇とどっちが強いか決闘しろってことね!)
合点のいった私は、腰に差した短剣を抜いた。そしてルークへ向ける。だが、ルークは微動だにせず私を見つめているのだ。
(フリーズしてる?……いや、まさか)
ルークがあまりにも丸腰なため、耐えきれずに彼に告げた。
「黒薔薇!あんたと私、どっちが強いか、みんな知りたいんだって?」
ルークは表情一つ変えない。その無表情が恐ろしい。……いや。フリーズしていないのかと思っていたが……彼、なんとカチンコチンに固まっているのだ。固まりすぎて、それが氷点下の冷たさを醸し出しているのだ。
「もしもーし!」
彼の前で手を振るが、彼はフリーズしっぱなしだ。だが、周りの人々は黒薔薇がフリーズしていると思っていないらしい。むしろ、私を黙殺していると思っているのだ。
「黒薔薇さーんッ!!」
わざと囃し立てても、彼は凍って動かない。だから試しに、その胸をコンコンと叩いてみた。
その瞬間……彼はビクッと飛び上がり、思いっきり後退りする。
(うわっ。まさか、こじらせちゃってる!)
そして、おもむろに吐き捨てた。
「な、なぜ君と俺が戦わなければならないんだ?」
その声は凍りついていた。
……そう、こじらせすぎてかろうじてそう吐いたのだろうが……人々には違うように聞こえるらしい。
「黒薔薇、こえーッ!!」
「相変わらずクール!」
「それでも怯まない白薔薇もすげー!」
(そうなるのか……)
人々の反応に愕然としつつも、完全に戦意喪失していた。いくら黒薔薇とはいえ、ここまで固まっている人と決闘する気にもならないのだ。そして、今までこの黒薔薇の本性を見抜けなかった自分にびっくりだ。
何を隠そう、今日の今日まで、私も黒薔薇を孤高でクールな男だと思い込んでいたのだ。固まりすぎて何も出来ない彼を、人と関わるのが嫌で、人を避けている男だと思い込んでいたのだ。自分の見る目のなさにがっかりだ。
そんななか……
「おい、ルーク!」
新たな声が聞こえた。声のほうを見て、私は後退りする。
(げっ、ニコラス……)
ルークと同じ黒い騎士服を着ているニコラスは、素早くルークの元へと駆け寄った。そして、きっと私を睨む。
「白薔薇。お前、また騎士団の仕事を邪魔するのか」
そんなニコラスに告げた。
「邪魔なんてしてないしッ!!
それなら、騎士団がちゃんとしてよね。私たちの助けなんて借りずに、自分たちで治安維持してよね!」
ニコラスが民間の用心棒を嫌っているのは知っている。私をはじめ、一部の民間人が人気を集め、騎士団の出る幕がないからだ。だが、街が広大すぎるのと犯罪が多発しているため、騎士団だけの手に負えないことも、ニコラスは理解している。理解していながらも、自分たちの無力さに苛立っているのだろう。
「あー……白薔薇。お前、マジでムカつく。
ルークの代わりに、俺が手合わせしてやる!」
ニコラスは剣を抜き、
「望むところよ!」
私も剣を抜いた。
私たちの間を風が吹き荒び……そして、決闘が始まった。
ニコラスは強い。私とともに三年間、武術留学をしていたのだから。だが、私はニコラスの妹だ。彼の癖も見抜いている。
激しい打ち合いが始まった。夜の街に、剣がぶつかり合う音が響く。その剣筋は速すぎて、目には見えないほどだ。
野次馬たちは私たちの決闘を見て、大興奮だ。そして、決まって私を応援する。
「白薔薇、いけー!!」
そして、それがさらにニコラスの怒りを買っていることも知っている。
ニコラスの剣が、私の頬をかすった。ギリギリ避けることが出来たが、束ねた髪が少しだけ切れて散らばる。魔法で髪を銀髪に変えているが、切られた髪はたちまち地毛の茶色へと変化する。
(まずい!)
そう思った時だった。
「……いい加減にしてください」
低くて静かな声が聞こえた。そして、瞬時に剣先が硬いものにぶつかる。カチャンと鋭い金属音が鳴った。
私とニコラスの間には、無表情のルークがいて。その両手に持った剣が、それぞれニコラスと私の剣を食い止めていて。私とニコラスの二人を止めているのに、その表情は相変わらず冷静で。
(……強い)
一瞬で分かった。
彼が”孤高の黒薔薇”と持て囃されているのは、だてではないということが。おそらく彼は、私よりも……さらに言うと、団長のニコラスよりも強いのだろう。
「……いい加減にしてください」
彼は再び、静かに告げた。
「団長も白薔薇さんも、無駄な戦いはやめてください」
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