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噂だらけの病院

特別な相手

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 九ノ瀬が目を覚ましたら、ちゃんと手当てをしてやろうと思っていた。押し倒された時にできた擦り傷もあったから。
 気を失っている間に触れるのは更なる不信感に繋がると思って目が覚めるのを待った。

 でも、彼女はこれ以上ないくらい取り乱し、泣き叫び、怯えていた。手が付けられないほどに暴れるものだから、その体を抱きしめ、押さえ付けた。
 逃れようと必死で、白衣の上からでも皮膚が抉れるほど爪を立てられた。痛みに顔を歪めた俺だったが、多分九ノ瀬が感じた精神的な痛みに比べたらなんてことないように思えた。

 ようやく落ち着いたかと思えばあっさりと逃げられた。

「男の人は嫌いです」

「先生だってあの人達と同じじゃないですか」

 そう言われて何も言い返せなかった。男好き扱いしたし、断りもなくキスもしたし、看護師として無能呼ばわりもした。
 俺がアイツを嫌ってると思っているみたいだった。そりゃ、最初は嫌いだった。だって、ああいう人間のせいで俺は派遣されるはめになったわけだし。
 職場で仕事もせずに恋愛しているようなヤツも嫌いだし。

 でも、本人からあの医者達と同類だと言われたらかなりこたえた。俺は助けたかっただけだし、悪いと思ったから守ってやりたいと考えただけだ。
 それなのにあんなに怯えた目をしてアイツらの仲間なんじゃないかって疑った。

 男性不信。きっと男は皆敵に見えるんだろう。誰のことも信用できず、頼ることもできないんだろう。
 じゃぁ……一体今までどうやってその身を守ってきたのか。1人で抱えて目に見えないものに怯えて耐えてきたんだろうか。想像したら、胸が張り裂けそうだった。

 俺くらい味方でいてやってもいいんじゃないか。信用できなくても、協力してやれば解決の糸口くらいは見つかるんじゃないか。そう思った。

 きっと傷付いたアイツは、明日出勤してこないだろうし証拠集めをする気力だって残ってないだろう。そう思ったから俺は、あの3人を呼び出して真犯人を見つけることにしたし証言だってとろうと努力した。

 それなのに……知らない男が病棟にやってきた。女みたいな顔をした看護師だった。九ノ瀬は出勤してきたし、あろうことかその男と親しげに話していた。
 昨日はあんなに怯えていたのに、同じ男であるはずのアイツには笑顔で接し頭まで触れさせた。

 男は嫌いだって言ったくせに。ストレスになるって言ったくせに。アイツのことは特別な存在だとでもいうように俺には見せたこともない笑顔を見せていた。
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