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第二章
75『休息のとき』
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こんな重要な事を即決できるわけでもなく、だんまりを決め込んだジャマーやザルバ、ゲルトを置いて、アンナリーナはフランクを従え部屋に戻ってきた。
奥の部屋に気配がする。
アンナリーナはバッグからマスクを出して掛け、部屋を覗いてみた。
「お疲れ様でした」
「リーナさん! もう起きていいの?」
いささか疲れを滲ませたマチルダがソファから立ち上がった。
だが、マスク姿という異様な姿にそこで立ち止まったまま、戸惑っている。
「これは予防のためにしているの。
大丈夫なんですよ」
相手の表情を窺えないということは戸惑いを覚えるだろう。
まして、この世界にはこのような習慣はないのだ。
「リーナさん、倒れたって聞いてびっくりしたのよ」
「心配かけてごめんなさい。
それと、急にマリアさんのお世話をお願いしてしまってごめんなさい」
マチルダとしてはそんなことはどうでもよかった。
倒れた時の詳細は、その時一緒にいたマリアから聞いている。
身体が弱いと聞いてはいたが、こうして実際に倒れたと聞いて身の縮む思いがした。
「本当に大丈夫?
私たちには心配いらないわよ。
マリアさんの容態は落ち着いているの。お熱も下がったのよ」
何事もなければ、2日分渡した薬を飲み終わってからもう一度診察する。
それから常備薬を作るつもりだ。
滋養のある薬草茶も調合しなければ。
「今夜はキャサリンさんが付き添って下さるのかしら」
アンナリーナがボソリと呟いた言葉にすぐに返事が返ってきた。
「あのお部屋に寝椅子を入れて下さって、仮眠出来るように寝床を調えて下さったの。
ちゃんとお食事もいただいていたわ」
マチルダは老齢なので、ちゃんと休息を取るよう部屋に戻されたそうだ。
アンナリーナはおやすみの挨拶をし、フランクとテントに入った。
「今夜は私、あっちの方でゆっくりするからフランクも自分の部屋でゆっくりしたら?」
「あっちって…… ツリーハウスか?」
「ん~ ゆっくりお風呂に入りたい。
それから上級以上のポーションの下調べをしなきゃ」
「おい、外は寒いぞ。今からあっちに行くって、リーナ!」
「ん……?」
アンナリーナが首を傾げてフランクを見た。
「言ってなかったっけ?
ここをほら……」
タペストリーのかかっている側面を指差し、そしてそれを捲りあげた。
そうするとそこにはドアが現れる。
テントにドア……ものすごく不自然だ。
「ここがツリーハウスと繋がっているの……ごめんね~ フランクは連れて行けないの。
ツリーハウスもアイテムバッグと一緒で、お師匠様が作ったものを譲られたから、どう言う魔法がかかってるのかわかんないのよ。
私以外は従魔は入れるんだけどね」
一瞬期待したフランクが見る見る萎れていく。
彼はあちらに行けば、もっと珍しくて美味しいものが食べられると思ったようだ。
「明日の朝食は用意しておくから。
……フランク、お部屋あるんだよね?」
「まあ……一応」
フランクは正直、暗くて寒い部屋に帰りたくなかった。
生活感のない、冷たい印象の部屋。
無理もない。
彼がここに帰って来たのは一年半ぶりなのだ。
フランクの気乗りのしない様子を見てとったのだろう、アンナリーナが言った。
「よかったらここにいる?
ちょっと小さいけどこの寝床で寝てもいいし、大したもの置いてないから気にしなくていいよ」
「いいのか?」
「うん、寝床とソファと、机と椅子しかないけどね。
あ、そうだ! お菓子とか置いておくよ」
菓子と聞いて、フランクがそわそわし始める。
アンナリーナ手作りの料理はすべて美味しいが、特に砂糖や蜂蜜をたっぷり使った菓子は絶品だ。
その、本来なら貴重な菓子を無造作にぽいぽいと出していく。
今まで出したことのないブラウンケーキやスィートポテトケーキも大盤振る舞いだ。
「じゃあ、おやすみ~」
境の扉を閉めてソファに座り込む。
「お疲れ様でした。
本当に大丈夫ですか? 主人様」
ナビが待ちかねたように声をかけてきた。
「うん、今夜はもうお風呂に入って寝るよ。
その前にちょっとひと休み……」
ナビはこういう時ほど、自分が実体を持たないことを悔やむ。
主人様がうたた寝しても、ベッドへ運ぶことも出来ない。
ブラックリザードに進化したセトが、どうにか毛布を引き剥がしてきて、これもまた苦労してアンナリーナに掛けてやる。
「アルジ、ダイジョウブカ……」
鮮やかな青色の舌が、アンナリーナの頬を舐めた。
睡魔に負けた、つかの間のうたた寝から覚ましたものは、冷たく滑らかな感触だった。
「アルジ、オキタカ?
