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第四章
2『王妃』
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王宮に向かう馬車は、後見人であるギィ辺境伯から差し回された。
従者や付き添いの侍女も辺境伯家から派遣され、現地では辺境伯夫人と合流することになる。
「リーナ様、とてもお似合いです!」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで、アラーニェがフリルのひとつひとつ、すべてのレースの向きをチェックしていた。
この日の為にアラーニェが丹精込めて仕上げたのは、春らしいミントグリーンの、レースとフリルをふんだんに使った、ロココ前期のデザインのアフタヌーンドレスだ。
共布のヘッドドレスと手袋、同色のサテンの靴。
アラーニェのアラクネ絹に【異世界買物】で購入した、最高品質の総レースを合成染料で染めた、この世界では再現出来ない色合いだ。
「うふふ、ありがとう。
アラーニェにはこの調子で、どんどんドレスを仕立てて欲しいわ」
「リーナ様! 感激です。
私ほどの果報者は他におりませんわ」
目尻に涙を滲ませた絶世の美女は、それでも忘れずに、傍の桐の箱を持ち上げた。
「さあ、そろそろ刻限ですわ。
玄関の馬車留に参りましょう」
王宮に来るのはこれで2回目だが、前回は陽が暮れてからだったので、その景色を見るのは初めてだった。
いわゆる白亜の城……ではないが、荘厳な雰囲気を感じさせる巨大な宮だった。
「リーナ様、どうぞ」
辺境伯家の従者の手を借りて馬車から降りる。
それに続く付き添い人は、緊張しながら桐箱を抱えていた。
「本日はお出でいただき、ありがとうございます。
王妃様が、大変お喜びでございます……」
今回の招待を受けるにあたって、アンナリーナはギィ辺境伯から現在の後宮の力関係についてのレクチャーを受けていた。
現国王には、隣国の王女で政略結婚した王妃の他に愛妾が3人いる。
このうち2人は国内の高位貴族の令嬢で、完全な政略として入内している。
問題はもう一人だ。
その愛妾は、国王が王立アカデミーにいた時に見初め、周囲の反対を押し切って愛妾にした元平民の娘である。
今現在、国王と王妃は完全に仮面夫婦で、国王はこの平民出身の愛妾にぞっこんだそうだ。
ちなみに王妃は今年で12才……嫁いできたのは僅か5才の時だったという。
『そりゃあ、5才の子供に興味は湧かないだろうけど……放置はマズいわよね』
名ばかりの王妃は辛いことも多いだろう。
だが、国内の有力貴族の令嬢である愛妾たちが、なにかれと面倒を見ていたのでそれなりの面目は果たせていたようだ。
アンナリーナは、年若い王妃の心を慰める為に色々な土産を用意していた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
後宮の、王妃の為の区域にあるサンルーム。
アンナリーナはここで王妃の登場を待っていた。
「ようこそいらして下さったわ。
本当にお待ちしていましたのよ」
アンナリーナが最上級のカーテシーで出迎えたのは、彼女より少しだけ背の高い美少女だった。
「陛下にお願いして、一番に招待に応じていただけるようにがんばったの。
もちろんお姉様方のご助力もあったのよ」
お姉様方、というのは例の高位貴族家出身の愛妾たちの事のようだ。
アンナリーナは知らずにして、権力闘争に巻き込まれていたらしい。
アンナリーナの、王宮でのお茶会デビューはどうしても王妃の主催の会ではならず、それは王妃自身の立場を公に表すものであるのだ。
未だ、少女らしさを拭えない王妃はアンナリーナの手を取ってサンルームから出ようとする。
「王妃様、お待ち下さい」
側に控えていた女官長が呼び止めた。
そして、侍女とアンナリーナの付き添い人の間で儀式めいた、土産である品の贈呈がなされる。
「王妃様、錬金薬師殿からの贈り物でございますよ」
開けて見なくて良いのですか?
気になりませんか?
