271 / 577
第四章
31『従魔見参』
しおりを挟む
その日、王都の中央門では張り詰めた空気が流れていた。
予め待機していたギルド職員と依頼されたA級冒険者が見守る中、エピオルスに引かれた大型馬車の番がやって来た。
門の警備を担当している警備隊の隊長が扉を叩く。
すると、すぐにドアが開いてアンナリーナが顔を出した。
御者台にいたテオドールも降りてきて、アンナリーナが馬車から降りるのに手を貸してやる。
「この度は皆様にお手数おかけします」
アンナリーナは、略式のカーテシーだが深く頭を下げて、謝意を表した。
「リーナ殿、ではこの門を通るための確認をさせていただく」
警備隊の隊長自らが先頭に立ち、アンナリーナの後ろの、馬車のドアを見つめる。
「セト、イジ、出てきて」
ミシリと馬車が軋み、頭を屈めた巨体が姿を現した。
「おお!」
門番の兵士が思わず声をあげる。
さもありなん、今馬車から降りてきたのは、漆黒のドラゴニュート、竜人だ。
王都でもたまに見かける竜人だが、格が違う。体長は2メートル半はあるだろう、黒光りする身体に金色の角、僅かに青みがかった瞳がアンナリーナを見下ろしている。
「主人、言われた通り……得物も防具も外してきた」
だがその気になれば、その爪だけで人間など簡単に引き裂いてしまうだろう。
「うん、あのね、皆が王都に入るにあたって、確認したかったんだって」
「それはしょうがないでしょうな」
そう言って降りてきたイジを見て、先ほどとは違ったどよめきが起きた。
そこにはまごうことなくオーガが、濃いグレーの肌色をしたグレーオーガが佇んでいた。
筋骨隆々とした体躯に赤い瞳。
黒髪をオールバックにして首の後ろで結わえている。
そしてふたりとも額には従魔印が刻まれていた。
「隊長さん、ドラゴニュートがセト、グレーオーガがイジと言って私の従魔です。
今回はギルドで冒険者登録するためにこうして王都に連れてきました」
「確かに報告を受けています。
ようこそリーナ殿。
そしてテオドール殿、セト殿、イジ殿」
ギルド職員……実は、王都の副ギルドマスターである。
ハンネケイナのギルドマスターから連絡を受け、事前にテオドールからも話を聞いて、今日の日を迎えた。
ギルドとして強力な冒険者は、大いに歓迎だが竜人はともかくオーガは初めてなので戦々恐々としていたのだ。
だが、会ってみれば人間と同じどころか冒険者ではあまり見ないほど、柔らかな物腰。
正直意外すぎた。
「では、ギルドに向かいましょうか。
一応、ふたりには簡単な試験を受けてもらって、それから登録してもらう」
本来、登録には試験は伴わないが、ふたりの学力……所謂読み書きができるか確認したかったのだろう。
そしてふたりともアンナリーナの従魔なのだ。読み書きも四則演算も完璧にこなす。
「はい、それで問題ありません。
……熊さん、馬車を収納するよ。
エピオルスを外してやってくれる?」
門を入ったところの広場の隅に馬車を止め、まず馬具を外したエピオルスの召喚を解く。
それからアイテムバッグに入れると見せかけて馬車をを収納した。
その様子を見ていたものたちは皆、目を丸くしている。
「リーナ殿?」
長い間、冒険者と接してきた副ギルドマスターでも見たこともない収納力のアイテムバッグに、皆興味津々だ。
「? 薬師のアイテムバッグを見るのは初めてですか?」
「いや、そうでもないが」
「私のアイテムバッグは容量が多いのですよ。もちろん、まだまだ入ります」
にこやかに笑ってギルドに入って行くアンナリーナと従魔たち。
この後、試験と登録が行われ、テオドールが本拠地をこちらに移すこと、そしてアンナリーナのポーションの販売が決まり、双方に有益な一日だった。
予め待機していたギルド職員と依頼されたA級冒険者が見守る中、エピオルスに引かれた大型馬車の番がやって来た。
門の警備を担当している警備隊の隊長が扉を叩く。
すると、すぐにドアが開いてアンナリーナが顔を出した。
御者台にいたテオドールも降りてきて、アンナリーナが馬車から降りるのに手を貸してやる。
「この度は皆様にお手数おかけします」
アンナリーナは、略式のカーテシーだが深く頭を下げて、謝意を表した。
「リーナ殿、ではこの門を通るための確認をさせていただく」
警備隊の隊長自らが先頭に立ち、アンナリーナの後ろの、馬車のドアを見つめる。
「セト、イジ、出てきて」
ミシリと馬車が軋み、頭を屈めた巨体が姿を現した。
「おお!」
門番の兵士が思わず声をあげる。
さもありなん、今馬車から降りてきたのは、漆黒のドラゴニュート、竜人だ。
王都でもたまに見かける竜人だが、格が違う。体長は2メートル半はあるだろう、黒光りする身体に金色の角、僅かに青みがかった瞳がアンナリーナを見下ろしている。
「主人、言われた通り……得物も防具も外してきた」
だがその気になれば、その爪だけで人間など簡単に引き裂いてしまうだろう。
「うん、あのね、皆が王都に入るにあたって、確認したかったんだって」
「それはしょうがないでしょうな」
そう言って降りてきたイジを見て、先ほどとは違ったどよめきが起きた。
そこにはまごうことなくオーガが、濃いグレーの肌色をしたグレーオーガが佇んでいた。
筋骨隆々とした体躯に赤い瞳。
黒髪をオールバックにして首の後ろで結わえている。
そしてふたりとも額には従魔印が刻まれていた。
「隊長さん、ドラゴニュートがセト、グレーオーガがイジと言って私の従魔です。
今回はギルドで冒険者登録するためにこうして王都に連れてきました」
「確かに報告を受けています。
ようこそリーナ殿。
そしてテオドール殿、セト殿、イジ殿」
ギルド職員……実は、王都の副ギルドマスターである。
ハンネケイナのギルドマスターから連絡を受け、事前にテオドールからも話を聞いて、今日の日を迎えた。
ギルドとして強力な冒険者は、大いに歓迎だが竜人はともかくオーガは初めてなので戦々恐々としていたのだ。
だが、会ってみれば人間と同じどころか冒険者ではあまり見ないほど、柔らかな物腰。
正直意外すぎた。
「では、ギルドに向かいましょうか。
一応、ふたりには簡単な試験を受けてもらって、それから登録してもらう」
本来、登録には試験は伴わないが、ふたりの学力……所謂読み書きができるか確認したかったのだろう。
そしてふたりともアンナリーナの従魔なのだ。読み書きも四則演算も完璧にこなす。
「はい、それで問題ありません。
……熊さん、馬車を収納するよ。
エピオルスを外してやってくれる?」
門を入ったところの広場の隅に馬車を止め、まず馬具を外したエピオルスの召喚を解く。
それからアイテムバッグに入れると見せかけて馬車をを収納した。
その様子を見ていたものたちは皆、目を丸くしている。
「リーナ殿?」
長い間、冒険者と接してきた副ギルドマスターでも見たこともない収納力のアイテムバッグに、皆興味津々だ。
「? 薬師のアイテムバッグを見るのは初めてですか?」
「いや、そうでもないが」
「私のアイテムバッグは容量が多いのですよ。もちろん、まだまだ入ります」
にこやかに笑ってギルドに入って行くアンナリーナと従魔たち。
この後、試験と登録が行われ、テオドールが本拠地をこちらに移すこと、そしてアンナリーナのポーションの販売が決まり、双方に有益な一日だった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
605
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる