転生したら女性向け恋愛小説の中でした。〜前世はオタク、恋愛経験ゼロ男のシンデレラストーリー〜

胡桃

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本編

07

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 道端で倒れた人は、その後すぐに意識を取り戻した。
 しかし、様子を伺いにきた巡回兵の制止を振り切り、そのままどこかへ行こうとしたため、巡回兵に取り押さえられてしまったようだ。

「離せ……離してくれ、私は行かねばならんのだ……」

 酷く掠れた男性の声で譫言うわごとのように弱々しく繰り返される言葉に、何やら切羽詰まったものを感じ、どういう人なのか気になった僕は、そっと窓の外を覗いた。

「エリオット様、いけません」

 その行動はキースに嗜められたが、興味の方が勝っているので無視する。
 巡回兵に羽交い締めにされている男性は、薄汚れたローブのようなものをまとい、目深にフードを被っている所為で顔はよく見えない。
 しかし、体格の良い巡回兵と並んでも見劣りしないくらいに背が高いことはわかった。

 (彼は浮浪者? でも、余程の理由がない限り、貴族街に貧民が入ることは許されないはずだよね……)

 王都の警備体制は整っており、中心街までは比較的誰でも自由に出入りできるが、王城を包囲する配置になっている貴族街への出入りは制限されている。
 申請を出し、許可が下りた場合は立ち入ることができるが、その場合、監視兼案内役の兵が付き添う決まりになっていた。
 なので、平民はおろか貧民街に住んでいるような浮浪者と思しき彼が、こんな貴族街の中心部を一人で歩いているはずがない。

「兵を伴わずに貴族街を歩くことは許されない。何故貴様一人なのか、詳しく聞かせてもらう故、我々と共に来てもらうぞ」

 巡回兵はローブの男を嗜め、引きずるように道の端へ移動していく。

「マールグリット伯爵家子息様、お時間を取らせてしまい、申し訳ございません。この者への処遇は我々にお任せください」

 巡回兵の一人がそう言って敬礼する。

「……マールグリット伯爵家……?」

 巡回兵の言葉に反応を示したローブの男は、ボソボソと反芻すると次の瞬間勢いよく顔を上げた。

「……? エリザベス嬢、ではない……?」

 顔を上げた拍子にフードが外れた男と馬車内にいる僕の視線がぶつかる。
 男は僕の顔を見て訝しむように眉をひそめた。

「……マールグリット伯爵に、子息もいたのか……? だが……」

 ブツブツと呟く男に、巡回兵が不審な目を向ける。

「な……何で……?」

 男の口から小説の主人公エリザベスの名が出たことにも驚いたが、何よりも驚いたのは男のその顔だった。

 (え、どういうこと? 何でこんなところに……)

 慌てて巡回兵やキースの様子を窺うが、男の行動を訝しむ以外の感情は見られない。

 (気づいていない……? いや、そんなはずは……)

 この国の住民なら、誰もがその姿を見たことがある。
 貧民だろうと平民だろうと関係なく手に入れられるよう、この国の至る所で絵姿が売られているのだから。
 ましてや貴族街を巡回する兵や、伯爵家に仕えているキースが、彼を知らないはずがない。

 (どういうこと……?)

 再び男の顔を凝視して確信を持つ。
 僕の目の前にいる彼は、この国の王――カールハインツ・フォン・グランストーム陛下で間違いない。
 長い間手入れがされていなかったようでくすんでしまっているが、よく見れば髪は王族に多いプラチナゴールドの色をしているし、瞳は僕と同じように魔法で色を変えているようだが、その面立ちはやつれていても、市井しせいで売られていた絵姿で見たものと変わらなかった。

「……あの、僕はマールグリット伯爵家嫡男エリオットです。もし貴方がよろしければ、当家に寄っていかれますか?」

「エリオット様⁉︎ 何を仰るのですか‼︎」

 非難じみた声を上げたキースを片手で制し、扉を開けるよう指示を出す。

「狭いですが、乗ってください」

 僕はカールハインツ陛下を馬車内へ招き入れた。
 本来なら僕の行動は不敬に当たるだろうが、カールハインツ陛下は何も言わずに頷くと、呆然とする巡回兵の手を退け、ゆっくり馬車に乗り込んでくる。
 巡回兵に詫びを告げ、何か言いたげな巡回兵を無視する形で馬車を発進させた。
 キースはまるで監視するかのように鋭い眼差しでカールハインツ陛下を見つめているが、考え込んでいる様子の陛下はキースの視線を気にも留めていない。

 (とりあえず色々訊きたくて連れてきたけど、父様と母様が卒倒してしまわないと良いな……)

 キースたちの様子から、僕以外の人間は何故か、彼がカールハインツ陛下だと認識していないようだと理解したが、貴族である両親は違うかもしれないという考えがあった。
 流石に主君の顔がわからないということはないと信じたい。

 (エリザベスのこととか、神器のこととか訊きたいことは山程ある。答えてもらえるだろうか……)

 横目で陛下の様子を伺いながら、小さく息を吐いた。
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