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第四章

279『完全体のドラゴン』

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 上位鑑定士である支配人、マルグドが動いた。
 ステージいっぱいに広がる水竜の全身を、その周りをぐるりと回って状態を確かめている。
 懐から出した白い手袋をはめて、鱗の様子や突き出した頭の状態を見て、感嘆の声を上げた。

「素晴らしい!!
 これほど良い状態のものは初めて見ました。
 討伐時の傷は腹ですか?」

 彼は蹲った状態の、今は見ることの出来ない腹部に傷があると思ったようだ。

「いいえ、傷はありません。
 窒息させて屠ったんです」

「なんと!!」

 絶句したマルグトの代わりに、オーナーのエッケハルトが感激の声を上げた。
 この大陸の長い歴史の中、水竜がその部分素材ではなく、丸ごとそのまま出品されるのは恐らく初めてだろう。
 そしてそれは傷ひとつない完全体だ。

「これは……この競りは伝説になる。
 後の世まで語り継がれる、特別なオークションになるだろう」

 娘のように頬を上気させたエッケハルトは興奮を隠せない。
 彼はこの出会いを神に感謝した。


「どうですか?高く売れそう?」

 一方アンナリーナは呑気なものだ。

「リーナ様、高く売れる云々の問題ではありませんよ。
 これは奇跡です。
 これほどの出物は古今東西、そしてこれからも、二度とないでしょう!」

 興奮するエッケハルトには悪いが、こんなものならいくらでもある。
 だが、彼らに悪いのでこの大陸では他に売らないようにしようと思う。

「リーナ様、これほどの商品をただ単に、普通に競りにかけるのはもったいないと思います。
 失礼ですが、お急ぎですか?」

「いいえ、私はしばらくここの魔導学院に通う事になっていますし、いつでも良いですよ」

「では、各方面に告知して、特別内覧会も開きたいと思いますが、如何でしょう」

 エッケハルトの頭には色々なアイデアが湧き上がってきている。
 恐らく驚愕の競り値がつくだろう、この水竜に魂まで虜になってしまった。

「あの……
 その手のことは一切わかりませんので、すべてお任せします」

 それから色々細かい打ち合わせが行われ、まずは内覧会までアンナリーナがドラゴンを預かる事になった。
 そしてオークションに出品するのは早くても3ヶ月後、ひょっとすると半年以上先になるかもしれないとの事。
 エッケハルトは【ウェンライト】の名にかけて、最高のオークションにしようと誓っていた。


 この日、早速仕立てられた早便……これは騎鳥であるビッグホークなどに配達人が乗り宛先に届けるものであるが、今回はこの大ニュースを特別な顧客に知らせるものだ。
 まずは一報。
『水竜の完全体。傷無し。
 内覧会ののち、オークションが開かれます』

 簡素な文面ながら、受け取ったもののインパクトと言えば……
 ただ、途方も無い金額になるのは間違いない。
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