23 / 58
マリア視点 ※胸くそ描写あり
しおりを挟むあの忌々しい女め! どれだけ私の邪魔をすれば気が済むんだ!!
「ヒギィィ、お許しくだい。マリア姫様……」
目の前で絶叫している小太りの男を見下ろし、マリアは踏みつける足にさらに力を込める。
絶頂し、床に転がった男の名は、マレイユ伯爵。マリアのパトロンだ。
成人すると同時に、父に連れられこの伯爵家に来た時のことを今でも覚えている。
カシュトル男爵家の娘として生を受けたマリアだったが、他の貧しい男爵家と違いカシュトル男爵家はとても裕福だった。
ピンクブロンドの髪に、空色の瞳を持つ美少女マリア。
誰もが、マリアの気をひくために争い、かしづいた。欲しいものがあれば、人だろうと物だろうと手に入れられないモノはない。
気に入らなければ、ささっと切り捨てる。まさしくお姫様のような生活に、誰もがマリアを姫さまと呼んだ。
成長するにつれ、さらに美貌に磨きがかかり、幼い顔立ちの中に妖艶な魅力を秘めた美女へと成長したマリアに、両親は過度な期待をするようになった。
毎日『お前は王族の花嫁になるのだ』と言われ、その言葉をマリアは当然だと思い受け入れた。
しかし、男爵令嬢が王族と懇意にすることなどほぼ不可能だ。
そんな中、発表されたウィリアム王子の婚約者候補選びの書簡に、カシュトル男爵は金にものを言わせ、マリアをねじ込むことに成功した。
この美貌があれば、どんな高位の令嬢にだって負けない自信はあった。そして、高級娼婦だった母直伝の手管を使えば落とせない男などいない。
性の右も左もわからないお子さまな貴族令嬢になど負けるわけないと思っていた。
あの忌々しいエリザベスに会うまでは。
美しい銀髪に藍色の瞳の美貌の女。
あの女が、通るだけで感嘆の声が上がり、誰もが道を譲る。それだけではない、あの女の一挙手一投足に誰もが注目し、気を引くために我先にと群がる。
いつ何時も輪の中心にいるのは、あの女だった。
公爵令嬢という地位も美貌も名声も何でも持っていたエリザベス。
(あの女のせいで私の世界は変わってしまったのよ!)
「ねぇ、マレイユ伯爵。私は、お姫さまよね? 誰もがかしづくお姫さまよね?」
「ひっ……いぃ、マリア姫さま。お許しを……」
下僕であるマレイユ伯爵の股間を靴で踏みつけ、妖艶に微笑んでやる。
「ヒギィィ!! 出るぅぅ……」
「伯爵様、誰が出していいと言いましたの? 豚の分際で私の靴を汚すなんてどう言うことかしら。舐めなさい!!」
「申し訳ありません、マリア姫さま……」
変態伯爵がマリアの足を取り、自身の白濁が飛んだ靴を丹念に舐めるのを見下ろし、怒りが湧き上がる。
あぁぁ!! 忌々しい!!!!
