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33話「ひろがる、たのしい」
しおりを挟む朝の光がやわらかく地面を照らしていた。
私はいつもの場所に座る。
隣にはエル。
今日は一緒。
「ここ、久しぶりだね」
二人で顔を見合って、笑った。
(……つくった)
手には、昨日みんなで作ったなんちゃってアイシングクッキー。
色も形もばらばら。
私はそっと包みを開く。
白。
茶色。
赤紫。
ちょっと、こわい色。
「……いっぱい」
エルが目を丸くする。
「全部、食べるの?」
私は首を横に振る。
「……えらぶ」
「そっか」
エルは笑って、一枚手に取った。
「これ俺が描いたやつだ」
線ががたがた。
顔がちょっと歪んでいる。
「……えにょん」
私が言うと、エルは吹き出した。
「俺の顔だな」
二人でしばらく笑う。
でも、すぐには食べない。
しばらく眺める。
「……たべるの、もったいない」
私が言うと、
エルは少し考えてから頷いた。
「うん。でもさ」
一度、間を置いて。
「食べたらきっと、もっと思い出が増えるよ」
私は、その言葉を胸に入れる。
(……もっと、そっか)
小さくかじる。
サクっと音がする。
(……きのうより、ちゃんとさくっとしている)
「……おいしい」
エルもかじる。
「うん。おいしい」
それから、別の一枚を手に取った。
(みどりいろ……)
ちょっと勇気がいる。
だけど、私は少し迷ってからかじった。
……にがい。やっぱり苦い。
「……にが」
思わず顔がしかめる。
エルも食べて眉をひそめた。
「うわ、草だ」
「……はっぱ」
「だな。元気になりそうだけど」
二人で笑う。
それから次は茶色を手に取った。
お茶の色。
かじると、ふわっと香りが広がる。
「……これ、すき」
私が言うとエルも頷いた。
「うん。大人っぽい味」
「……おちゃ、いい」
「次はこれ増やす?」
私はこくん、と頷く。
(……つぎ)
包みの中は、少しずつ減っていく。
全部ちがう。
でも、全部楽しかった。
「作るのも楽しかったな」
エルが言う。
「色、変わるのびっくりした」
「……ぬま」
私が言うと、エルは思い出したみたいに笑った。
「あれは衝撃だった」
「……こわい」
「うん、怖い」
しばらく風の音だけになる。
それからエルが言った。
「また、作ろうな」
私は顔を上げる。
「……つぎ、なに」
エルは少し考える。
「甘くする?」
「……あじ、かえる?」
「いいな。それ」
私は、胸の奥があたたかくなる。
(……いっしょ)
そのとき。
「なにしてんのー?」
声がした。
振り向くと、近所の子どもたちが立っていた。
「それ、なに?」
「色ついてる!」
エルが、少し驚いた顔をしてから言う。
「甘い焼き物」
「食べられるの?」
私は、包みを見てから少し考える。
減ってる。
でも、まだある。
人と関わるのは、まだちょっと怖い。
――でも、
(……わける)
私は、そっと一枚差し出す。
「……どうぞ」
子どもたちは、目を輝かせる。
「なにこれ!」
「おいしい!」
「へんな色!」
笑い声が広がる。
胸の奥がなんだかじんわりする。
(……うれしい)
私はその様子を見ながら、
かじりかけの一枚をもう一口食べた。
(……また、つくりたい)
エルの横で、私はそう思った。
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