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本編
15-2
しおりを挟む通常、他の貴族が他領の経営に口を出すことは許されない。
例え爵位が上であろうとそれは変わらず、最高位である王族ですらそれぞれの領地経営に口出しをしないことが暗黙の了解となっていた。
それは各貴族の権力が集結しないようにする目的があり、それぞれの力量を測る意味合いもあるので、余程の経営難に陥っていなければ、国は状況を把握しつつ領地ごとに徴税するのみに徹している。
王族――国王が口を出すとすれば、困窮した貴族から救済の要請があった場合と、領主となっている貴族が爵位を剥奪せざるを得ないような大罪を犯した場合くらいで、後者の場合は爵位剥奪と共に領地ごと国へ返還されることになっていた。
更に貴族たちが他領を侵犯するような真似も禁忌とされている。
しかし、婚姻や養子縁組などによって縁続きとなって協力関係を結ぶことは有りなので、シュヴェリエ侯爵は洞窟の所有権や魔石の利権を狙って、僕とレオナルドとの婚約を強引に推し進めてきたのであった。
そして、自分にも利があるように洞窟の管理や採掘、魔石の加工場等に支援という名の監視役を置いていた。
父が必要以上に儲けることを阻止する目的でもあったようだ。
その理由は、この洞窟発見の功績で父へ陞爵の話が持ち上がっていたからである。
現在、伯爵である父の爵位が上がれば侯爵となり、シュヴェリエ侯爵と同等の立場になるため、シュヴェリエ侯爵はそれが気に入らないということだ。
父自身もシュヴェリエ侯爵の魂胆はわかっており、シュヴェリエ侯爵の手の者たちが、勝手に採掘して魔石を盗むような真似ができないよう、重要な役職や場所からは彼らを遠ざけることを徹底し、信頼のおける者のみに任せていた。
今のところそういったトラブルは起きていないが、シュヴェリエ侯爵が事あるごとに口出しをしてきていたため、いつ何が起こってもおかしくないような状況ではあったようだけれど。
それほど執着していたはずのシュヴェリエ侯爵が、レオナルドと僕との婚約を解消させ、それらを手放すことにした理由は、小説の通りであるなら、スレンダール皇国からアンネリー皇女との縁談を持ち掛けられ、レオナルドが次期スレンダール皇帝に、侯爵自身はスレンダール皇国の大公になれるという甘い夢を見させられたから、となっているはずであった。
だが、それはスレンダール皇国がグランストーム王国侵略を実行するに当たって、グランストーム王国の貴族内で、最も権力主義で強欲なシュヴェリエ侯爵を己の手駒にしようとしてついた嘘なので、実現することはないのだが、レオナルドもシュヴェリエ侯爵もそれを信じ込んでいた。
そして、アンネリー皇女がグランストーム王城へ侵入する際、彼女を手引きした内通者がシュヴェリエ侯爵であり、彼は物語の終盤で国家叛逆の罪で一族郎党処刑されることになる。
(小説の展開とは違っているけど、スレンダール皇国はシュヴェリエ侯爵に近づいたってことだよね……)
婚約が破棄される場面は小説と同じであったので、その時点でスレンダール皇国はシュヴェリエ侯爵たちに接近しているはずである。
その後、僕が自由市で神器を手に入れる直前までは、小説通りの展開となっていて、神器を見つけて購入したら、徐々に小説の展開からかけ離れていった。
(あのボロボロになった神器が、物語を狂わせている……?)
僕がエリオットとして転生したことが物語を変化させた要因だと思っていたが、もしかするとそうではないかもしれないということに気づいた。
あの神器は最近ボロボロになったとは言い難いほど悲惨な状態であり、言い換えれば古びているとも言える。
そして、カールハインツ陛下の言葉を信じるなら、この世界の神器は今も尚、王城の宝物庫に納められ、この世界を支えている。
(もしかすると、僕が手に入れた神器とこの世界の神器は別の物なのかもしれない……)
原動力となる魔石を失ったから神器がボロボロになったのだと考えていたため、他の要因がある可能性を考えていなかった。
(神器も僕と同じように別の世界から運ばれてきた……?)
それならば目的は不明なれど、この世界に神器が二つ存在することに理由がつく。
しかし、カールハインツ陛下が偽物だと糾弾され、投獄された理由がわからないのは変わらない。
僕が以前考えたように、ここがアンネリー皇女との婚約が成立する世界であると仮定するなら、カールハインツ陛下の存在は不可欠であるはずだが、現にカールハインツ陛下は排除されようとしていた。
(……どういうことだろう? カールハインツ陛下が邪魔だった……?)
この国を侵略するのにカールハインツ陛下の存在が邪魔だと考えるのはわかる。
だが、今の時点でカールハインツ陛下を排除してしまえば、この国の民から不信感を持たれるだけであり、スレンダール皇国にとっても不利なのではないかと思う。
それに、カールハインツ陛下を排除するのではなく、自陣に取り込んで操り、国民を支配する方が容易に思えるのだが、そうしなかったということだろうか。
――否、しなかったのではなくできなかったのかもしれない。
(……これはカールハインツ陛下にも聞いてもらう必要があるよね)
魔石の件も含めて、学院でアンネリー皇女に跪いていた理由や、虚な目をした生徒がいたことなど、訊くべきことはまだたくさんある。
だが、これらは国の存亡や僕たちの存在意義に関わる重大な情報になるような予感がしていた。
「……あのさ、ミハイル。この話、僕の知人にも聞かせたいんだけど、良いかな?」
「知人? それは誰なんだ?」
「今、この屋敷に滞在してもらっている人がいるんだ。多分、僕より彼に聞いてもらった方が良いと思う。……呼んでくるよ」
ミハイルの問いには答えず、そう言い置いて立ち上がると、部屋の外で待機しているであろうキースの元へ向かった。
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