追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜

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1. 王宮から追放されました

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 完全な濡れ衣だ。私が国王陛下に毒なんて盛るはずがないのに。


 目の前には白い服を着た王宮騎士団が列を成している。そして、ひときわ大きくて強面の騎士団長が私の首に剣を向けた。きらりと冷たく輝く刃先は、今にも私の喉元を付き破ってしまいそうだ。じわりと汗が背中を伝った。

 騎士団長の隣にいる、初老の大臣が私を見下して感情のない声で告げる。

「薬師アン。お前が陛下の食事に毒を入れた。間違いないな」

「いえ、違います!!」

 否定するが、冷たい刀をさらに押し付けられる。これ以上否定すると、本当に殺されてしまうだろう。私はぐっと息を飲み込んだ。

「アン。お前が今日、王宮を一人で彷徨いているのを見た者がいる。手には禍々しい毒薬の袋を持って」

「薬です!陛下は最近、肝臓が悪くいらっしゃったので……」

「黙れ」

 大臣は敵意に満ちた目で私を見下ろしながら、口だけ異様に歪める。そんな、なんとも恐ろしい笑顔とともに告げたのだ。

「それが事実ならば、自分が毒を盛ったと言っているようなものだろう」

 確かに大臣の言う通りだ。私は薬草を煮詰めて作った薬を持って、陛下のもとへ向かっていた。だが、扉を開いた時にはもう陛下は倒れていたのだ。完全なる濡れ衣だ、だが、私が一番怪しまれるのは言うまでもない。

 申し訳ありません。それでもやはり、私はしていません。こんなことを告げても、誰も信じてくれないことは分かっている。私はこのまま処刑されるのだろう。

「薬師アンを処刑台へ」

 大臣の声が響く。分かってはいたが、私はこうして理不尽な死を遂げるのだろう。
 死ぬんだ……怖いな……すごく怖い……


そんななか、

「お待ちください」

 聞き覚えのある声がした。顔を上げると、目の前には息を切らした師匠の姿。その長い白髪を夜風に靡かせ、皺の寄った顔で大臣たちを見ていた。いつも冷静な師匠だが、今日は少しだけ顔が赤い。

「アンが毒を盛るなんてこと、考えられませぬ」

 しゃがれた声が、凛と響いた。だけどこの老師匠の言うことなんて、誰も信じないのだ。もちろん、私が必死で弁明しても、信じてくれないのだから。

 私はきっと、このまま処刑されるだろう。でも、最後に師匠が信じてくださって良かった。みんなに誤解されたままではなく、私の味方が一人でもいるなんて。


 だけど師匠は譲らなかった。手を広げ、大臣たちを先に行かさないとでも言うように、彼らを睨む。

「お待ちください。陛下はもう、元気にされています。
 そもそも、あんな少量の毒ごときで死ぬことなんてありますまい。アンはその辺も心得ておる。
 もし本当にアンがしたというのならば、もっと強い毒をもっと大量に盛るだろう」

 大臣はぐうと息を呑んで引き下がった。そして、渋々告げる。

「疑わしきは罰せずか。
 ……仕方ない、処刑は中止しよう。だが……」

 そのまま、彼はぎろりと私を睨んだ。まるで蛇に睨まれたカエルのように、身動き取れない私に、大臣は告げた。

「アン。お前の行いは誤解されても仕方がない。事実、王宮内には犯人はアンだという噂で満ち溢れている。
 これ以上お前をこの地に置いておくわけにはならない。追放だ。」


 こうして私は陛下に毒を盛ったという身に覚えのない濡れ衣を着せられて、王宮から追放されたのだ。
 最後に見えたのは、師匠の悲しそうな顔と、大臣の意地悪く歪んだ顔だった。

 大臣の顔を見て、一体誰に嵌められたのだろうと考えた。
 王宮薬師として勤める私は、特に敵も作らず業務に追われる日々を過ごしていた。だけど、私の知らないところで私を憎んでいた人がいたのかもしれない。あの大臣はいかにも悪そうな顔をしていたが、あまり話したこともない。そのため、恨みを買うなんてことも考えにくい。

 だけど……都を追放された私は、もうここに戻ってくることもないだろう。あの大臣含め人間関係を精算したと思うと、なんだか胸がすっきりするのだった。ただ、師匠に大迷惑をかけたことだけは心残りだが。

 さて、これからどこに行くべきだろう。
 私の父母はもう死んでしまったし、小さい頃から王宮で薬師として育てられた私は、親戚も兄弟も分からない。おまけに、王宮外で生きていく術も知らない。このまま彷徨って死んでしまうのだろうか。


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