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昔の話
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迷うくらいならやめたらいいと思う。
そんなボクの言葉は誰にも届かないまま、無情にも時間だけは過ぎていく。
いや、無情だ…なんて。静かに遠くを見るなんてことはなく。
連日体育祭実行委員アキの指示のもと、ボクらはドタバタ準備に奔走。去年の実行委員会が適当すぎだー!って途中何度もブチギレのアキを宥めたりしたのも大変だった…。
そして清々しくも晴れ渡った空の下、体育祭は幕を開けたのだった。
県内そこそこレベルのそこそこの男子校。
学校の雰囲気だとか、通う生徒の気質だとかは割と穏やかで、全体的にのんびり。
争い事も少ないし、かといってものすごい進学校でもない。
去年から始まったハロウィンイベントのように、生徒の意見や主張を勝手に疎かにもしなければ、上から押し付けるようなこともしない。
体育祭だって、ものすごく白熱することもないし根性みせなきゃいけない風潮があるわけでもない。
ただ楽しもうね、怪我なくね。
そんな校長先生のお話でにこやかに始まった体育祭には、保護者の姿もわりとあったりして。
なんだかやはり、のんびりした学校なんだなぁなんて。今更ながらに思ったりした。
パン食い競争を終えて、一旦席に戻ってきたボクら。
一同、疲労困憊です。
うん、すごいね。過酷だった。パン食い競争!!
パン食い競争って、くくりつけられたパンを取って走るだけの種目じゃなかった?なんでパン係の人を追いかけてパン取る競争になってんの??しかもパン係、すごい足早いんだけど!!
みんなでギャーギャー騒ぎながらなんとか終えたけど、ほんとすごい、疲れた…。
ボクらは各自水分取りながらしばしの休憩時間。
穏やかに笑いながら観戦している保護者のみなさんを眺めながら、隣に座ってるアキに声をかけた。
「アキんとこ、だれか来てるんだっけ?」
「んー?うちは仕事でどちらも不参加。シマのとこは、去年のあの兄貴が来てるんだろ?アオは会った?」
「えー?会ってない!あの先輩、シマ君と性格違ってて面白かったよねぇ。」
どっかにいるのかな。
ボクは目線で探してみるけどそれらしい人はいない。
「面白いかなぁ。あの人ちょっと変だとは思うけど。」
後ろからシマ君参戦。
よいしょ、と声出しながら、シマ君はアキの隣に移動してくる。
「アオ君とこは誰か来てるの?」
「来てないよー。」
ボクはすんっと顔から表情消して言ってやった。
「あんな仮装見せれません。」
それもそうかーって、アキが笑った。
心はちょっと軽くなったけど。やっぱりそこだけはどうしても、どうしても駄目だった。
おばぁちゃんに、見にくる?って一言は喉から出てはこなくて。頭も拒否しちゃってて。
今朝もただ、行ってくるねしか言えなくて。
いってらっしゃい、とだけ、優しく言われた。
『今日も誰もこない』
登校して早々に後ろから抱きついてきたカナにそう言ったら、カナはきゅっと少しだけ。ボクの身体に回した腕に力を込めた。
『写真撮って、あとで見せよう。』
『…うん。』
ボクはカナの腕の中で、素直にこくりと頷いた。
『素直。』
ふってちぃちゃく息吐いて、カナの右腕が動いて。
ボクの頭に乗っかって。
頭なでなで。
それから、おばぁちゃんみたいに、優しく優しく言った。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
保護者のみなさんの、楽しそうな顔。
それをみていたら
体育祭はやっぱり大嫌いだけど、それはボクだけの気持ち。
(おばぁちゃん、見たかったかなぁ。)
初めて、そんなことを思った。
ボクの、心の変化。
『写真撮って、あとで見せよう。』
うん、そうだねカナ。
今年はたくさん写真を撮ろう。
ーー仮装以外。
そしてついに、仮装大会。
違った、徒競走。
ボクはすんっと無表情のまま、スタート地点に立った。
周囲の視線はいらない。ボクを見なくていい。隣のレーンは学者さんかな?白衣に、いまあるのそれ?!な瓶底眼鏡にフラスコ持った2年を見てればいい。あるいは大丈夫頭?黄色い帽子、頭にはまってないよ?な、ランドセルもきつきつの、そのまた隣のレーンの1年を見ればいい。ボクは見なくてよろしい。いないものとして。視線避けて。だから見んな!
