転生したら女性向け恋愛小説の中でした。〜前世はオタク、恋愛経験ゼロ男のシンデレラストーリー〜

胡桃

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本編

16-1

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 案の定、部屋の前で待機していたキースに頼み、カールハインツ陛下フランツ様を呼んできてもらうと、陛下はすぐに僕の部屋へ来てくれた。
 ミハイルたちもカールハインツ陛下のことを認識していなかったので、偽名で紹介することにはなったが、彼らの顔合わせはおおむね成功と言えるだろう。
 そして、これまでミハイルから聞いた話を陛下にも聞いてもらうと、陛下は眉間にシワを寄せて黙り込んでしまった。
 僕はまだ聞いていなかった話だが、アンネリー皇女が留学してきて間もない頃、彼女がカールハインツ陛下と婚約するためにこの国へ来たという噂が流れたと聞き、陛下には何か思うところがあるらしい。

「……へ、ふ、フランツ様?」

 しばらく様子見をしていたが、一向に口を開く気配がないため不安になった僕は、彼に声を掛けることにした。
 いつも二人で話すときの癖で、危うく陛下と呼びそうになり、慌てて偽名に直す。
 幸い、ミハイルたちに聞き咎められることはなかったので、密かに胸を撫で下ろした。

「私はスレンダール皇国の皇女が、この国へ留学してきているなんて初めて聞いた。国王との縁談が持ち上がっていることも知らない」

 陛下は険しい表情のまま、きっぱりとそう言った。
 全く心当たりがなさそうな彼の様子からすると、投獄される以前にスレンダール皇国から何らかの通達があったわけではなかったようだ。

「庶民に知らされていないだけではないのか?」

 グランストーム国内にブラウンという名の貴族がいないと知っているミハイルたちは、“フランツ・ブラウン”という男は庶民であると判断したらしい。
 そして、誰にでも人当たりの良いミハイルにしては珍しく冷えた声でそう告げた。
 ミハイルたちは、爵位持ちか否かで人を判断するような性質ではないので、相手が平民であろうと差別意識は持たないが、今の彼らの心境としては、突如現れた“フランツ・ブラウン”という人物が信用に値するかどうか判断がつかないといったところなのだろう。
 こういうときは僕が何を言ったとしても、彼らが納得しなければ意味がないので、僕は二人の判決を黙って待つしかない。

「……君たちは、スレンダール皇国の皇女が留学してきてから、王都の中心街へ出たことはあるかい?」

 カールハインツ陛下は、ふと真顔になってミハイルを見据えて尋ねる。

「……あるけど、それが何なんだ?」

 真っ直ぐ見つめられて面食らったらしいミハイルは、若干据わりが悪そうに身じろいでから静かに答えた。
 隣のマーティンも同意を示して頷く。

「どんな様子だった? あぁ、そうだ、エリオット。君も先日、自由市へ出掛けたばかりだろう? 中心街の様子はどうだった?」

 カールハインツ陛下はミハイルたちだけでなく、僕にも同様の問いを投げかけてきた。
 示し合わせた訳でもないのに僕たち三人の視線が絡み合い、ミハイルが僕から答えろと言うように僅かに顎を上げたので、僕はカールハインツ陛下の方へ向き直った。

「……特に変わった様子は、なかったように思います」

 自由市の開催で浮き足立った様子の人々が多かったが、それ以外の部分で異変は見られなかったように思ったので、そのまま伝える。
 もちろん、神器の件は含まずに考えた結果である。

「通常、この国では他国の王族・皇族といった貴賓が来国した際、歓迎の意を表して王都内で祭が催されることになっている。更に彼らが入国する際には、王都の正門から王城へ向かう道を、正装したグランストーム王国騎士団に護衛されながら何台もの馬車を連ねて通るため、王都の民は平民貴族問わず、貴賓の来国を知ることができる」

 カールハインツ陛下は、僕の答えを聞いて鷹揚に頷いた後、そう告げた。
 しかし、僕たちはこの国の貴族家の子息であり、王立学院の生徒であるので、そういった国の行事や祭事はきっちり学んでいる。
 だから、わざわざ改めて説明されることでもないのでは、と思った。

「それが何か……あ、そうか。自由市が開催・・・・・・されているのは・・・・・・・おかしい・・・・ということですね?」

 どういうことかと訊ねてみようとしたが、すぐに思い当たることがあった。
 それは僕が先日参加したばかりの自由市のことである。

「その通り。今回の皇女の留学が公式なものであるのなら、先の理由で王都の民が貴賓の来国を知らないことはない。そして、王都で催される行事は皇女を歓迎する祭のみになり、中央広場ではスレンダール皇国から皇女と共にやってくる隊商が店を連ねる。これは来国した貴賓が、どの国の者であっても変わらないが、特にスレンダール皇国の場合は、隣接する国とは言え同盟を結んだ友好国というわけではないから、敵対しないためにもこういったことは徹底しておいた方が良いというのが、この国の王の考えだ」

 丁寧だが断固とした意志を感じるその言葉に、僕たちは黙り込んだ。

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