できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ

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11話「できる形を、探してみる」

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今日は外に出ない日だった。

昨日少しだけ身体が熱くなって、
布団の中でいっぱい汗をかいた。

(……なおった)

もう頭はふらふらしない。
でも、お母さんは言った。

「今日は、お家でゆっくりね」

(……うん)

素直にそう思えた。

***

居間で、私は床に座っていた。

脚を投げ出すと、太ももがむにっと広がる。

(……やっぱり)

ぷにぷにボディ。

ちょっと、憎い。

でも、
昨日熱を出したことを思い出すと、
この身体なりに、
ちゃんと守ってくれている気もする。

(……むり、しない)

そう心の中で言ってみる。

***

外から、
こん、こん、と、
一定の音が聞こえた。

(……おと)

お父さんだ。

窓の向こうで、細い木を整えている。

斧じゃない。
でも、木を叩いて形を整えている。

(……みてる)

腕の動き。
手首の返し。
力を入れるところと、
抜くところ。

(……おもそう)

あれは、無理。

斧じゃなくても、あの木も私には重い。

でも。

「……あ」

ふと見ると、足元に短い木の棒が落ちている。

焚き付け用。
私の腕くらいの長さ。

(……これなら)

私はそれを両手で持ってみた。

軽い。
でも、両手だとちょっとぷるっとする。

(……うごかす)

床に向かって、そっと振ってみる。

ふん。

空を切る音。

(……もういっかい)

ふん。

今度は少しだけ速く。

腕がじんわり熱くなる。

(……あ)

これ、もしかして。

***

「それ、振ってるだけでも疲れるだろ」

いつの間にか、お父さんが近くに立っていた。

私は棒を落とさないようにしながら、
小さく頷く。

「うん……ぷるぷる」

「はは」

お父さんは笑った。
でも、止めなかった。

「力より、動かし方だな」

それだけ言って、また外に戻っていった。

やれ、じゃない。
できる、でもない。

ただ、見たままを言われた。

なんだかそれが、ちょっとだけうれしい気がする。

(……よし)

“できる形”を探してみる。
私はもう一度棒を振る。

さっきより、少しゆっくり。

(……まね)

腕だけじゃなくて、身体ごと少し動かす。

ふん。

今度は、さっきより楽だった。

(……あ)

動き方。

それだけで違う。

***

しばらくすると、腕がだるくなった。

棒を置いて、床にぺたんと座り込む。

(……つかれた)

でも、嫌じゃない。

お母さんが水を持ってきてくれる。

「今日は、それくらいでいいんじゃない?」

(……うん)

私はちゃんと頷いた。

無理しないって、こういうこと。

***

午後は椅子に座って、
お父さんの作業を眺めた。

音。
間。
失敗して、やり直すところ。

(……しってる)

ああ、私これ得意だ。

動けない時間が長いから、よく見てる。

見てるから、違いが分かる。

(……できる)

斧は振れない。
走れない。
強くない。

でも。

見る。
考える。
自分に合う形を探す。

それならできる。

***

夜。

布団の中で、腕を少し動かす。

今日使ったところが、じんわりとする。

(……がんばった)

がんばりすぎてない。

ちゃんと、今の身体で。

私は目を閉じる。

(……だいじょうぶ)

できないことがあるから、
できる形を探す。

それは悪くない。

そう思いながら、私はゆっくり眠りに落ちた。
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