【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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再会

【41】

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 笑いながら上を向くと、今まで白いシャツしか視界に写っていなかったのに、彼の綺麗な瞳とぶつかる。
 ダリアさんに似ている青みがかった薄茶色の瞳。くっきりとした二重に瞼の間隔の狭い平行に近い眉。そこからすっと真っ直ぐ流れるような曲線の鼻。絵に描いたかのように鼻筋が、浮き出て見える。

 人の顔って下から見てもこんなに綺麗なもんなんだ。
 重力で下がった顎の下の肉や、頬の下がり具合がもっと歪めて見せてもよさそうなものだが、彼に至っては通常と変わらない。それよりも、いつもとは違う角度からの彼が一段と綺麗に見えたりもする。

 目が合った状態のままでいれば、背中に腕を差し込まれて、上半身が起き上がる。その腕に身を任せた私は、彼に抱えられるようにして、そのまま体を後ろに移動させられた。
 ちょうど彼の腿の間に横向きで座るような形で、すっぽりとおしりがはまっている。

 より一層近付いたその顔に、心拍数が上昇する。つい今まで一緒に笑っていたのに。ほんの少し目を伏せる彼の表情が何となく寂しそうで、急に私も寂しくなる。
 この楽しい時間ももうすぐ終わり。2度と会えなくなるわけじゃないとわかっていても、永遠の別れかのような錯覚に陥る。

 彼の顔が近付いて、そっとキスをされた。懐かしい気がする。ここ数日間、あまねくんのマンションで一緒に過ごしたけれど、雅臣のことがあって、ほとんど甘い雰囲気にはならなかった。
 だから、キスをするのだって実際には久しぶりと言っても過言ではない。

 彼の温もりを感じると、離れることの不安もあり、反対に安心感ももらえる。
 何の根拠もないのに、私達ならきっと大丈夫、そんなふうに思えた。

 そのままぎゅっと抱きしめられて、数十秒間。彼の匂いと体温を覚えていられるよう、堪能するかのように大きく鼻から息を吸い込む。爽やかで甘い匂いが鼻腔を駆け上がっていく。肺の中が彼の匂いでいっぱいになった気がする。
 そんな幸せも束の間。あまねくんは、私の体を解放すると「そろそろ行こうか」と言った。

 幸せな時間は終わった。このアパートも明日でさようなら。もう来ることはなくなるであろうこの部屋。7年間ここで過ごした思い出の場所。
 雅臣よりも付き合いが長かったこの場所。

 今まで、ありがとう。とても住み心地がよかったです。お気に入りの日向ぼっこは最高でした。備え付けの8つの正方形のラックは、バスタオルを仕舞うのにも、日用品を仕舞うのにも適していました。
 浴室の壁は、大理石を模造したようなデザインで、とてもオシャレで一目惚れをしました。
 寝室は広くて、服をたくさん仕舞うために追加で購入したクローゼット2つを並べても、窮屈さを感じない程快適に過ごせました。
 三面鏡のライトは、化粧ノリを確認するには好都合でした。収納も申し分なく、たくさんのスキンケア用品が全て収まり、使い勝手がよかったです。

 この物件を笑顔で紹介してくれたお姉さん、ありがとう。きっと私は、当時のあなたくらいの年齢になりました。
 新築がいいと言い張った私に、こんな素敵な物件を紹介してくれました。

 本当に、ありがとう。

 心の中でお礼を言って、立ち上がる。あまねくんが立ち上がるのを待っていると、ふわっと風が吹いたような気がする。
 窓、開けてたかな? 慌ててリビングの窓をみるが、ピッタリとしまっている。そこに写るのは、屋内の照明に照らされて、鏡のように写し出されている私とあまねくんの姿。それと、重たい家具だけ。

「どうかした?」

「ん? 何か、一瞬風が吹いたような気がしたの」

「まさか」

「……ね」

 立ち上がったあまねくんと一緒に部屋を後にする。あまねくんは、はっとしたように顔を上げ、外側からカーテンのなくなったリビングの窓を見上げた。

「どうしたの?」

 今度は私が聞き返す。

「そう言えばさ、カーテン外して電気つけてたから、外から中丸見えだよね?」

「え!? 嘘!?」

「まあ、ベランダの囲いがあるからソファーの位置までは見えないと思うけど」

 苦笑を浮かべている彼。全く気にせずまったりと過ごしてしまった。わざわざ囲いの隙間から覗く人間もいないだろうと自分に言い聞かせながら、羞恥心を抱えて実家までの帰路を急いだ。
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