魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第三章

133『虫のいい望み』

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 イジの手を借りて馬車に乗り込もうとするアンナリーナを、サムエルは慌てて引き留めにかかる。

「待ってくれ!
 あんたたちは、もう行ってしまうのか?!」

「ええ、悪いけど」

「そんな!
 こんなところに放り出して……」

 必死に言い募ろうとするサムエルの、話の途中に割って入った。

「まだこれ以上、どうにかしろと?」

 アンナリーナの眼差しが剣呑になる。

「そのひとの治療だけでは不満なのかしら?
 これ以上、一緒にいる必要性はないし、何よりもナタリアと同じ空気を吸いたくないの」

 どちらの気持ちもわかるテオドールは、複雑な思いでその光景をみていた。
 おそらくサムエルは、馬車に同乗してクレヴィットまで連れて行ってもらうか、おそらくは野営を共にしようと思ったのだろう。
 そしてその両方が、今アンナリーナが最も避けたいと思っているはずだ。

 アンナリーナ自身も、自分が少しきつい言い方をしてしまった事に気づいたのだろう。

「あのね、申し訳ないけど私、期日中に王都に帰らなきゃならないの。
 ……もうすでに、かなり予定を押していてね。
 正直なところ、こうしている間も惜しいのよ」

 そう話しながら、ウエストポーチから何かを取り出した。

「学院の新学期が迫っているの」

 学院と聞いて、縛られたままのナタリアの身体がピクリと震える。

「この後もエピたちの足が許す限り飛ばさなきゃ、遅れは取り戻せない。
 だからこれから先は自分たちで何とかしてくれないかしら?」

 常識で考えれば、元々アンナリーナが現れなかった場合と同じはずだ。
 いや、その場合は確実に一人は減っていただろう。ひょっとしたら二人だったかもしれない。
 それなら身軽に動けただろうから、今とは事情が違ったろう。

「この後、野営するのか、移動するのか、どうするのか知らないけど、せっかく助けた人がまた怪我したら気分悪いし、これもあげる」

 イジが受け取り、サムエルに手渡される。

「魔獣避けのお香よ。
 森狼はもちろん、オークや森熊も寄ってこないはずよ。
 丸一日保つのでクレヴィットまで何とかなるんじゃないかな」

 そして今度こそ馬車に乗り込んだアンナリーナの後ろでドアが閉まった。

「済まないな。
 色々あって、ずいぶん日程が遅れてるんだ。
 元々俺の依頼に無理に付き合わせたわけだから、これ以上はな。
 それと、あまりしつこいとポーション代を請求されるぞ」

 この最後の脅しが効いた。
 アンナリーナが今回使ったポーションだけでも3本……このあたりの相場ではポーション代だけで金貨30枚、その他の丸薬などを含めると恐ろしい価格になる。

「じゃあな。
 それとそこの馬鹿女、しっかりと処罰しないとまた犠牲者が出るぞ」

 先に御者台に上がっていたイジに続き、テオドールが席に着く。
 と、同時にエピオルスの轡に繋がる手綱が引かれ、馬車が動き出す。
【山猫】のメンバー達の恨めしそうな眼差しを受けて、アンナリーナ達の馬車は走り出した。



「なあ、あいつら良かったのか?」

 何を、とは聞かない。
 とっぷりと日が暮れた森の中を通る街道沿いの、ほんの少しの空き地に馬車を止め、エピオルスたちは召喚を解除して休ませ、アンナリーナらは結界を張った馬車の中にいる。

「あれ以上の面倒はごめんだよ。
 甘やかすと、どんどん要求がエスカレートしてくるからね」

 アンナリーナはナタリアの事を思い出して顔をしかめた。
 だが、ようやく彼女に対して一矢報いたのだ。
 今夜は良い夢が見れそうで、アンナリーナはかすかに微笑んだ。

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