と、声が聞こえてきそうなひととき、王妃はぎりぎり無作法にならない程度の裾さばきで箱を持つ侍女の元にやって来た。
「お気に召して頂ければ良いのですが」
厳かに開かれた箱の中には、アラクネ絹と総レース地が入っていた。
従者や付き添いの侍女も辺境伯家から派遣され、現地では辺境伯夫人と合流することになる。
「リーナ様、とてもお似合いです!」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで、アラーニェがフリルのひとつひとつ、すべてのレースの向きをチェックしていた。
この日の為にアラーニェが丹精込めて仕上げたのは、春らしいミントグリーンの、レースとフリルをふんだんに使った、ロココ前期のデザインのアフタヌーンドレスだ。
共布のヘッドドレスと手袋、同色のサテンの靴。
アラーニェのアラクネ絹に【異世界買物】で購入した、最高品質の総レースを合成染料で染めた、この世界では再現出来ない色合いだ。
「うふふ、ありがとう。
アラーニェにはこの調子で、どんどんドレスを仕立てて欲しいわ」
「リーナ様! 感激です。
私ほどの果報者は他におりませんわ」
目尻に涙を滲ませた絶世の美女は、それでも忘れずに、傍の桐の箱を持ち上げた。
「さあ、そろそろ刻限ですわ。
玄関の馬車留に参りましょう」
王宮に来るのはこれで2回目だが、前回は陽が暮れてからだったので、その景色を見るのは初めてだった。
いわゆる白亜の城……ではないが、荘厳な雰囲気を感じさせる巨大な宮だった。
「リーナ様、どうぞ」
辺境伯家の従者の手を借りて馬車から降りる。
それに続く付き添い人は、緊張しながら桐箱を抱えていた。
「本日はお出でいただき、ありがとうございます。
王妃様が、大変お喜びでございます……」
今回の招待を受けるにあたって、アンナリーナはギィ辺境伯から現在の後宮の力関係についてのレクチャーを受けていた。
現国王には、隣国の王女で政略結婚した王妃の他に愛妾が3人いる。
このうち2人は国内の高位貴族の令嬢で、完全な政略として入内している。
問題はもう一人だ。
その愛妾は、国王が王立アカデミーにいた時に見初め、周囲の反対を押し切って愛妾にした元平民の娘である。
今現在、国王と王妃は完全に仮面夫婦で、国王はこの平民出身の愛妾にぞっこんだそうだ。
ちなみに王妃は今年で12才……嫁いできたのは僅か5才の時だったという。
『そりゃあ、5才の子供に興味は湧かないだろうけど……放置はマズいわよね』
名ばかりの王妃は辛いことも多いだろう。
だが、国内の有力貴族の令嬢である愛妾たちが、なにかれと面倒を見ていたのでそれなりの面目は果たせていたようだ。
アンナリーナは、年若い王妃の心を慰める為に色々な土産を用意していた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
後宮の、王妃の為の区域にあるサンルーム。
アンナリーナはここで王妃の登場を待っていた。
「ようこそいらして下さったわ。
本当にお待ちしていましたのよ」
アンナリーナが最上級のカーテシーで出迎えたのは、彼女より少しだけ背の高い美少女だった。
「陛下にお願いして、一番に招待に応じていただけるようにがんばったの。
もちろんお姉様方のご助力もあったのよ」
お姉様方、というのは例の高位貴族家出身の愛妾たちの事のようだ。
アンナリーナは知らずにして、権力闘争に巻き込まれていたらしい。
アンナリーナの、王宮でのお茶会デビューはどうしても王妃の主催の会ではならず、それは王妃自身の立場を公に表すものであるのだ。
未だ、少女らしさを拭えない王妃はアンナリーナの手を取ってサンルームから出ようとする。
「王妃様、お待ち下さい」
側に控えていた女官長が呼び止めた。
そして、侍女とアンナリーナの付き添い人の間で儀式めいた、土産である品の贈呈がなされる。
「王妃様、錬金薬師殿からの贈り物でございますよ」
開けて見なくて良いのですか?
気になりませんか?
と、声が聞こえてきそうなひととき、王妃はぎりぎり無作法にならない程度の裾さばきで箱を持つ侍女の元にやって来た。
「お気に召して頂ければ良いのですが」
厳かに開かれた箱の中には、アラクネ絹と総レース地が入っていた。
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