写真も撮るなぁぁー!
「アオ君似合ってる!用意したかいがある!!」
観客席からはしゃいだミナミの声。
見なくてもわかる。
笑顔なミナミが憎い!
ただいまのボクの格好。
ノースリーブ
お腹だし
ミニスカートに膝上ソックス
両手にぽんぽん
頭にはご丁寧に挑発ウィッグでポニーテール。
シマ君から話のいったミナミが、ご機嫌で用意したという衣装一式。
ボクは立派なチアガールにされています。
「こうなったらもう、さっさと走って退場するしかない。」
ボクはひそかに決意を固め。
バトンを受け取ると走り出した。
『アオちゃん、今日の運動会のかけっこ、楽しみね。』
『アオが走るのか!転ばないようにな。』
頭の中で聞こえてくる、遠いあの日の声。
運転席の母と助手席の父。
後ろの席に乗っていた小さなボク。
2人の会話を聞きながら、運動会のことを思ってわくわくしていた。
玉入れ かけっこ ダンス
『お父さん、すぐ仕事終えて向かうからな。それまで怪我せず、楽しんでな。』
『お母さんもお父さん送ったらすぐ戻るからね、待っていてね。』
幼稚園で降りたボクの頭をいつもみたいに撫でて、お父さんは
『行ってきます。またあとでな。』
笑ってる。
「アオー!!」
声がした。
「がんばれー!」
カナの声がはっきり聞こえた。
ボクはひたすらに、走った。
次のクラスの走者にバトンを繋げるために。
そんなボクの言葉は誰にも届かないまま、無情にも時間だけは過ぎていく。
いや、無情だ…なんて。静かに遠くを見るなんてことはなく。
連日体育祭実行委員アキの指示のもと、ボクらはドタバタ準備に奔走。去年の実行委員会が適当すぎだー!って途中何度もブチギレのアキを宥めたりしたのも大変だった…。
そして清々しくも晴れ渡った空の下、体育祭は幕を開けたのだった。
県内そこそこレベルのそこそこの男子校。
学校の雰囲気だとか、通う生徒の気質だとかは割と穏やかで、全体的にのんびり。
争い事も少ないし、かといってものすごい進学校でもない。
去年から始まったハロウィンイベントのように、生徒の意見や主張を勝手に疎かにもしなければ、上から押し付けるようなこともしない。
体育祭だって、ものすごく白熱することもないし根性みせなきゃいけない風潮があるわけでもない。
ただ楽しもうね、怪我なくね。
そんな校長先生のお話でにこやかに始まった体育祭には、保護者の姿もわりとあったりして。
なんだかやはり、のんびりした学校なんだなぁなんて。今更ながらに思ったりした。
パン食い競争を終えて、一旦席に戻ってきたボクら。
一同、疲労困憊です。
うん、すごいね。過酷だった。パン食い競争!!
パン食い競争って、くくりつけられたパンを取って走るだけの種目じゃなかった?なんでパン係の人を追いかけてパン取る競争になってんの??しかもパン係、すごい足早いんだけど!!