コンナトコロデネテシマッタラ、カゼヲヒクト、ナビガイッテイル」
「わあぁ、ごめん!どのくらい寝てた?」
「小半刻くらいですよ。
でも、そろそろ起きないと本当に風邪を引いてしまいます」
ナビの声には若干の怒りがこもっている。
アンナリーナは素直に謝った。
入浴の準備をして、身体を洗うのもそこそこに湯に入る。
お気に入りの、薔薇の香りのバスオイルをたっぷり入れて顎までしっかりと浸かった。
オイルとシリーズのシャンプーで髪を洗い、トリートメントする。
丹念に濯いでまた、湯に浸かる。
浴室全体が薔薇の香りに包まれて、アンナリーナはうっとりとしていた。
「ごめんね、待たせて」
髪も身体も一瞬にして乾かしたアンナリーナは、あとは湯冷めしないようにしっかりと着込むだけだ。
下着の上にネル地のパジャマを着てフリースのガウンを羽織る。
寝室用のスリッパを履いてキッチンにやってきた。
「セト、ごはんが遅れてごめんね」
切り分けたローストビーフと水と桃のコンポート。
セトが食べ始めたのを見て、いつものステータス供与を始める。
「【体力値供与】【魔力値供与】
そして【鑑定】」
セト(ブラックリザード変異種、雄)
体力値 82000
魔力値 9000
「なんか、凄いことになってきたね。
でも、まだまだバージョンアップさせるよ!」
アンナリーナはにっこりと微笑んだ。
奥の部屋に気配がする。
アンナリーナはバッグからマスクを出して掛け、部屋を覗いてみた。
「お疲れ様でした」
「リーナさん! もう起きていいの?」
いささか疲れを滲ませたマチルダがソファから立ち上がった。
だが、マスク姿という異様な姿にそこで立ち止まったまま、戸惑っている。
「これは予防のためにしているの。
大丈夫なんですよ」
相手の表情を窺えないということは戸惑いを覚えるだろう。
まして、この世界にはこのような習慣はないのだ。
「リーナさん、倒れたって聞いてびっくりしたのよ」
「心配かけてごめんなさい。
それと、急にマリアさんのお世話をお願いしてしまってごめんなさい」
マチルダとしてはそんなことはどうでもよかった。
倒れた時の詳細は、その時一緒にいたマリアから聞いている。
身体が弱いと聞いてはいたが、こうして実際に倒れたと聞いて身の縮む思いがした。
「本当に大丈夫?
私たちには心配いらないわよ。
マリアさんの容態は落ち着いているの。お熱も下がったのよ」
何事もなければ、2日分渡した薬を飲み終わってからもう一度診察する。
それから常備薬を作るつもりだ。
滋養のある薬草茶も調合しなければ。
「今夜はキャサリンさんが付き添って下さるのかしら」
アンナリーナがボソリと呟いた言葉にすぐに返事が返ってきた。
「あのお部屋に寝椅子を入れて下さって、仮眠出来るように寝床を調えて下さったの。
ちゃんとお食事もいただいていたわ」
マチルダは老齢なので、ちゃんと休息を取るよう部屋に戻されたそうだ。
アンナリーナはおやすみの挨拶をし、フランクとテントに入った。
「今夜は私、あっちの方でゆっくりするからフランクも自分の部屋でゆっくりしたら?」
「あっちって…… ツリーハウスか?」
「ん~ ゆっくりお風呂に入りたい。
それから上級以上のポーションの下調べをしなきゃ」
「おい、外は寒いぞ。今からあっちに行くって、リーナ!」
「ん……?」
アンナリーナが首を傾げてフランクを見た。
「言ってなかったっけ?
