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ナースの彼女

触れられた

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 九ノ瀬があまりにも動揺していたから思わず笑った。困らせるだけなら成功したみたいだ。

 病棟のスタッフに信じ込ませるためだと言えば納得はしたものの、結婚って言葉にすんげぇ赤面する。

 あー……こんな顔するんだ。

 本物の彼氏なわけでもないのに、照れて結婚を想像して。これが他の男でもそうだったのかな、そう思うと悔しい。

 結婚したいのか聞いてみれば、そんなのは夢のまた夢だなんていう。この病院では変な噂ばかりでももっと外に出たら九ノ瀬と結婚したいって男はいくらでもいるんじゃないかと思う。
 ただそれは客観的な俺の意見であって九ノ瀬本人はまだ男にどこまで触れられるのかもわかんないと言っていた。

 すぐに襲われた時のことを思い出す。ついさっき爪痕を確認したばかりだし。そりゃ、九ノ瀬にとっては簡単なことじゃないか。

 そう思っていたら、触らせてくれないか、なんて言う。
 まさか九ノ瀬の方からそんなことを言ってくるだなんて想像もしていなかった。俺に触れられるのを極端に嫌がっていたくせに。

 それにしたってどこを? そんな体中ベタベタ触るわけじゃねぇよな。そう思ってたら、手だと。
 なんだよ……。手かよ。手くらいならいくらでも触らせてやるし。

 半ば呆れながら差し出す。おろおろしながらようやく手を握られた。よく考えたらこうやって手に触れられるのも初めてだ。
 そういえば今日、外来の看護師にこの前飯行った時に見かけたって言われたんだよな。
 付き合ってるって言ったら、それにしては距離があったと鋭い指摘を受けた。距離はあるだろ……実際付き合ってねぇんだから。
 じゃあどうしろっていうんだ。距離を縮めるには……手ぐらい繋いだらいいのか。

 手を繋いで歩く。俺と九ノ瀬が? ……手なんか繋いで歩いたこともねぇな。今までそういう煩わしいのは避けてきたし。
 でもそれで九ノ瀬が少し慣れてくれるならいいか。

「じゃあ、次から手繋いで歩けるな」

 平気だと言う九ノ瀬にそう言った。まだ動揺していたが、飯に行く約束も取り付けた。また外でも会える。今度は手を繋いで。
 つーか、一度は抱きしてんだからもう1回抱きしめたって大丈夫なんじゃねぇの?

 そんな思いが頭を過ぎった。抱きしめようかと手を広げたが、躊躇って一向にさせてはくれない。
 さすがに無理か、そう思って背を向けたのに、九ノ瀬の方から俺に抱きついてきた。

 暫くずっと。なんだよ……平気じゃん。佐藤先生にはこの病院にいる間に触れられるかわかんねぇって言ったけど……もっと距離を縮められるかもしれない。
 そう思ったら、これを毎日の日課にしようと提案していた。
 
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