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ナースの王子様

お久しぶりです

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 結局眠れなかった。男達に襲われた恐怖と、久我先生の真意がわからない今、出勤することも躊躇う。
 けれど早番は私1人しかいないしただでさえ人が少ないのに出勤しないわけにもいかない。

 そう思ってやっとの思いで出勤してきたのに、そんな私を奈落の底に突き落とすかのように病棟には久我先生の姿があった。

「……なんで出勤してきたんだよ」

 第一声がそれか。夜勤の看護師はバイタル測定に回っていて姿が見えない。こんな男と病棟に2人きりなんて最悪だ。

「どういう意味ですか」

「昨日、あんなことがあったんだから休めばよかっただろ」

「そういうわけにはいきません。人がいないんですから」

「そんなの、いるヤツらだけでなんとでも」

「なりません。夜勤は大変なんですから、あんな時間から欠勤するって言っても代わりに出てこれる人もいませんし、迷惑がかかります」

「お前な……仕事に対して真面目なのはいいけど、もっと体のこと考えろよ」

 久我先生は目頭を押さえて盛大にため息をついた。
 なにそれ……心配してますアピール? 今更そういうのいらないんですけど。それともあの人達とは仲間じゃないですアピール? どちらにしても面倒臭い。

「体は大丈夫です。結局最後までされませんでしたし」

「そういうことじゃないだろ!? あんな目にあってPTSDにでもなったら!」

「……大丈夫です。もう話しかけないで下さい。申し訳ないんですけど、私本当に男の人ダメなんです。こうやって話しかけられる方が体調悪くなるので」

「……そうかよ。悪かったな……」

 彼は何か言いたそうだっだが、それだけ言って背を向けた。白衣を翻して去っていく。
 悪かったなだって。謝れるのか。いや……機嫌を損ねただけか。

 もしも彼が本当に単なる気まぐれか良心かで助けてくれたとしたら、私の態度は礼儀知らずに見えるだろう。
 だけど、本当は立ってるだけでもやっとなんだ。仕事なんてできないほどに体が悲鳴を上げている。そんなところに噂をすっかり信じていた久我先生に話しかけられるのは精神的に辛い。

 私はふらふらっと縺れる足をなんとか踏ん張って仕事に入った。
 夜勤者のフォローをしながら早番の仕事をこなしていく。

 朝礼時間に間に合うように慌ててナースステーションへ駆け込んだ。

「あ、九ノ瀬だ。久しぶり」

 そう言って眩しい程の笑顔を向けられた。

「え!? 槙さん!?」

 私は驚きながらも思わず口元が緩んだ。彼に会ったのはすごく久しぶりだったから。

「元気?」

「はい! お久しぶりです! 槙さん、なんでここに?」

「俺、今日からここ出勤。異動になったんだ」

 中性的な彼はそう言って優しく微笑んだ。
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