エリザベスさえいなければ、こんな変態貴族の相手をしなくても済んだのよ。
あの女がウィリアム王子の婚約者に決まってからの日々は地獄だった。
マリアに過度な期待をしていた両親の態度は一変し、よりカシュトル男爵家に利のある相手との結婚を進めようと躍起になった。
そんな中あがった縁談話、妻に先立たれ独り身となったマレイユ伯爵との婚約話だった。
必死に抵抗した。
ただ、ウィリアム王子との婚約が断たれ、高位貴族とのつながりを是が非にも持ちたかった両親はマリアの美貌に目をつけたマレイユ伯爵と結託した。
そして、あの夜は訪れた。
父に連れられマレイユ伯爵邸へと来たマリアに待っていた過酷な運命。
父と引き離され、メイドによって夜着へと着替えさせられた時の絶望感は今でも忘れられない。
このまま、禿げ頭の小太りな初老の男に純血を散らされるかと思うと、自分の運命を呪いたくもなった。
ベッドへと連れていかれ、絶望感に放心状態となったマリアに悪魔がささやいた。
お姫さまだったマリアの場所を奪ったエリザベス。ウィリアム王子の婚約者の立場もマリアから奪ったものだ。あの場所は、マリアのものだったのだ。
このままエリザベスに負けたままで良いのかと……
あの日を境にマリアの人生は大きく変わった。
下僕と化したマレイユ伯爵の人脈を使い、社交界でのさばる令嬢どもを蹴散らし、やっとウィリアム王子の婚約者の座までのぼりつめたのだ。
そして、ウィリアム王子を唆し、エリザベスを社交界から追放する直前までこぎ着けたと言うのに……
不死鳥のごとく舞い戻ったエリザベスを思い出し腹わたが煮え繰り返る。
薄幸面しやがって! ウィリアム王子の気をひこうっていうの!
しかも、シュバイン公爵家のハインツ様と婚約したですって!!
許せない……許せない……
あの女、滅茶苦茶にしてやる!!!!
足を舐めていた変態公爵の横っ面を蹴り倒し、豪奢な椅子から立ち上がると、不恰好な状態で転がる伯爵を見下ろし、最上の言葉をかけてやる。
「脱ぎなさい。縛ってあげるわ」
「ひぃぃぃん、マリア姫さま、仰せのままに……」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「父上の調教はもういいのか?」
部屋を出たマリアに、伯爵の息子レオナルドが声をかけてきた。
この男との付き合いも、かれこれ数年になる。
父親とは違い、変態趣味はないが、被虐趣味を持つ危ない男ではある。まぁ、同類である限り、マリアに害はないのだが。
「えぇ、縛って転がして来たから、今頃昇天しているんじゃないかしら」
「えげつないねぇ」
「よく言うわよ。貴方だって、同類でしょうが」
「くくく、まぁそうだな。それで、マリアはあんなんで満足か? 相手してやるよ」
肩を抱き歩き出そうとするレオナルドに言ってやる。
「私は未来の王子妃よ。気安く触らないで」
「よく言うわ。その地位も危ういって聞いたぜ」
「はぁぁ!? 誰がそんなことを」
「また、エリザベス嬢がしゃしゃり出てきたようじゃねぇか。ウィリアム王子もまんざらでもなかったって聞くぜ。薄幸女性にしか興味がねぇ、あの変態。今のエリザベスに欲情したんじゃねぇの」
「何が言いたいのよ、レオナルド?」
「だから、このまま何もしないでいいのかって話だよ」
「策でもあるって言うの?」
「あぁ。俺の手にかかればエリザベス嬢なんて、簡単に排除出来る」
黒い噂の絶えないマレイユ伯爵家を牛耳っているのは、レオナルドだ。あの変態伯爵ではない。奴はあくまでも対外的であって、裏の稼業を隠す隠れ蓑でしかない。
人身売買に、薬物売買、違法賭博に、奴隷や密輸品の輸出入。ありとあらゆる違法稼業に手を染めている。それを牛耳る裏組織のトップであるレオナルドなら、あの女をどうにかできるかもしれない。
「本当にエリザベスを排除できるのね?」
「くくく、出来るさ。ただし、条件がある」
「何よ……」
「マリア、わかっているだろう?」
一度は振り払った手が再び肩にかけられる。
レオナルドが言わんとしていることはわかっている。
「言っておくけど、ウィリアム王子と結婚するには純潔でないとダメなの。それくらい知っているわよね?」
「あぁ、もちろん。ただ、いくらでもやりようはある」
「わかったわ。好きにしなさい……」
ニッと笑ったレオナルドの顔を見て、大きなため息をつくフリをする。
楽しい夜になりそう……
あの女も、もう終わりね。滅茶苦茶にされて、隣国に売り飛ばされればいいわ。
黒い噂の絶えない伯爵家が動き出そうとしていた。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる