エングラムプレイ

みゆき

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死喰鳥

死喰鳥①

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 粛々と葬式が執り行われていた。
 黒服に身を包んだ大勢が、白い花の手向けられた棺桶を囲んで泣いている。晴れた午前だった。風がそよいで木陰が揺れる。
 ふと、泣きはらした目の少女が顔を上げた。
 彼女の視線の先には奇妙な生き物がいた。
 影が立体化したような不思議な黒さだった。もやをはらんだ体躯は大人の男性より大きい。鳥のようだったが、彫刻のような人面だけが白く浮かび上がっていた。
 ぞわぞわと少女の背を悪寒が駆け上がる。
 傍に立つ大人の礼服の裾を引こうとした瞬間。

 ぐあぱ。

 鳥の腹が裂け、巨大な口が現れた。
 それは死臭の沁みた墓土ごと、あたり一帯を包み込んだ。

死喰鳥しにばみちょう


 シスターは夢を見ていた。ろくでもない夢だった。人生の走馬灯、悪夢の総集編。星1レビュー必至だが、悲劇がお好みの幸せな人からは高評価を受けるかもしれない。
 彼女はもぞりと顔を上げた。仕事机でうたたねをしてしまっていたらしい。昼食を済ませた午後の半ば、今日は行事がなく、そのうえいい天気だからつい。
 ふと、窓の外が騒がしいことに気付く。
 教会の外には共同墓地が広がっている。普段なら墓参りに来た人たちかと思うところだが。
 彼女はもともと眠りの浅い方だった。だから夢をよく見るのだけれど、覚醒しやすい身体はすぐに動くのでありがたい。木製の質素な椅子をガタンと動かして立ち上がると、黒い修道服をなびかせながら部屋を出て行った。

「怪しいやつらめ! ここでなにをしていた!?」

 責め立てるような怒号が響く。見渡す限り墓石しかないため、さえぎるものはなにもなく、その鋭い声はただただよく響いた。

「一体なんの騒ぎです」

 警官ら数人と野次馬の人々の黒山に声をかけると、全員がはっと顔をあげて口々に「シスター!」と彼女を呼んだ。警官のうちの一人が忌々しそうに返事をした。

「不審者ですよ。まだガキですが」
「不審者…?」

 彼の言葉を受けて、視線を下に落とせば取り押さえられている子どもが二人、一人は凪ぐような無表情で、もう一人は対照的にへらっとした笑顔で地面にはいつくばっていた。
 一瞥したシスターは、ひげ面の警官に視線を戻して尋ねた。

「この子たちはなにを?」
「立ち入り禁止のロープを抜けて、ここで怪しげな儀式を」
「何か光る液体をかけてまじないを掛けているようでした」
「それにこれ」

 見せられたのはリボルバー式の拳銃だった。

「銃を所持していた」
「ここは先日死喰鳥が現れたところだ。こいつらとなにか関係してるのかもしれん」
「カンケーってかオレらそいつに会いたいだけなんだけどォ。怪しげな儀式とやらで呼び寄せてたワケ」

 へらっとした方がへらっとしたまま口を開いた。
 警官らは目くばせしあって眉をひそめた。確かに彼らの立つそこは、つい2日前に死喰鳥が食事をした場所だった。
 死喰鳥。大きな鳥の形をした黒い影。白い彫刻の顔をして、葬式の人々を丸呑みにしに現れる。
 亡骸を土に収めた瞬間現れたそいつは、眠る死人ごと参列者を喰らおうとした。そのせいで彼らが取り押さえられている地面は不自然なえぐれ方をしていた。

「子どもの遊びですよ。本気じゃない」

 ヒソヒソとざわつく野次馬のガヤを裂くように、無表情の少年の声が降りた。全員の視線が彼に集まる。

「すみません。それ返してもらえますか。父のを勝手に持ち出してしまったんです。返さないと怒られる。……遊びだから、弾は入ってないでしょう」

 この場の全員が思わず押し黙ったのは、彼が声音まで全くの無感情だったからだ。
 いたずらが見つかったこと、警官に取り押さえられていること、銃を持っていたこと、狼狽えることもせせら笑うこともなく、あまりに淡々としすぎていて、機械音かと思うほどにいっそ不気味だった。
 銃を持っていたひげ面の警官がシリンダーをのぞき込むと確かに空だった。彼はこの中で一番立場が上なのだろう。忌々しそうに二人を押さえつけていた部下たちに離してやれと言った。

「紛らわしいことをするな。もうそこかしこでもう何人も喰われてて皆ピリピリしてんだよ」
「すみません」

 立ち上がった少年は言葉だけならしおらしく、けれどもやはり何の感情もなく謝罪を述べた。
 警官は眉をひそめて気味悪そうにしたが、やがて野次馬たちを引き連れてその場を後にした。

「すみません。お騒がせしました」

 シスターは彼を見た。逆立てた銀髪、赤い瞳。黒いシャツにミリタリーパンツを合わせてごつめのブーツを履いている。たしかに銃の似合う装いではある。左の頬に刻まれたバーコードのようなタトゥーと首輪のようなアクセサリーが目を引いた。

「うはははは! 蹴散らしちまえばよかったのになァ~」

 にこにこと楽しそうな少年に目をやる。黒いざんばらの長髪を首の後ろで一つで結び、ネックレスやブレスレッドなどたくさんの装飾をしゃらしゃら鳴らしながら、彼はサンダルに入り込んだ土を落としていた。白いシャツに黒いサルエルと軽装で、無表情の少年に比べるとだいぶ小柄だ。人懐こそうなつり目を開くと、宝石のようなきれいな青色が覗いた。
 あの、と声をかけられて、シスターの視線は再び無表情の少年へと移った。

「俺はソラ。こいつはジオ。俺たち感情を食べるバケモノ……、うろって言うんですけど、そいつを探してるんです。たぶんあなた方の言う死喰鳥がそれにあたる。お話を聞かせていただけませんか」
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