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第三章

52『ミノタウロスのステーキ、地球産の岩塩と挽きたての黒胡椒で』

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「熊さんと言ったらやっぱり……肉でしょ」

 アンナリーナは【解体】したミノタウロスのブロック肉を取り出し、スライスし始めた。

「セトやイジ、熊さんが食べるんだから、どんどん焼いていくよ!
 アマル、お手伝いお願いね」

 携帯用の魔導コンロも取り出して、アマルがフライパンを並べていく。
 セトやイジは基本、生肉でもOKなのでレアで十分、かえって血の滴るようなものを好む。
 テオドールには顔を見てから焼き方を聞くことにする。

「アマル、フライパンが温まったら牛脂(ミノタウロス脂)を入れて。
 馴染んだら……お肉、行くよ」

 ジュワッと脂の弾ける音がして、湯気が上がる。
 肉汁を閉じ込める為にそこそこの温度で焼き、ひっくり返してまた、焼く。
 焼き方も味付けもこだわらないセトとイジのステーキを次々と焼き上げていった。
 焼き上がりはインベントリにしまい込み、焼きたてのまま、保存する。

「今日は特別な岩塩も用意したからね。アマルも試してみてね」


「ご主人様、頼まれた野菜、採ってきました」

 イジの抱える籠には、ツリーハウスの裏にある庭で栽培されているベビーリーフが入っている。
 そしてスプラウト。
 イジは流しで、清潔な水を使ってリーフを洗い始めた。

「マッシュポテトにはグレイビーソース、パンはいつものロールパン、作り置きのポトフも準備完了。
 後はお肉だね。
 私はハンバーグにしようかな」

『主人、熊が戻って来たがテントに入れていいか?』

『うん、相手をお願い』

 念話でやり取りし、一旦アマルに任せてテントに向かう。
 テオドールはもう、どっかりと座り込んでセトをジロジロ見つめていた。

「熊さん、お肉の焼き方はどうしよう?やっぱり血の滴る感じ?」

「普通でいい」

「おっけー、じゃあもう少し待っててね」

 ダイニングテーブルに、食前酒としてビールを残し、ツリーハウスに駆けもどる。
 その姿を、ジッと目で追っていたテオドールは吐息をついてジョッキを手にする。

 これも常識外れな物品だ。
 ガラスのカップに入った、エールに似た……いや、エールよりもずっと美味いこの酒。
 喉越しは最高、この後は美味い肉が食える……と、うっとりする。

「熊さん、お待たせ!
 まずはこれを食べてて!」

 深皿に入ったポトフ。
 よく煮込まれたカブが美味そうだ。

 そこにふわふわとアマルが漂ってきて、たくさんの触手に持った皿やカトラリーを並べていく。
 続いたのはイジだったが、その姿を見たテオドールは仰天する。

「おまえ、イジ?」

「はい、師匠」

 アンナリーナと変わらないくらいの身長だったはずが、今は成人男性に近いくらいになっている。
 なによりも体色が変わっていて、同じ種族とは思えない。

「ホブゴブリン……?」

「そうよ、レベルアップしたの。
 相談したかったのは彼の事なのよ」

 彼らの横でイジが、さっぱりとした柑橘系のドレッシングでサラダを混ぜている。
 4人分、皿に取り分けてキッチンに戻る。次にやってきたときはマッシュポテトを持っていた。

「はい、熊さんのステーキ。
 美味しい岩塩が手に入ったの。
 胡椒はミルで挽きたてでね」

 まずは一枚。
 アンナリーナに塩胡椒してもらった、厚さ3cmのステーキにナイフを入れる。
 一口分には大きすぎる肉を口にし、思わず唸った。
 蕩けるような柔らかさ。
 溢れる肉汁……絶妙な案配の塩胡椒。

「美味え!!なんだこれ?何の肉だ?」

「ミノタウロスだよ」

 テオドールは顎が外れそうになった。

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