追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜

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10. 紹介された薬師は、優しいお姉さんでした

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 次の日……。

 久しぶりにぐっすり眠った私は、朝の眩しい光で目を覚ました。そして、清潔な部屋の中で眠っていたことに気付き、ジョーの故郷にいることを思い出してホッとした。
 カーテンを開けると、前にはオストワル辺境伯領の街並みが広がっている。煉瓦造りの強そうな家々に、家の前は噴水のある広場だ。そして、広場を人々が忙しそうち行き交っていた。

 昨日は暗くてよく見えなかったが、私はこの街並みが好きだ。王都の全てが洗練されて頑強な街並みではなく、よくある地方の平和な街、といったところだろう。

 セドリック様が薬師のソフィアさんを紹介してくださったことを思い出し、急いで身なりを整える。パントリーの中には食材も詰まっており、パンを焼いて食べた。これまた、甘くて美味しいパンでホッとするのだった。
 私がこんな暮らしが出来るのも、ジョーのおかげだ。私は薬師として当然のことをしただけなのに、ジョーはそれの十倍返しをしてくれた。


 朝食を食べちょうど身なりを整えた頃、家のベルが鳴った。扉を開けると、ドアの外には綺麗な女性が立っている。金色のウェーブがかった髪に、グリーンの瞳。聖女、その言葉がぴったりな女性だ。私よりも年上で、おそらく三十代だろう。
 彼女は私を見てにっこりと笑い、礼をした。そして告げる。

「私はこの街の治療院を開いている、薬師のソフィアと申します。
 セドリック様から、新しい薬師が入ってくださるとのお話を聞き、伺いました」

「はっ、はい!アンと申します」

 慌てて頭を下げながらも、ソフィアさんのあまりの美しさに目を奪われてしまう。
 ソフィアさんは美しい上に、おっとりしていて性格もいいのだろう。ソフィアさんを見ていると、自分が酷く惨めでちっぽけな人間であると思ってしまう。

 おまけに、ソフィアさんは薬師としても先輩だ。実際、この街の医療を切り盛りしている。ソフィアさんに、アンの腕はたいしたことがないと思われるかもしれないと不安になる。
 だが、この街で生きていくのは私が選んだ運命だ。

「お力になれるか分かりませんが、よろしくお願いいたします!」

 頭を深々と下げていた。
 こんな私を見て、ソフィアさんはふっと笑う。

「アンちゃん。そんなにもかしこまらなくてもいいのよ。
 これからは同志として頑張りましょう」

 ソフィアさんは、本当にいい人なのだろう。セドリック様から急に薬師を入れてくれと言われても、こうやって私を受け入れてくれるのだから。
 だけどソフィアさんは、申し訳なさそうに私に告げるのだ。

「アンちゃん、お疲れのところ本当に悪いんだけど、この国は薬師が不足しているの。今は謎の病気も流行っていて、治療院はパンク寸前だわ。
 王都のように、万全の薬師体制が整っていれば良かったのだけど」

 王都と聞いて、胸がズキっとする。だが、私が王都出身だということは、黙っておこうと思う。私が国王を殺害しようとしたなんてデマが、どこからか広がってしまうかもしれないから。
 代わりに私は、ソフィアさんに聞いていた。

「謎の病気って、何ですか?」

 もしかして、ジョーがかかっていたものですか?と言いかけて口を噤んだ。
 ジョーがもし本当に騎士団の人だったら、私なんかと関わっていると知られたくないに違いない。国王殺しの罪をかけられた、悪人なんかと。
 ソフィアさんは困った顔で教えてくれる。

「高熱が出て、倒れてしまうの。それで死んでしまう人もいるし、回復しても手や足が動かなくなってしまうの」

 そうなのか……その情報だけだと、ジョーがかかった病気と同じものなのかは分からない。だが、感染性のものだろう。
 せっかくこの街でお世話になり、仕事までもらえたのだから、出来る限りやらなければならない。そう、ジョーに恩返しをするためにも。

「私に治療が務まるか分かりませんが、頑張ります!」

 意気込む私を見て、ソフィアさんは嬉しそうに笑った。

「ありがとう、アンちゃん。
 でも、アンちゃんも病気にかからないように注意してね」

 その言葉が嬉しかった。
 新しい生活に、新しい仕事に、新しい先輩。どれも全てもったいないくらいいいものだ。全てに感謝して、全てに少しでも恩返しをしたい。私の薬師の腕なんて、王宮の師匠に比べれば微々たるものなのだが。




 ソフィアさんの治療院は、私の家からすぐのところにあった。三階建ての立派な建物で、裏には広大な薬草園が広がっているらしい。薬草園と聞いてウキウキの私。一刻も早く薬草園を見に行きたかったのだが……
 治療院の前には、すでに数人の患者が列を成していた。そしてソフィアさんを見ると、

「薬師様、助けてください」

すがるようにそのか細いソフィアさんの体にしがみついた。患者は、大人だけでなく子供もいる。子供はぐったりとして母親に抱かれ、母親も涙を浮かべてソフィアさんに近付く。
 こんな様子を見て……私は思わず言ってしまった。

「ソフィアさんから離れてください。
 感染したかたは、今後治るまで他の人との接触を絶ってください!」

「えっ!?」

 私の言葉に、人々は明らかに不満の顔をする。こんな顔をするのもよく分かるが、まずは感染対策だ。王宮薬師として、伝染病の感染対策には徹底して取り組んでいた。王都では当然であることが、この地方都市では出来ていないのだ。

「この病気はおそらく感染症です。他人に移して感染を拡大してはいけません!」

 我ながら冷たい言葉だと思う。特に死期が近付いているようなら、家族のもとで幸せに過ごして欲しい。だけど、薬師としてそれは許せない。いや、きっと治すから。

「ちょ……ちょっと、アンちゃん!?」

 ソフィアさんは私の想像以上に強気な態度に混乱している。きっと、優しいソフィアさんは、患者に寄り添うという治療スタイルなのだろう。それはとても大切だ。だが、時と場合によっては、鬼になることも必要だ。

「ソフィアさん……生意気言ってすみません。
 でも……私を信じてください!!」

 私は真剣な目で、ソフィアさんに訴えていた。


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