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ナースの彼女

チャンス到来

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 病棟に戻ると九ノ瀬の姿を見つけた。遅番に申し送りをしているから、もう帰るつもりなんだろう。
 対面していた看護師と距離ができたところで俺は九ノ瀬に話しかけた。

 やっぱり、病棟にいるといいな。どんな噂があろうと美人であることには変わりないし、場が一気に華やかになる。
 加えて、前回あって色々話したからか親近感も芽生えて顔を見ると心が少し弾む。

 ここへ来る途中、何人ものスタッフに声をかけられた。九ノ瀬と本当に付き合ってるのか、というもの。
 相手が顔を引きつらせる度、俺は嬉しくなる。九ノ瀬にも可愛い部分があるのだと知ってるのは俺だけなんだと実感させられるから。

「何でそんなに嬉しそうなんですか」

 顔に出てたのか、九ノ瀬にそう聞かれた。既に噂が広まっていることを告げれば、九ノ瀬でさえため息をつく。

 少し話をしていたら、腕はどうかと聞かれた。なんのことかわからなかったが、すぐに思い出す。
 九ノ瀬が襲われたあの日、後ろから抱きしめた俺の腕に爪を立てながら恐怖に耐えていた。

 あの時は俺も必死で痛みなんか感じなかったが、あの後家に帰ってからすげぇ痛かったんだよな……。たまに消毒液とかが飛び跳ねて傷口に触れたら最悪で、声を上げそうになったことも思い出す。

 ……そんなかっこ悪いこと言えるか。もう治ったし。いつの話してんだよ。
 そう思ったのに、九ノ瀬は俺の傷跡を見て申し訳なさそうに顔を伏せた。あれだけ怖い思いをすれば仕方のないことだ。

 俺の傷はほっときゃ治るが、九ノ瀬は今でも男性不信で悩んでる。それに比べれば俺の傷なんて……。そう思うが、ふと違う考えが顔を出す。

 何度も謝る九ノ瀬。傷が残ったと泣きそうな顔をしていた。なんとなくもっと困らせてやりたいと思ったし、チャンスだとも思った。

 病棟外のスタッフは皆興味深そうに声をかけてきたのに、この病棟のスタッフはまだ俺と九ノ瀬が付き合っているのは単なる噂だと思っているらしい。

「傷が残ったら、責任とって貰ってもらおうか」

 そう言えば、本気で驚いてる顔が可愛くて、困っている様が面白くて俺は思わず笑った。
 結婚を仄めかしておけば、病棟のスタッフも少しは信じるだろ。いや、病棟内でこそ信じてもらわなきゃ困るんだ。なんたってこの病棟には槙がいるんだからな。

 すっかり敵と化した槙を1番に欺くため、俺は病棟内スタッフ全員に聞こえるくらいの声で言った。

「ちょっと先生、来てください!」

 せっかく他の看護師達の視線を集められたのに、九ノ瀬に白衣をグイグイ引っ張られ、俺は病棟から連れ出された。
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