みんなでギャーギャー騒ぎながらなんとか終えたけど、ほんとすごい、疲れた…。
ボクらは各自水分取りながらしばしの休憩時間。
穏やかに笑いながら観戦している保護者のみなさんを眺めながら、隣に座ってるアキに声をかけた。
「アキんとこ、だれか来てるんだっけ?」
「んー?うちは仕事でどちらも不参加。シマのとこは、去年のあの兄貴が来てるんだろ?アオは会った?」
「えー?会ってない!あの先輩、シマ君と性格違ってて面白かったよねぇ。」
どっかにいるのかな。
ボクは目線で探してみるけどそれらしい人はいない。
「面白いかなぁ。あの人ちょっと変だとは思うけど。」
後ろからシマ君参戦。
よいしょ、と声出しながら、シマ君はアキの隣に移動してくる。
「アオ君とこは誰か来てるの?」
「来てないよー。」
ボクはすんっと顔から表情消して言ってやった。
「あんな仮装見せれません。」
それもそうかーって、アキが笑った。
心はちょっと軽くなったけど。やっぱりそこだけはどうしても、どうしても駄目だった。
おばぁちゃんに、見にくる?って一言は喉から出てはこなくて。頭も拒否しちゃってて。
今朝もただ、行ってくるねしか言えなくて。
いってらっしゃい、とだけ、優しく言われた。
『今日も誰もこない』
登校して早々に後ろから抱きついてきたカナにそう言ったら、カナはきゅっと少しだけ。ボクの身体に回した腕に力を込めた。
『写真撮って、あとで見せよう。』
『…うん。』
ボクはカナの腕の中で、素直にこくりと頷いた。
『素直。』
ふってちぃちゃく息吐いて、カナの右腕が動いて。
ボクの頭に乗っかって。
頭なでなで。
それから、おばぁちゃんみたいに、優しく優しく言った。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
保護者のみなさんの、楽しそうな顔。
それをみていたら
体育祭はやっぱり大嫌いだけど、それはボクだけの気持ち。
(おばぁちゃん、見たかったかなぁ。)
初めて、そんなことを思った。
ボクの、心の変化。
『写真撮って、あとで見せよう。』
うん、そうだねカナ。
今年はたくさん写真を撮ろう。
ーー仮装以外。
そしてついに、仮装大会。
違った、徒競走。
ボクはすんっと無表情のまま、スタート地点に立った。
周囲の視線はいらない。ボクを見なくていい。隣のレーンは学者さんかな?白衣に、いまあるのそれ?!な瓶底眼鏡にフラスコ持った2年を見てればいい。あるいは大丈夫頭?黄色い帽子、頭にはまってないよ?な、ランドセルもきつきつの、そのまた隣のレーンの1年を見ればいい。ボクは見なくてよろしい。いないものとして。視線避けて。だから見んな!
写真も撮るなぁぁー!
「アオ君似合ってる!用意したかいがある!!」
観客席からはしゃいだミナミの声。
見なくてもわかる。
笑顔なミナミが憎い!
ただいまのボクの格好。
ノースリーブ
お腹だし
ミニスカートに膝上ソックス
両手にぽんぽん
頭にはご丁寧に挑発ウィッグでポニーテール。
シマ君から話のいったミナミが、ご機嫌で用意したという衣装一式。
ボクは立派なチアガールにされています。
「こうなったらもう、さっさと走って退場するしかない。」
ボクはひそかに決意を固め。
バトンを受け取ると走り出した。
『アオちゃん、今日の運動会のかけっこ、楽しみね。』
『アオが走るのか!転ばないようにな。』
頭の中で聞こえてくる、遠いあの日の声。
運転席の母と助手席の父。
後ろの席に乗っていた小さなボク。
2人の会話を聞きながら、運動会のことを思ってわくわくしていた。
玉入れ かけっこ ダンス
『お父さん、すぐ仕事終えて向かうからな。それまで怪我せず、楽しんでな。』
『お母さんもお父さん送ったらすぐ戻るからね、待っていてね。』
幼稚園で降りたボクの頭をいつもみたいに撫でて、お父さんは
『行ってきます。またあとでな。』
笑ってる。
「アオー!!」
声がした。
「がんばれー!」
カナの声がはっきり聞こえた。
ボクはひたすらに、走った。
次のクラスの走者にバトンを繋げるために。
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