ここをほら……」
タペストリーのかかっている側面を指差し、そしてそれを捲りあげた。
そうするとそこにはドアが現れる。
テントにドア……ものすごく不自然だ。
「ここがツリーハウスと繋がっているの……ごめんね~ フランクは連れて行けないの。
ツリーハウスもアイテムバッグと一緒で、お師匠様が作ったものを譲られたから、どう言う魔法がかかってるのかわかんないのよ。
私以外は従魔は入れるんだけどね」
一瞬期待したフランクが見る見る萎れていく。
彼はあちらに行けば、もっと珍しくて美味しいものが食べられると思ったようだ。
「明日の朝食は用意しておくから。
……フランク、お部屋あるんだよね?」
「まあ……一応」
フランクは正直、暗くて寒い部屋に帰りたくなかった。
生活感のない、冷たい印象の部屋。
無理もない。
彼がここに帰って来たのは一年半ぶりなのだ。
フランクの気乗りのしない様子を見てとったのだろう、アンナリーナが言った。
「よかったらここにいる?
ちょっと小さいけどこの寝床で寝てもいいし、大したもの置いてないから気にしなくていいよ」
「いいのか?」
「うん、寝床とソファと、机と椅子しかないけどね。
あ、そうだ! お菓子とか置いておくよ」
菓子と聞いて、フランクがそわそわし始める。
アンナリーナ手作りの料理はすべて美味しいが、特に砂糖や蜂蜜をたっぷり使った菓子は絶品だ。
その、本来なら貴重な菓子を無造作にぽいぽいと出していく。
今まで出したことのないブラウンケーキやスィートポテトケーキも大盤振る舞いだ。
「じゃあ、おやすみ~」
境の扉を閉めてソファに座り込む。
「お疲れ様でした。
本当に大丈夫ですか? 主人様」
ナビが待ちかねたように声をかけてきた。
「うん、今夜はもうお風呂に入って寝るよ。
その前にちょっとひと休み……」
ナビはこういう時ほど、自分が実体を持たないことを悔やむ。
主人様がうたた寝しても、ベッドへ運ぶことも出来ない。
ブラックリザードに進化したセトが、どうにか毛布を引き剥がしてきて、これもまた苦労してアンナリーナに掛けてやる。
「アルジ、ダイジョウブカ……」
鮮やかな青色の舌が、アンナリーナの頬を舐めた。
睡魔に負けた、つかの間のうたた寝から覚ましたものは、冷たく滑らかな感触だった。
「アルジ、オキタカ?
コンナトコロデネテシマッタラ、カゼヲヒクト、ナビガイッテイル」
「わあぁ、ごめん!どのくらい寝てた?」
「小半刻くらいですよ。
でも、そろそろ起きないと本当に風邪を引いてしまいます」
ナビの声には若干の怒りがこもっている。
アンナリーナは素直に謝った。
入浴の準備をして、身体を洗うのもそこそこに湯に入る。
お気に入りの、薔薇の香りのバスオイルをたっぷり入れて顎までしっかりと浸かった。
オイルとシリーズのシャンプーで髪を洗い、トリートメントする。
丹念に濯いでまた、湯に浸かる。
浴室全体が薔薇の香りに包まれて、アンナリーナはうっとりとしていた。
「ごめんね、待たせて」
髪も身体も一瞬にして乾かしたアンナリーナは、あとは湯冷めしないようにしっかりと着込むだけだ。
下着の上にネル地のパジャマを着てフリースのガウンを羽織る。
寝室用のスリッパを履いてキッチンにやってきた。
「セト、ごはんが遅れてごめんね」
切り分けたローストビーフと水と桃のコンポート。
セトが食べ始めたのを見て、いつものステータス供与を始める。
「【体力値供与】【魔力値供与】
そして【鑑定】」
セト(ブラックリザード変異種、雄)
体力値 82000
魔力値 9000
「なんか、凄いことになってきたね。
でも、まだまだバージョンアップさせるよ!」
アンナリーナはにっこりと微笑んだ。
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