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ナースの彼女

苛立ちから一転

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「ねぇ……それが手だってことはない?」

 佐藤先生がそんなことを言うから、俺はもうなにも言うまいと決めた。

「すみませんでした。もういいです」

「え!? ちょ、ちょっと久我先生!? ねぇ、本当に本気なの!?」

「それが手なら、少しくらい触らせてくれるんですかね……。俺、ここにいる間に触れられる自信ないっす」

 自分で言ってて悲しくなってきた。男避けができればそれでいいと思っていたはずなのに、九ノ瀬は俺との噂によって今までよりは過ごしやすくなって、でも俺とは実際なんもなくて……このまま2ヶ月が終わって噂だけ残して俺とは自然消滅。そんな未来が見えた気がして本気で凹んだ。

 佐藤先生が何かいいかけていたが、俺はもう病棟に戻ることにした。もうそろそろ九ノ瀬の勤務時間が終わる頃だし。一目見てから仕事しよ。そう思ったからだ。

 病棟に向かう廊下で視線を感じる。今日1日、俺が九ノ瀬と噂がある男を追いかけ回してたから自分が指を差される感覚をようやく実感した気がした。

「あ……久我先生」

 医師に会えば足を止めて名前を呼ばれる。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です……。あの、九ノ瀬さんと付き合ってるって本当ですか?」

 ようやくそう聞かれた。今日は逃げられてばっかりだったから、こうやって質問されると新鮮だ。

「ええ。付き合ってます」

「……本当に?」

「はい。俺から告ったので」

「……え?」

 この世の終わりみたいな顔するんだよな。アイツ、どこにいってもよく思われてないんだな。

「噂は全部噂です。肉体関係があるって噂されてる全員に直接聞いてきたけど全部嘘でした」

「……はぁ」

 彼氏ができた手前、抱いたことがあるっていえないだけじゃないのか。そんな顔をする。イラッとしたが、ふと考える。

 まてよ……。こういう顔をする男はアイツに興味がないヤツってことだ。
 そう考えるとアイツを狙ってる男はわりと少ないのか。遊び目的の男には九ノ瀬自身が興味ないし、そうなるとやっぱりあの槙って男だけか。
 それなら……むしろ九ノ瀬のことをわかってるのは俺だけだし他の男にアイツの魅力なんか伝わらない方がいいよな。

 おれはそこにようやく気付いた。あとから噂が全部嘘だったとわかったところで、俺が彼氏でいれば他の男達は手が出せない。
 そうか、そうか。せいぜい九ノ瀬のことを見下していればいいさ。本当のアイツを知ってるのは俺だけだからな。

 その後も何人かに話しかけられたが、俺はすっかり気が良くなっていた。
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