お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜

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第一章

憂さ晴らし、開始します

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 その日の夜。
 私は憂さ晴らしに、”趣味”に明け暮れた。





「”一輪の白薔薇”だ!」

「本当だ、白薔薇がいる!
 ……ってことは、今日俺たちに出番はないか」

 月明かりの下、人々は屋根の頂上にいる私を見上げている。私は彼らを気にすることなく、街をぐるっと見回した。

 (今日の依頼は、『最近街に現れる、放火魔を捕まえろ』だったよね)

 ここのところ、この街では不審火が続いている。今のところ住民や騎士団がすぐに見つけ、迅速な消火作業により大事には至っていない。その放火犯を見つけ出せということなのだ。

 

 街の様子を見ると、ちょうど近くに微かに上がった煙を見つけた。

 (まさか……)

 私は屋根の上を軽やかに走り、現場へ向かった。



 私の憂さ晴らし。それは、”日雇い用心棒”だ。私は街のギルドに登録し、依頼を受けて街の問題を解決している。
 通常であれば騎士の役目だが、この街は広く治安も悪い。そのため騎士たちだけでは全ての犯罪に対処することが出来ず、私のような民間人も治安維持に貢献しているのだ。

 私だって、ニコラスのように騎士団に入りたかった。だが、私は侯爵令嬢だ。剣を持つ女性など社交界で好まれるはずがなく、父がそれを許すはずがなかったのだ。だからこうして、家族には黙ってギルドに登録し、”白薔薇”として憂さ晴らしをしている。



 しばらく屋根の上を走ると、やがて煙が上がっているところに辿り着いた。まだ人々は気付いていないようで、倉庫から小さな火が上がっていた。

 (とりあえず、消火ね)

 私は屋根から地面へと飛び降りる。軽々着地した私は、すぐに水の魔法を繰り出した。どこからともなく水が押し寄せ、一瞬にして火は消えた。
 

「「おおーッ!!」」

 どこからともなくやってきた野次馬が、一斉に声を上げる。

「白薔薇、一瞬で火を消してしまったよ!」

「二人しかいないSランクだもんね。白薔薇に勝てる人はいないって!」

 こうやって囃し立てられるのが、実は快感でもある。日頃おとなしくしている分……さらに言うと、社交界では二度も婚約破棄された腫れ物として扱われている分、こうやって認められると自分の存在価値が見出せるのだ。

 だが、ぴくりとした。

「白薔薇でも、黒薔薇には勝てないんじゃね?」

 声のするほうをきっと睨む。そして、負けず嫌いの血が騒いだ。

「いや、黒薔薇よりも私のほうが強いと思うよ?」

 見知らぬ野次馬に思わずそう言ってしまうと、野次馬たちは楽しそうに笑う。

「マジ?今度決闘してみてよ」

「やだよ、勘弁して」

 正直、黒薔薇と関わりたくない。クロエのほうで、黒薔薇と知り合ってしまったのだから。私は昼に会った黒薔薇ルークの無様な姿を思い出し、吹き出してしまった。

 
 そんな私に、人々は言う。

「でも私、白薔薇のほうがいい。黒薔薇、怖いもん」

「黒薔薇に話しかけたら睨まれたし!」

 (いや、それは固まってただけだろうな)

 だが、そんなことを言えるはずもない。私が本当のルークを知っていると思われたら、面倒なことになりそうだからだ。
 私はひらりと野次馬たちの間を通り過ぎ、後ろを向いて手を振った。

「私、犯人捕まえなきゃ。またね!」

 またね、なんて言いつつも、相手がどこの誰かも分からない。もう二度と会わないかもしれないのだ。
 
 だが、これでいいと思っている。普段令嬢クロエとして頑張っているのだから、今だけは本当の私らしくさせて欲しい。



 
 私は走りながら、全神経を集中させる。そして空気中に漂う微かな火の香りを、魔力を使って察知した。火の香りは、すぐに近くから漂っている。

 (もうすぐね!)

 
 全速力で駆ける私は、前方に黒づくめの男性を発見した。明らかに怪しい彼は、周囲をきょろきょろ見回している。そして、脱兎の如く突進する私を見て、顔を歪ませた。

 (犯人だわ!)

 この街の犯罪者が、武器を持っていないはずがない。争いごとが絶えない街のため、一般市民でも護衛のためにナイフを持ち歩いているほどなのだ。
 
 彼は咄嗟に短剣を出し、私に襲いかかった。だが、武術留学をし、さらに用心棒としてパワーアップした私に勝てるはずもない。私はさらりと攻撃を交わし、背後から彼の両腕を捕らえた。そして耳元で囁いた。

「私に勝てるなんて、百年早いよ」

「おのれ……!」

 男はがむしゃらに私の手を振りほどこうとするが、私は素早く魔法を使い、男の体を草のつるで拘束した。

 草で縛られ地面に倒れ、そのままもがく哀れな男の前に、私はしゃがみ込んだ。そして笑顔で聞く。

「ねえ、なんで放火なんてするの?」

「お前には関係ねぇ!!」

 最後の抵抗で、男は声を荒げた。

「でも、あなたの放火のせいで困ってる人もいるんだよ?」

 彼にそう聞いた時だった。

 

「放火犯か。捕まえてくれて助かった」

 低くて静かな男性の声が聞こえた。思わず見上げると、いつの間にか私の前に彼が立っていた。黒色の騎士服を着て、腰に銀色の剣を差し、無表情で私を見下ろす彼が立っていたのだ。
 

 
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