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嫌いなアイツ
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会計を済ませた凪は、最後まで不服そうにしながら店を出ていった。千紘は店の外に出て凪に手を振ったが、彼が振り返ることはなかった。
「成田さん、お客さん待ってます」
「うん。行くよ」
呼びにきたアシスタントに軽く流し目で返事をした千紘は、うっとたじろぐその体を横切って成田ブースへと入っていった。
凪に接客していたことで待たせていた自分の客は数人並んでいる。全員カット待ちだ。
「皆、平等。凪だけ特別」は嘘ではない。今までずっとあの髪に触れたくても触れられなかったのだ。米山がカットするのを横目に軽く舌打ちするほど気に入らなかった。
どの客も自分を指名してくれる客は大事な存在。ただ、凪だけは誰とも同じ位置に置けなかった。
「今日も成田さん指名したいってお客さんいたよ。1年待ちだって言ったらじゃあいいって言ってたけど」
きっかけは米山のその一言だった。千紘は顔をしかめて「1年? 新規ならどっか入れても良かったですけど」と片付けをしながら言った。
「でもスケジュール埋まってたよ? 今月中にやりたいってことだったから俺が担当しようと思って」
「そうですか……。じゃあ、お願いします」
千紘はそう言ってその予約を米山に任せた。こうして予約が流れることは度々あった。人気美容師の千紘の予約が取れないのは仕方のないこと。ただ、プロ意識の高い千紘は、自分の技術を求めてくれる客には全員平等に提供したいと思っていた。
それを千紘に相談なしに流されるのは気に入らない。しかし、近々で予約が入れられないのが現状で諦めるしかないのも確かだった。
そんな中、やってきたのが凪だった。パッと目を引く整った容姿。千紘の指名客の中には芸能人やモデルもいた。イケメンと言われている男性客は多く存在していた。
しかし、千紘は自分の客を恋愛対象として見た事はなかった。そこに情が湧けば仕事がしにくくなる。体の関係だけに発展すれば仕事が減る。
メンズカット専門になったのも、女性客には触れたくない。好意を抱かれたくない。そんな単純な私情ではなく、自分の技術で男として自信を持てる人間を増やしたかったからだ。
千紘は今でこそ自分の容姿を気に入ってはいるが、昔はその中性的な見た目が嫌いだった。
恋愛対象が同性だと気付いたのは中学生の時。クラスメイトの男子とじゃれ合っているときに胸がときめいたのがきっかけだった。
ただ、そんな相手に「女みたいな顔してる」と言われる度に異性と比べられる屈辱を味わった。
「成田さん、お客さん待ってます」
「うん。行くよ」
呼びにきたアシスタントに軽く流し目で返事をした千紘は、うっとたじろぐその体を横切って成田ブースへと入っていった。
凪に接客していたことで待たせていた自分の客は数人並んでいる。全員カット待ちだ。
「皆、平等。凪だけ特別」は嘘ではない。今までずっとあの髪に触れたくても触れられなかったのだ。米山がカットするのを横目に軽く舌打ちするほど気に入らなかった。
どの客も自分を指名してくれる客は大事な存在。ただ、凪だけは誰とも同じ位置に置けなかった。
「今日も成田さん指名したいってお客さんいたよ。1年待ちだって言ったらじゃあいいって言ってたけど」
きっかけは米山のその一言だった。千紘は顔をしかめて「1年? 新規ならどっか入れても良かったですけど」と片付けをしながら言った。
「でもスケジュール埋まってたよ? 今月中にやりたいってことだったから俺が担当しようと思って」
「そうですか……。じゃあ、お願いします」
千紘はそう言ってその予約を米山に任せた。こうして予約が流れることは度々あった。人気美容師の千紘の予約が取れないのは仕方のないこと。ただ、プロ意識の高い千紘は、自分の技術を求めてくれる客には全員平等に提供したいと思っていた。
それを千紘に相談なしに流されるのは気に入らない。しかし、近々で予約が入れられないのが現状で諦めるしかないのも確かだった。
そんな中、やってきたのが凪だった。パッと目を引く整った容姿。千紘の指名客の中には芸能人やモデルもいた。イケメンと言われている男性客は多く存在していた。
しかし、千紘は自分の客を恋愛対象として見た事はなかった。そこに情が湧けば仕事がしにくくなる。体の関係だけに発展すれば仕事が減る。
メンズカット専門になったのも、女性客には触れたくない。好意を抱かれたくない。そんな単純な私情ではなく、自分の技術で男として自信を持てる人間を増やしたかったからだ。
千紘は今でこそ自分の容姿を気に入ってはいるが、昔はその中性的な見た目が嫌いだった。
恋愛対象が同性だと気付いたのは中学生の時。クラスメイトの男子とじゃれ合っているときに胸がときめいたのがきっかけだった。
ただ、そんな相手に「女みたいな顔してる」と言われる度に異性と比べられる屈辱を味わった。
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