悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます

湊一桜

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6. 滅茶苦茶な公爵令息

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 ルーカスが入った部屋は、広くて大きな部屋だった。窓際に大きなデスクが置かれ、壁際には天井まで続く本棚が置かれている。部屋の手前には、革でできた豪華な応接セット。ここはルーカスの仕事部屋なのだろうか。

 ルーカスはすたすたとデスクに歩み寄り、椅子にどかっと腰かけた。そして私を睨みつつ命令をする。

「クソチビ、飲み物と菓子を持ってこい」

 ……はぁ!? 何この態度。信じられない。

 心の中でそう発しながらも、

「承知しました」

私は笑顔で頭を下げ、部屋を出る。そして廊下をドスドス歩きながらぼやいていた。

「失礼な!クソチビって何!? 
 あんな変な男に罵られても、痛くも痒くもないの!」

 そして運良く給湯室を見つけ、ティーカップに紅茶を入れる。そこで、ふと乾燥させたカモミールやラベンダーが置いてあることに気付いた。ルーカスは気が立っているから、カモミールなんかを入れてリラックスするのがいいのかもしれない。ルーカスがリラックスしたら、私に対する攻撃も弱まるだろう。私は紅茶の中にカモミールを放り込んだ。

 セシリア特製のブレンドティーと、お洒落なクッキーを持って部屋に戻る。すると、部屋の中には相変わらずだらけた様子で椅子に座るルーカスと、ルーカスの前に立っている人物がいた。ルーカスの前に立っている人物は背が高く、ブロンドの髪に所々白髪が混じっている。そして、ルーカスによく似ているが、もっと知的でもっと厳しい顔をしている。黒いスーツを着ており、見るからに高貴だ。この人はまさか……

「ルーカス。花祭りに関しては、お前に一任している」

 男性の低い声が聞こえる。

「将来、私の爵位を継ぐ者として、必ず成功に導くように」

「ハイハイ、承知しました」

 ルーカスは相変わらず面倒そうに答えるが、この会話から私は確信した。この高貴な男性はルーカスの父トラスター公爵で、ルーカスは将来公爵になるのだ。ルーカスが公爵なんかになったら、トラスター公爵家も終わりだな、なんて心の中でほくそ笑む。一人でニヤついていた私をルーカスは目敏く見つけ、

「おい、クソチビ」

荒々しく呼んだ。

「ぼーっと突っ立っていないで、早く持ってこい!」

「は、はい!! 」

 私は慌てて背筋を伸ばし、ブレンドティーとクッキーをルーカスに差し出す。元伯爵令嬢なだけあって、改まった場でのマナーは心得ている。ブレンドティーをそっと差し出す私を見て、トラスター公爵は口元を緩ませた。

「君が新しい使用人だね。話は聞いている」

 トラスター公爵は、低くて穏やかな声で私に話しかけた。

「倅は我が強く、迷惑をかけることもあるかと思う。
 だが、どうか倅をよろしく」

「勿体無いお言葉です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 私は頭を下げていた。
 どうやら、トラスター公爵はちゃんとした男性らしい。ルーカスの父親だからと身構えたが、そこはさすが公爵だ。トラスター公爵が紳士で優しい男性だから、ルーカスの株がまた下がってしまうのだった。

 だが、

「君は、倅の同級生であるセシリアの兄の知り合いだそうだな」

急に発せられたその言葉に、飛び上がりそうになった。やばい、心臓がドキドキいって止まらない。ドキドキというのも、甘いドキドキではなく、嫌な胸騒ぎだ。

 出来る限り平静を装う私に、トラスター公爵は告げた。

「倅は、ずっとセシリアに恋をしている。
 それで周りの者が、セシリア以外との縁談を勧めるから、性格がひん曲がってしまったのだよ」

「チッ……うるせぇな」

 ルーカスはそう言って、私の差し出したブレンドティーを一口飲んだ。そして思わずむせ始める。私が心を込めて淹れたのに、むせるとは何事だ。それに……セシリアに恋をしている? どういうこと?

「ルーカス。セシリアだって、今のお前を見ると幻滅するだろう。
 もう少し、次期公爵として自覚を持て」

 トラスター公爵はそう言い残して部屋を出ていった。

 ルーカスは昔から暴力的で破茶滅茶だったため、今の彼を見てもたいして幻滅はしない。むしろ、あの頃と全然変わっていないと思うだけだ。だが、私にはもちろん気持ちはないし、ルーカスが私を好き……? それも何かの間違いだろう。だってルーカスと過ごした数年間、彼はそんなそぶり一つ見せなかったのだ。私はただのクラスメイトだった。

「おい」

 ルーカスの低い威嚇するような声ではっと我に返った。ルーカスは、ブレンドティーの入ったマグカップを手に持ったまま、私を睨んでいる。

「お前は楽しいか。人の痴話を聞いて」

 その言葉に、

「い、いえ!! 」

ということしか出来ない。だが、気になりすぎて聞いてしまった。

「その女性のことが、好きなのですか? 」

 私は今、セリオだ。そう思いながらもドキドキする。ルーカスが怒らないかとか……私のことを好きと言ったらどうしようとか考えてしまって。そして、どうか間違いであって欲しいと祈るのだった。

 だが、ルーカスはマグカップを持ったまま、私を睨んで挑むように告げたのだ。

「好きだ。……でも、お前には関係ない」

 いや……めちゃくちゃ関係あるのですが……!!
 
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