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あふれ出す想い① ※
しおりを挟む重ねた唇のわずかな隙間をぬい、含みきれなかった唾液がエリザベスの顎を伝い落ちていく。
自らの意志で始めたキスは、いつしかハインツに主導権を握られ翻弄されていた。
「ふぅ……はぁ…うぅん……」
歯列の裏をなぞられ、舌を絡めとられ、吸われれば、エリザベスの奥底が疼きだす。
(はぁぁ……、気持ちいい…………)
「本当にエリザベスはキスが好きなのですね」
「へっ……?」
チュッと唇を吸われ離れていくハインツの唇をボーッと見つめていたエリザベスには、ハインツの言っている言葉の意味が理解できない。
「……キス……好き?」
「そうです。ほらっ、今も名ごり惜しそうに私を見ている。もっと続けて欲しかったの?」
ハインツの指がエリザベスの唇をゆっくりとなぞる。固くて、少しザラザラとした指先。その感触にエリザベスの心がキュッと切なく痛んだ。
(私を守る……、ハインツ様の手……)
騎士ではないハインツが剣の鍛錬をする必要は全くない。しかし、彼は日々の剣の鍛錬を欠かしたことはないと言った。エリザベスを己の手で守りたかったと、ハインツは言った。
その言葉の全てが嘘偽りがないことを、この手が証明している。
固くゴツゴツしたハインツの手、その手がたまらなく愛しい。
「私を、守る……手……」
ハインツの手を両手でつかみ、唇をなぞる指先を食めば、エリザベスの行動に驚いたのかハインツの手が震えた。
逃げようとわずかに引かれた手を、逃がしまいとキュッと強くつかむ。そして、痛んだ手を癒すように、ゆっくりとハインツの指先に舌を這わせた。
「参ったな……、ほんと、エリザベスは男を煽るのがうまい」
「おとこを、あおる?」
「そう……、エリザベスは、それを無意識にやっているのでしょうね。だから、たまらなくなる」
「ひゃっ!?」
視界が急に変わり、見上げた先にハインツの顔が迫るのを認め、ブランケットの上へと押し倒されたことを知った。
クチュッと響いた音に、再び唇を塞がれたことを理解したエリザベスだったが、すぐに開始された口淫に脳内はあっという間に靄へと包まれていく。
エリザベスが仕掛けた可愛らしいキスとは違い、呼吸まで奪うかのように繰り返される獰猛な口淫に、ハインツの本気を感じとる。
「はぁぁ……ふぅ…、んぅ……」
繰り出される口淫の合間に、なんとか息継ぎをするエリザベスの口からはくぐもった声と共に、艶めいた声も上がる。
クチュ、ピチャッと鳴る淫雛な音にも耳を冒され、エリザベスの脳が酩酊していった。
「陽光の下見るエリザベスが、こんなに美しかったなんて……」
ボソっとつぶやかれたハインツの声に、靄のかかっていた脳にわずかな理性が戻る。見上げた先のハインツの視線をたどり、自身の身体を見下ろしエリザベスはやっと気づいた。
(うそっ!? 胸……)
デイドレスからまろび出ている胸を認め、とっさに手で隠す。
(……恥ずかしい)
急速に理解した自分の状況に、エリザベスの頬に朱が走った。
陽光の下、あられもない格好でハインツに組み敷かれているという状況が、さらにエリザベスを追い込む。
とっさに身体をひねり、胸をあらわにしたあられもない格好を隠そうとするが、瞬時に動いたハインツの手に、手をつかまれ頭上へと固定されてしまった。
(これでは、胸を隠すことも出来ない)
朱が走った頬は、ますます赤みを増し、エリザベスの脳は沸騰寸前だ。
「お、おやめ……、ください。ハインツ様……」
「どうして? 誘ったのは、エリザベスだ」
「いえ、その……、それは……」
「私に奪って欲しいと言った言葉はウソだったのですか?」
口ごもるエリザベスに追い討ちをかけるように紡がれるハインツの言葉と共に、悲しそうに細められた目にエリザベスの胸が甘く痛む。
(そんな悲しそうな顔しないで……)
仄暗さを秘めたハインツの瞳が悲しみに濡れる一瞬を見たエリザベスは、もう何も言えなくなってしまった。
ハインツに奪ってほしいと言った言葉は嘘ではない。ただ、陽光の下さらされた己の淫な姿があまりに恥ずかしくて、消えてなくなりたくなるのだ。
「こんな、格好……、恥ずかしいの……」
消え入りそうな声でやっと紡いだ言葉が、ハインツの唇に奪われる。
銀色の糸をひき離れていく唇。わずかな交わりにさえ、高鳴る鼓動はエリザベスの意志とは関係なく激しくなっていった。
「そんなこと、すぐに気にならなくなるのに」
「ひゃぁぁぁ……あぁぁぁ……」
ハインツの言葉を合図に開始された愛撫に、エリザベスの口から甲高い叫声が放たれる。
首筋を伝い、降りていくハインツの舌と唇にエリザベスの肌がゾワゾワと総毛立ち、えも言われぬ快感を生み出していく。
鎖骨を這い、胸の谷間にハインツの唇が到達した時、突如襲った痛みに、エリザベスは短い悲鳴をあげた。
「綺麗についた」
「えっ?」
「ほら、ここ。真っ赤な花びらが咲いたでしょ」
トントンと胸の谷間を指先で軽く叩かれ、下を向けば胸の谷間に赤く色づいたうっ血痕が見える。
(あの痛みは、これだったのね)
「これでエリザベスは私のもの。もう逃げられない」
そんな事をぼんやりと考えていたエリザベスに落とされたハインツの言葉。
その言葉を聞いたエリザベスの身体の奥深く、誰にも暴かれたことのない部分が甘く疼き、蜜を垂らした。
(わたし……、どうしちゃったの?)
下着を濡らしていく感覚ですら気持ちよくて、エリザベスは虚な瞳でハインツを見つめることしか出来なくなっていた。
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