転生したら女性向け恋愛小説の中でした。〜前世はオタク、恋愛経験ゼロ男のシンデレラストーリー〜

胡桃

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本編

閑話② 私の大切な天使様(1)

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<キース視点>

 ――十六年前、この世に天使様が生まれた。

 グランストーム王国の片隅にある、マールグリット伯爵領は、領主であるマールグリット伯爵様と領民たちの関係が良好で、魔獣被害も少ない平穏な地域である。
 その中にある小さな町で、私――キースは生まれ育った。
 父の家系は庭師を生業とする家系であり、二代前の当主――私の曾祖父がその腕を買われたことによって、マールグリット伯爵邸の庭を管理するという名誉ある役職を与えられた。
 その数十年後に祖父が継ぎ、それから更に数十年が経った今では父が継ぎ、毎日旦那様や奥様の要望に合わせて庭を整えることに精を出している。
 
 父が祖父の跡を継いだ当時、母は私のすぐ下に生まれた双子の弟妹の世話に追われ、長子である私に構う余裕がなかったため、私の物心がついた頃にはいつも父の仕事についていき、微力ながら手伝いをするという日々であった。
 マールグリット伯爵様と奥様は、幼い故に大して役に立っていない私のことも快く受け入れてくださり、よく手伝う良い子だと褒めてくださった。
 そんな日々に慣れてくると、時折、奥様の話し相手として所望されるようになり、私は緊張しながらも頻繁に奥様とお茶の時間を過ごしていた。
 そうして時が過ぎ、私が六歳になった頃、奥様の懐妊が判明し、やがて御子おこが生まれた。
 
 ――その御子が、マールグリット伯爵家嫡男のエリオット様である。
 

 ◇ ◇ ◇

 
『キース、こちらへいらっしゃい』

 奥様の出産予定日が近づくと、父はしばらく休みを言い渡されることになった。
 そして、無事に出産が終わった数日後、再び呼ばれるようになった父についてマールグリット伯爵邸を訪れた私は、こっそり奥様の部屋の近くまで行き、扉の陰から旦那様と赤子を抱いた奥様が和やかに談笑されている様子をうかがっていた。
 当時の私はまだ子供であったため使用人ではなく、お茶の時間などに屋敷内――サロンルームへ入ることは許可を得ていたが、当然、旦那様や奥様の寝室に足を踏み入れることまでは許されていなかった。
 私は気づかれないよう息を潜めていたのだが、赤子を一目見ることに意識が集中してしまった所為で姿を隠しきれず、不意にこちらを向いた奥様にあっさりと気づかれてしまった。
 怒られると身構えた私に反して、奥様は優しく微笑み、私に向かって手招きをしてくださった。
 
『どうしたんだい? 遠慮せず入っておいで』
 
 招かれたものの部屋に入っても良いのかと気後れした私が躊躇していると、旦那様がわざわざ私の元までやって来て、そっと私の手を引いて室内へといざなってくださり、私は初めて奥様の部屋へ入ることになった。

『キース。この子が私たちの息子――エリオットだよ。君とは少し歳が離れてしまうけれど、仲良くしてあげてほしい。よろしくね』

 旦那様に促され、奥様が腕に抱く赤子の顔を見る。
 眠っているため瞳は閉ざされているものの、顔立ちには奥様の面影があり、まだ産毛と呼べる赤子特有の柔らかな髪は旦那様と同じ鮮やかな金色をしていた。
 窓から差し込む暖かな陽光が、その髪に反射して煌めいて眩しかったことを今でも覚えている。

『こんな風に、そっと触ってごらん』

 旦那様が実演付きで、エリオット様の手をチョンと触る。
 すると、エリオット様が旦那様の指を握った。
 それはほんの数秒のことであり、エリオット様はすぐに旦那様の指を離す。

『ふふふ。キースもどうぞ』

 奥様に促され、そっと人差し指でエリオット様の手に触れると、案の定エリオット様が私の指を握った。

『わぁっ』

 おぼろげながらも弟妹が生まれた時の記憶はあったので、赤子を初めて見たわけではないが、弟妹が生まれて間もない頃に触れたことはなかった。
 指を握り返してきた力が想像以上に強かったことにも驚いたが、私の指を握った瞬間、エリオット様の両目がパカッと開いたことにとても驚いた。
 そして、エリオット様の目が私の姿を捉えて微笑み――生後間もない赤子が、まだ物を見る力を持たないということはずっと後になってから知ったのだが、当時の私はエリオット様が私を見て微笑み掛けてくださったのだと思っていた。
 エリオット様は、翠玉のような右目と黄金色の左目を持っており、陽光をまとい煌めくそのお姿が、私の目にはまるで童話に出てくる天使のように映った。

 (天使様だ……)

 胸に込み上げてくる激情が何なのか、幼い私にわかるはずもなく、ただただ美しくも愛らしいエリオット様の目を、その小さな姿を見つめ続け――私がこの御方をおまもりするのだと、誰に言われるでもなく理解して、ひっそりと心に誓った。

 私の大切な天使エリオット様をお護りするためならば、どのような苦難もいとわない――その尊き御身おんみに降りかかる全ての災いを退しりぞけ、たとえこの命が尽きようとも、私が盾となり剣となってエリオット様をお護りいたしましょう――絶対に。
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