【完結】先生、大人の診察は勤務外でお願いします

雪村こはる

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俺様外科医なんか嫌いだ

落ち着かない噂

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 九瀬まりあに呼び止められてから5日が経ったが、噂は収まるどころか更に勢いを増していった。

「外科の九ノ瀬さんが、噂の九瀬さんを呼び出したらしいよ」

「やっぱり外科ナースは怖いよね」

「怒ると怖そうだもん。本当は自分が不倫しててそれがバレそうだから余計に怒ったんだじゃない?」

「それか、狙ってる男がいてそっちに影響があったとか?」

「どうせあちこちで男食い漁ってるんだから、今更噂されたって意味ないのにね」

 わざわざ聞こえる声で話しているのか、私がいるとは知らずに楽しんでいるのか。それはわからぬところだが、しっかり私の耳に届いているのは事実。
 いつになったら解放されるんだろう。もういい加減こんな環境にもウンザリだ。

 そう思いながら検体を置きに行き、病棟へ行こうとしていたところに見つけた男の姿。私ははっと顔を上げ、階段を上がるのを止めて柱の影に隠れた。

 久我暖陽だった。
 くっそ、真昼間から整った顔でうろちょろしやがって! 私だってまだまだ仕事があるのにバッタリ会ったりなんかしちゃったら気まずいじゃないの!

 きぃーっと私は両手で拳を作り、その場で地団駄を踏む。そう、あの久我暖陽に言い返した日から私はまともにあの男と会話をしていない。
 川崎先生が主治医の患者を主に受け持っていたというのもあるが、ここ数日彼のオペ患者に携わることも少なかったからだ。こちらとしてはありがたいが、気まずさはどんどん膨れ上がっていく。

 業務中ならまだしも、廊下で出会したりしたら何言われるかわかったもんじゃない。そう思いながらチラリとその姿を確認する。その隣には、同じくらいの歳の男性が一緒に歩いていた。
 久我先生の同期だ。確か、循環器内科の遠藤先生だったか? 記憶は曖昧だけれど、たまに一緒にいるのを見かける。この男はいかにも遊んでそうで好きじゃない。いや、久我先生のことだって全く好きじゃないけど、また更に違う意味で苦手なのだ。

「久我のところは大変そうだな。働かない看護師も多そうで」

 そんな声が聞こえ、私は顔が強ばる。あの久我先生の声とは違った。ということは、自然とこの声の主は遠藤先生ということになる。
 はい? 余所者のお前さんが、何を言ってらっしゃるの? うちの病棟は自慢じゃないけど出来る看護師多い方なんですけど! そう食ってかかりたいのをぐっと抑えた。
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