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青い死痕 ②
しおりを挟む「全ての遺体に、『青の死痕』が出ていますわ」
三体の遺体を前に、検死を終えたレベッカは丁寧に布をかぶせ、頭を下げる。
目の前に横たわる女性の遺体は、記憶に残るモノよりも格段に綺麗で、パッと見ただけでは眠っているようにしか見えなかった。しかし、数日も経てば状況は一変するだろう。
覚悟を決めて相対したレベッカは、ホッと胸を撫でおろす。
「青い花咲く遺体か……、本当に精果草による中毒死なんだな」
壁に背をつけ、レベッカの検死を何も言わず見ていたエリアスが感慨深気につぶやく。
「あら? 確信を持っていたのではありませんの?」
「いいや、文献では知っていたが実物を見たのは初めてさ。遺体が三体、同時に運び込まれなければ、その死痕が精果草の中毒だとは気づかなかった。レベッカは、その死痕を見たことが?」
「はい、昔に……。その遺体の死因は、精果草による中毒で間違いありませんわ」
「やはり、そうか……」
そう言ったきり、顎に手をあて何かを考えこむエリアスを見つめ、レベッカもまた緊張をほぐすように息を吐き出した。
エリアスがここへ連れて来た真の目的は、安置されていた遺体が精果草による中毒死だと確信を得るため。レベッカはまんまとエリアスの思惑にのせられてしまったのだろう。
セインとの婚約破棄方法に関しても、レベッカを釣る餌に過ぎなかったと言うことだ。
なんとも釈然としないが、致し方ない。騙された自分が悪いのだから。
「エリアス様、目的は果たされましたか? では、わたくしはこれにて失礼致しますわ」
ドレスをつまみ、カーテシーをとり頭を下げる。そして、退室するため踵を返した瞬間、手をつかまれた。
「まだ、話は終わっていないよ。婚約破棄の方法を教えると言ったじゃないか」
「ふふふ、婚約破棄は、わたくしを釣る餌でございましょう? 目的が果たされた今、わたくしの役目は終わりましたわ。欲の代償に関しては、わたくしの『脚』でなくとも良いはずです。他をあたってくださいませ」
つかまれた手を振り払い、レベッカは扉へと向かう。しかし、扉が開くことはなかった。
扉を手で押さえたエリアスに、背後から胸へと抱きこまれたレベッカは、耳元で囁かれた言葉に身を震わす。
「レベッカ、逃げなくてもいいじゃないか。言ったよね? 君の脚じゃないと、俺の欲は満足出来ないって」
背後から腰を抱かれ、もう片方の手がレベッカのスカートをたくし上げる。徐々に顕になる自分の脚を見下ろし、レベッカの喉がゴクリと鳴った。
エリアスに請われるまま、脚を差し出すのは己の矜持に反する。
レベッカは、エリアスの死角を使い扇子を取ると、仕掛けボタンを押しながら、覆い被さるエリアス目掛け突き刺した。
「おぉっ、と。そんな凶器を仕込んでいたなんて、想定外だ」
「あら? そうですか? 淑女の嗜みですわ」
凶器と化した扇子をバサっと開き、仰ぐ。
「あぁ、俺の負けだ。レベッカ嬢、建設的な話し合いをしようじゃないか」
「ふふふ、ご冗談を。何の話があると言うのです。わたくしには、ありませんわ」
「本当にそうかな? この三体の遺体は、娼婦、貧民街にある教会のシスター、そして物乞いと、平民女性という以外の共通項はない。あとは、居なくなっても誰も気に留めない者たちとも言える。そして、ここ数ヶ月を遡って調べたところ、青い死痕がある遺体はこの三体だけではなかった」
レベッカの頭に嫌な予感がよぎる。
「平民では手に入れることが出来ない精果草で死んだ平民女性が何人もいる。それも、ここ数ヶ月の間に。いったい何が起こっているんだろうね」
扉に背をつけ震えるレベッカとエリアスの視線が至近距離で交わる。
最悪な事態が脳裏をよぎり、胸が苦しくなった。
「平民女性に精果草を飲ませ、中毒にしている者がいる。そして、その犯人は貴族の可能性が高い」
「正解。精果草の闇取引が、どこかで行われている可能性が高い」
「その容疑者に、シャロン男爵家があがっている。違いますか?」
だから、エリアスはレベッカに近づいた。
急速に湧き上がった怒りに握りしめた拳が震える。しかし、次に続いたエリアスの言葉はレベッカの想像するものとは違っていた。
「――――、それは違う。いくら俺でも、精果草中毒撲滅に命を捧げた前シャロン男爵の子孫が、彼の意思を踏みにじるような行為をしたとは考えていないよ。疑っている貴族は別にいる」
「それは、誰ですの?」
「それはね――、君の義理の父になるかもしれない相手、ニールズ伯爵だよ」
「えっ……、うそ、よね」
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